愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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覚悟

空いた記憶

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物語的には、山場と言える部分。

だが、不思議なことにその山場となる場面をロメリアは思い出せないでいた。

前世の記憶にも、悪夢にも…物語が結末へと向かうための非常に重要な場面は登場しなかった。

その場面を確かに読んだはずなのに、なぜか思い出すことが出来ない。
まるで、思い出してはいけないと強制的に思考を止められるような不快感に襲われ、それに気を取られているうちに思い出せたはずの場面が白くなって消えている。

今も、思い出そうとするが……どうしても頭の中が霧に包まれたように不明瞭になり、思い出せない。


「……国に降りかかる困難が何だったのか、そこまでは分からないけれど。でも、あなたとマリエンヌ様が心を通わせて、その困難に打ち勝つことだけは分かっている」
「……」

こいつは何を言っているんだ。と思われても仕方のないことを断言しているというのに、ガブリエルは真剣な面持ちのままで何かを考えていた。

(……もっと、何か言った方がいいのかしら)

だが、今のところはもう言いたいことは言ったような気がする。例え言葉を重ねたとして、自分に足せる説明は何かあるだろうか。

(……例えば身近に起きうることを当てて見せるとか?)

だが、物語の全容は分かるが時系列など細かいことは覚えていない。適当なことを言って外れてしまえば、ロメリアの言うことは嘘だということになってしまう。それでは困るのだ。

だから今は、無用な言葉は避けるべき。

後は、ガブリエルが選択するのを待つしかない。

ロメリアの言う言葉を、彼が世迷い言だと結論づけたとしても、王女との幸せな未来の可能性を信じるのなら……彼女を想う気持ちがあるのなら、ガブリエルは今すぐここから去るべきだ。

「……思うところがある。いいだろうか」

唐突なガブリエルの問いかけに、ロメリアは首を傾げながら先を即す。

「私は君の言うことが嘘だとは思わない」

はっきりと言い切る彼に、ロメリアは目を見開く。正直なところ半信半疑であっても十分だと思っていたのだ。それなのに断言する。

彼がそう言うのだから、彼は本当にロメリアの言葉を嘘だとは心の底から思っていないのだろう。

(……だけど、どうして?)

ロメリアの考えていることが分かったのか、ガブリエルは一瞬視線を花木の枝にやってから、口を開く。

「君がこんなにも痩せ細ってしまった理由は……このことか?」

このこと、というのはつまり、ガブリエルとマリエンヌが結ばれる運命にあることを知っているからか。という意味だろう。

ロメリアは頷いた。

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