愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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覚悟

安堵

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「……そうよ」
「不治の病ではないのだな」
「うん」

ロメリアが頷くところを見て、ガブリエルは心底安堵したように、身体にわだかまっていた緊張を解いて、ロメリアの乾いた水色の髪を撫でた。

「君がこのように痩せ細ってしまった原因に対して、愚かと蔑んだり、奇異だとして嘲笑ったりするようなことはしない」
「……うん」 

冷えた手が髪を滑り、そして頬へと流れる。湖面の瞳に感情めいたものは見えなくなったが、浮かべる表情はやけに柔らかく見えるのは気のせいだろうか。

「だからといって、不思議に思わないわけではないが……」
「今の話を不思議に思わない方が可笑しいわ」

もしこれで「そうか、よくわかった。君の言うことを全て信じよう」などと言われたほうがよほど居心地が悪いし、口先だけのように聞こえて信用ならなくなってしまう。

「……不思議に思うのはいいのか?」
「信じて欲しいと願っただけで、不思議に思うことも駄目だなんて酷なことは言わないわ」
「……ありがとう」
「どうしてお礼を言うの?」
「それは……」

ガブリエルは何故、自分がお礼を言ったのかその理由を考えているようだった。思案に耽る顔をじっと見つめていると、ふいに湖面の瞳が揺らぐ。今日は彼の心に幾度も風が吹いているのか。この瞳がこんな風に何度も揺れるところを、ロメリアは今まで一度も見たことがない。

「君のことを話してくれたから」 
「私はいつも自分のことばかり話していたじゃないの……。もう、うんざりしているのかと思ったわ」

ガブリエルは静かに首をふる。その髪に藤色の花弁がついていたので、ロメリアはそれをつまんで、風に返してやった。

「そんなことはない」
「ふぅん」
「私はいつも君の声を聞いていた」
「私が聞かせていたのよ」

ロメリアがそう言うと、ガブリエルはふと笑みのようなものを浮かべた。あくまで笑みのようなものであって、それが本当に笑みだったのかどうか、ロメリアには分からない。

ふいに、腰に回る腕の力は変わらないままだが、ガブリエルの表情が固くなる。


「……君の言うことを、私は疑わない」
「うん」
「王女殿下と私が結ばれる運命にあるということを、私は事実として受け止めよう」
「……うん」
「その上で言わせて欲しいことがある」
「なぁに」

気弱な返事をするつもりもなかったのに、ロメリアは視線を伏せて、身体を小さくした。もこもことした小さな羊が蹲るようなその姿に、ガブリエルは何を思ったのか腰に回した腕の力を強くする。
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