愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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藤色の花木は (ガブリエルside)

3つ目のブローチ (ガブリエルside)

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「狭いお店で申し訳ございません」

マリアは謙虚に言って「どうぞ、ごゆっくりお選びになってください。もし何かお聞きになりたいことがございましたら、なんなりと」と朗らかに宣う。

「……若い女性が好みそうなブローチを何点か見せていただきたい」
「かしこまりました。とはいえ、ブローチもたくさんモチーフがございまして……例えばお花ですとか、鳥ですとか……失礼ですが、ご婚約者様の好きなモチーフは何かお分かりになられますか?あるいはお色などは?」 
「……鳥も花も好きだ。色は暗い色は好まない」
「左様でございますか。でしたら少しお待ち下さい。……奥を見てまいりますので」

マリアは微笑んで、店奥の扉の向こうへ消えていく。

ガブリエルは不意に、今この場にロメリアがいたら「私は暗くて地味な色以外ならなんでも似合うのよ!だから心配しないで!」とでも言いそうだな。

と、そんなことを思った。

「……驚いた。どうしたんだ、急に笑ったりして」

いつのまにか横に立っていたリュダが顔を覗き込んでくる。

「……笑ってなどいない」
「え、いや……普通に笑ってたけど」

食い下がってくるリュダを無視して、ガブリエルは店内を少し歩いた。ブローチ以外にもたくさんのブレスレットや指輪、ネックレス、カメオが置かれている。どれも素晴らしいと思えるものだが……正直言って、ロメリアが好みそうなものがどれなのか一向によく分からない。じっと見ているとどれもこれも同じもののように思えてくる。

そんな風に考え込んでいると、再びリュダが近づいて茶々を入れてくる。

「どうです、旦那。気に入ったものはありましたかい」
「……分からない」
「うん、そりゃそうだろうな。でもそれは、男なら皆そうだよ。誰もが最初に通る道だ。ずっと見ていると全部同じもののように思えてくる。だけど、女性にとっては、細かな装飾の違いでそれらが全部違うものに見えるんだ」
「……そうか」
「うん。だから、慎重に選んだ方がいい」

そう言いながら、リュダは「ふふん」と鼻を高くする。ガブリエルはそんなリュダの言葉を大真面目に聞き、何点かのブローチを見ていたが、決め手に欠けるものばかりで、やはり自分には宝飾品を選ぶのは向いていないのだろうと実感し始めていた。

そこへ、マリアが銀色のトレーにベルベットの生地を被せたものを持って、戻ってくる。

「奥にもブローチがございましたので、もしよろしければご確認いただけますか?」
「……」

即されて、ガブリエルは慎重にトレーに被されたベルベットの生地をめくった。

中には3つのブローチが入っていた。

1つ目は緑黄色の葉をモチーフにしたブローチ。
2つ目は真紅の薔薇をモチーフにしたブローチ。

そして3つ目は──……。

ガブリエルの手は、自然とその3つ目のブローチへと伸びた。
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