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4章 凱旋と旅
6話 セリーの生活
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※セリー視点のお話です。
ケルビンとお別れした後、真新しい装備に身を包んだあたしはいつもの狩場へ直行する。
スターテルの町から西に出てすぐにある角ウサギが出る小さな丘。ここは角ウサギくらいしかいないし数も少ないため人気も少なく、ソロにはちょうどいい狩場なの。
しばらく歩いて探してみると、木陰で後ろを向いてモゴモゴしている奴がいる。よし、あれを狙おう。
鉄の槍を構えて深呼吸すると、そぉーっと慎重に近づいた。
ハーフレザーアーマーとシールド篭手に守られている分、いつもとはまるで違う安心感がある。
五メートル程寄ったところで角ウサギがピクッとした。こっちに気づいて突進してくる。今までならまずかわすのが最優先。回り込みながら叩くように木の槍で攻撃していたのだがこれからは違う。
「えいっ!」
思い切って左足を踏み出し正面から槍で突く。
――ザシュッ!
だが突き出された鋭い鉄の槍先は、魔物に直前でかわされた。体を浅くかすっただけだ。
うわっ!? はずしちゃった!
そのまま硬い角を立てて、鋭くこっちへ突っ込んでくる!
「くっ!」
必死に体をひねりながら膨れた篭手でガードする。
――ダァーン!
「わっ!」
腕と体に重い突進の衝撃が走った。
――痛っ……く……ない?
一、二歩後ろに押されるほどのダメージがある。体当たりされた衝撃はもちろんあるが、それだけだ。
これならいける!
体当たりの後、距離を取ってこちらを威嚇する角ウサギ。その体からは僅かだが血が落ちている。鉄の槍は確実に相手にダメージを与えているのだ。
……あたしでもやれる。
ふーっと大きく息を吐くと腰を落として槍を構える。
再び突っ込んでくる一角ウサギにセリーは落ち着いて鋭い突きを放った。
「やったー!」
午前中一匹、午後から一匹。
一日に二匹の角ウサギを狩れたのだ。初めての快挙にセリーはガッツポーズだ。今までに無い嬉しさと充実した気持ちを感じていた。
ケルビンさん、本当にありがとう。
これならあたしでも十分やっていけそうだわ。
まだまだ体力と時間にも余裕はあったが、まだアソコにケルビンの存在を感じている。今日はこれくらいで休みにしよう。また明日狩ればいいのだから。
セリーは喜んで冒険者ギルドに報告した。
――数日後。
いつものように冒険者ギルドで角ウサギを取り出した。狩った角ウサギはキチンと解体して収めているのだ。
「今日も角ウサギ二匹ね。セリーさん。いつも綺麗に解体してあって助かるわ。はい銀貨一枚ね、このままなら間違いなくEランクに昇格するわ、無理せず頑張ってちょうだいね」
モニカさんから銀貨を手渡された。
「うん、ありがとうモニカさん、無理しないで頑張るわ」
それから併設された酒場のカウンターに座るといつもの果実酒とウサギ肉炒めを注文して大銅貨を一枚置いた。
あれから毎日、狩りの後はこのコースだ。冒険者ギルドでお酒を飲んで夕食を済ます様になっていた。そんな行いも憧れの、一人前の冒険者の証だ。
「あいよ、セリーちゃんいつもより少し多めにしといたぜ」
「ふふ、ありがとうマスター。気持ちだけ受け取るわ」
マスターは口癖のように同じ言葉を言うが、実は量はいつもと同じだ。最初はその言葉を信じて感謝していたのだが、誰にでもそう言って料理を出しているだけだった。そんなお調子者のおっさんとの軽口も最近ではすっかり馴染んできた。
「おっセリー相変わらず切り上げるのが早いね、マスター私もブドウ酒とウサギ肉炒めね」
「あいよ」
そう言って大銅貨を置くと慣れたように隣の席に女が座る。ここ数日仲良くしているソロEランク冒険者のマニエルさんだ。
彼女は剣と盾を使う正統派の冒険者で、緑の長い髪をポニーテールにしたキリっとした感じの17歳の女性だ。身長は165cm位あり同じように角ウサギを狩り生活している。冒険者の剣(Eランク)とハーフレザーアマーマー(Eランク)革の盾(Fランク)を装備する。今は冒険者の盾(Eランク)を買うために貯金をしている堅実派だ。
「マニエルさんも早かったじゃない。今日は早めに上がったの?」
「何とかノルマの三匹取れたしね。無理はしないのが私のモットーさ、はいお疲れさん」
「はい、お疲れ様」
二人で果実酒のジョッキを合わせて乾杯する。
マニエルは美味しそうにぐぐっと飲むとふーっと息をはきコップを置いた。
「あーーこの一口がたまんないねぇ。ところでセリー、戦の話は聞いたかい」
「うん、例のトレビア軍が北砦に攻めて来てるって話でしょ」
