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エピローグ
しおりを挟む角鹿クラウドは陰陽師である。
映画やゲームのおかげで知名度があがったが、大体が魔法使いの一種と思われることが多い。
実際はどうなのかと問われると、返事には困る。
人による。
そうとしか答えられないからだ。
元々、陰陽道は天文学であり、古代科学だ。
日本に伝わり、仏教や原始呪術、種々の神術と融合した結果、陰陽術が生まれた。クラウドが受け継いだ角鹿流もそのひとつであり、他流については通り一遍の知識しかない。いずれの流派も、詳しい術式は門外不出に決まっている。
だから、『陰陽師』と一言で括られても種々あるとしかいえない。
うどん屋だって鮨屋だって、店が違えば、同じ名前の料理でも違うものが出てくるはずだ。同じことである。
ともかく。
クラウドは陰陽師だ。
古来、陰陽師を雇うのは権力者と決まっている。
山城が出勤していった後、クラウドは悠然と事務所に入った。事務所は自宅の一階に設えてある。
とりあえず、夜の間に溜まっていたメールチェックから仕事を開始した。思った通り、クライアントから連絡が入っていた。
山城が符を砕いた相手だ。
地方選挙出馬に向けた、星脈強化の術。
そのための符だったのに、山城に砕かれて台無しになってしまった。 あの日、あの場所で受け渡しをすることにも意味があったのに、まさか麻薬の密売人扱いされるとは思わなかった。
結果として、山城が酷い目に遭っているのは自業自得の極みだ。
それはともかく、クラウドはクライアントのフォローをしなくてはいけない。
メールに返信をし、次善の符を作るために暦を開いた。
星脈というのは角鹿流が使う文言で、人が生まれ持った星の力のことを言う。生れ年と星回りを地図のように表現した宿図を以て様々な術法を施すことができるのだ。
クライアントの星脈を占盤に出しながら、山城のことを考えた。
山城清澄警部補。星脈を壊し、すべての運を失った男。
クラウドに声をかけてきた時、彼の星脈は無事だった。つまり、この状況も宿命だったと考えるべきなのかもしれない。
壊れた星脈に他人のものを飲み込み、『夢』に見るなんて、考えたこともなかった。星脈は絶対のものだ。壊れたら大変なことになる。
だが、壊れた星脈を自在に操れるとしたら。
自分の術として確立したくなってしまっても仕方がない。クラウドは陰陽師だ。角鹿流を継いでまだ日も浅い。腕を磨いていく途中であることは自分が一番わかっている。
「……ちょっと、楽しみになってきたかもしれない」
クラウドはこっそり呟き、算木を動かした。
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