愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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藤色の花木は (ガブリエルside)

ブローチ (ガブリエルside)

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だが、母親から譲り受けたブローチを小さな手で撫でる彼女があまりに無垢で……。

「……ブローチはどうだろうか」

提案すると、リュダは意外そうにしながらも「うん」と1つ頷いた。

「いいんじゃないか?若いご令嬢には華やかな色合いのブローチの方が似合うと思うぞ。よし、おにぃさんがついて行ってやろう」

リュダは完全に面白がっている。それを分かっていてなお、ガブリエルは「頼む」と短く頭を下げた。

世間にも、まして流行にも疎い自分では碌なものが選べない。

「いいってことよ!じゃあ、まず……そうだな……あっちに行こう!」

嬉々として早足に歩き出すリュダの後ろをガブリエルは遅れることなくついて行く。

リュダとガブリエルは、訥々と話しながら、大通りから外れた狭い路地を通り、そこからまた少し歩いて、大きな工具屋の前を通り過ぎたところを左に曲がっていく。

「もうすぐそこだ」

と、彼が宣言した通り、小さいながらもしっかりとした構えの店がポツリと開けた道の先に、あった。

外装は一見して地味なように見えるが、その実至る所に壮麗な装飾が施されている。看板にはシンプルな店名「エリオット」の文字。

「ここは、すごく趣味の良い宝飾品店だ。きっといいのが見つかるはずだ」

リュダがぱちりと器用に片目を閉じて、ガブリエルを導く。

扉を開くとカランと乾いたようなベルの音がなった。

「……ようこそ、いらっしゃいました。まあ、リュダさん。またいらっしゃってくださったんですか」

出迎えてくれたのは、品の良い老婦人だった。
 
 白髪を紺青のバレッタで止めていて、ドレスもバレッタの色に合わせて落ち着いた青。彼女の身に纏うものを見るだけで、その美的感覚が非常に優れていると察することが出来る。

「やあ、夫人。今日は友人を連れてきたんだよ」
「まあ、まあ……」


老婦人は、嬉しそうに目元に皺を寄せながら優雅に礼をする。

「お初にお目にかかります。私、マリア・レツェリネと申します」

ガブリエルもその礼に答えて名を名乗った。互いに名乗り終えると、リュダがさっそく本題をマリアに告げる。


「今日は、彼が婚約者の見舞いにブローチを贈りたいと言い出してね」
「まあ……それは大変お珍しいこと」
「うん。珍しいよね。でも、もう花は何度も送ったらしくてね。だから別のものをと思ったらしいんだ。協力してやってよ」
「もちろんでございます。さあ、では……ガブリエル様。奥へどうぞ」

案内されるまま、ガブリエルは店の奥へ歩く。外観からはそれほど広くないように見えたが、奥行きは相当あるらしかった。

「……この扉の先でございます」

マリアが玻璃の扉を開くと、宝飾品の並んだ棚がずらりと並ぶ空間へ出た。
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