愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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運命の足音

不穏

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「そうだ、今すぐ手配しなさい!そう、そうだ!早く!……ああ、そうだ。祝の品と花もすぐに!」


朝、ロメリアが未だ深い眠りについていると、いつもは静かで優しい父の、大きな声を耳が拾った。


(一体、なんなのかしら……?)


ロメリアは、そっと寝台から起き出して扉の前で耳をそばだてる。廊下からはバタバタと何人もの人が駆ける音。話す声。しかし会話の内容までは聞き取れない。


窓を振り返ると、まだ空は白んでいた。


いつものロメリアなら「もう少し寝ていられる」と嬉々として寝台に戻るのだが、今日ばかりは何故そんなにも慌ただしくしているのか気になって、扉を開けた。


「お、お嬢様!」


廊下へ出るとすれ違う使用人達が目を剥く。慌ただしくしてしまったせいで、ロメリアを起こしてしまったとなれば主人が怒るに違いない。とそう思い、皆が皆、顔を真っ青にした。

それを察したロメリアは「お父様の大きな声で起きちゃったの」と笑う。


使用人達は安堵のため息を吐いた。


「それで、何があったの?」


その問いかけに、使用人達は笑顔になって「実は……」と答えようとした矢先に口を噤んだ。


「ガブリエル殿が、騎士の称号を得た」


使用人達の言葉を継いだのは父─公爵だった。


「お父様!……それ、本当?」
「ああ、そうだよロメリア。しかもだな」
「?」
「王女直属の騎士だそうだ!大出世だぞ!」
「……」
「やはり彼には並々ならぬ実力があったのだな。彼は真面目で剣技も並外れていると、優れた評判は聞いていたが……まさか、こんなにも早く王女様付きの騎士になるとは」

大喜びをする公爵を前に、ロメリアはぐっと何かが喉を圧迫するような心地になった。

いや、心地になったのではない。

本当に、何かに圧迫されているみたいだ。全ての輪郭がぼやけて、霞む。

ここ最近断続的だった頭痛が怒涛のごとく、ロメリアに押し寄せる。まるで何かを詰め込んでいるかのように。

そして、いよいよ身体が不可解な音をたてて軋んだ。

「……うっ」 
「……っ……ロメリア!!」

身体が床へ倒れる。

痛い。痛い、痛い、痛い、痛い!!

身体中に激痛が走る。

口からは血の味がした。目の前は真っ赤に染まっていた。耳から入る全ての雑音が針のようにロメリアの身体中に刺さった。

全ての感覚が、針のように、毒のように、ロメリアを侵す。

「ぐっ……ぅう」 

尋常ならざる汗がその額に伝うのを見て、公爵は怒号をあげる。

「早く!早く医師を呼べ!」

屋敷中は騒然として、ガブリエルの騎士任命どころではなくなってしまった。
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