最近噂になっている戦の話だ。北のトレビア伯爵領とこのスターテルの町の領主が争いになっているそうだ。領地を拡大し続けるトレビア家とは元々小競り合いはあったのだが、最近明確に多くの軍隊が領地を超えて侵入してきているそうだ。
シルバンデルグ王国とは言っても所詮は小領主の寄せ集めだ。領地や利権を巡っての争いはいたるところで起きている。貴族同士の話なのでよそで勝手にやってくれと思うのだが、町に軍隊が入ってこればそうは言っていられない。
スターテルの町の領主も戦力を集める為、当然冒険者ギルドにも兵役募集の要請があるのだ。
「どうだいセリー、あたいと一緒に討伐軍に参加しないか」
「えー。やだよ、そんなの、あたしは角ウサギの相手がいいの。人と戦うなんて絶対嫌」
嫌と言うか絶対に無理だ。
「やっぱりな。セリーならそう言うと思ったよ。ウソウソあたいもそんなの御免だ。でも無理やり徴兵されるかもって話だぜ。そうなる前に安全な町に移動した方がいいと思ってね、一緒にいかないかい」
マニエルが本題を切り出した。
ケルビンとお別れした後、真新しい装備に身を包んだあたしはいつもの狩場へ直行する。
スターテルの町から西に出てすぐにある角ウサギが出る小さな丘。ここは角ウサギくらいしかいないし数も少ないため人気も少なく、ソロにはちょうどいい狩場なの。
しばらく歩いて探してみると、木陰で後ろを向いてモゴモゴしている奴がいる。よし、あれを狙おう。
鉄の槍を構えて深呼吸すると、そぉーっと慎重に近づいた。
ハーフレザーアーマーとシールド篭手に守られている分、いつもとはまるで違う安心感がある。
五メートル程寄ったところで角ウサギがピクッとした。こっちに気づいて突進してくる。今までならまずかわすのが最優先。回り込みながら叩くように木の槍で攻撃していたのだがこれからは違う。
「えいっ!」
思い切って左足を踏み出し正面から槍で突く。
――ザシュッ!
だが突き出された鋭い鉄の槍先は、魔物に直前でかわされた。体を浅くかすっただけだ。
うわっ!? はずしちゃった!
そのまま硬い角を立てて、鋭くこっちへ突っ込んでくる!
「くっ!」
必死に体をひねりながら膨れた篭手でガードする。
――ダァーン!
「わっ!」
腕と体に重い突進の衝撃が走った。
――痛っ……く……ない?
一、二歩後ろに押されるほどのダメージがある。体当たりされた衝撃はもちろんあるが、それだけだ。
これならいける!
体当たりの後、距離を取ってこちらを威嚇する角ウサギ。その体からは僅かだが血が落ちている。鉄の槍は確実に相手にダメージを与えているのだ。
……あたしでもやれる。
ふーっと大きく息を吐くと腰を落として槍を構える。
再び突っ込んでくる一角ウサギにセリーは落ち着いて鋭い突きを放った。
「やったー!」
午前中一匹、午後から一匹。
一日に二匹の角ウサギを狩れたのだ。初めての快挙にセリーはガッツポーズだ。今までに無い嬉しさと充実した気持ちを感じていた。
ケルビンさん、本当にありがとう。
これならあたしでも十分やっていけそうだわ。
まだまだ体力と時間にも余裕はあったが、まだアソコにケルビンの存在を感じている。今日はこれくらいで休みにしよう。また明日狩ればいいのだから。
セリーは喜んで冒険者ギルドに報告した。
――数日後。
いつものように冒険者ギルドで角ウサギを取り出した。狩った角ウサギはキチンと解体して収めているのだ。
「今日も角ウサギ二匹ね。セリーさん。いつも綺麗に解体してあって助かるわ。はい銀貨一枚ね、このままなら間違いなくEランクに昇格するわ、無理せず頑張ってちょうだいね」
モニカさんから銀貨を手渡された。
「うん、ありがとうモニカさん、無理しないで頑張るわ」
それから併設された酒場のカウンターに座るといつもの果実酒とウサギ肉炒めを注文して大銅貨を一枚置いた。
あれから毎日、狩りの後はこのコースだ。冒険者ギルドでお酒を飲んで夕食を済ます様になっていた。そんな行いも憧れの、一人前の冒険者の証だ。
「あいよ、セリーちゃんいつもより少し多めにしといたぜ」
「ふふ、ありがとうマスター。気持ちだけ受け取るわ」
マスターは口癖のように同じ言葉を言うが、実は量はいつもと同じだ。最初はその言葉を信じて感謝していたのだが、誰にでもそう言って料理を出しているだけだった。そんなお調子者のおっさんとの軽口も最近ではすっかり馴染んできた。
「おっセリー相変わらず切り上げるのが早いね、マスター私もブドウ酒とウサギ肉炒めね」
「あいよ」
そう言って大銅貨を置くと慣れたように隣の席に女が座る。ここ数日仲良くしているソロEランク冒険者のマニエルさんだ。
彼女は剣と盾を使う正統派の冒険者で、緑の長い髪をポニーテールにしたキリっとした感じの17歳の女性だ。身長は165cm位あり同じように角ウサギを狩り生活している。冒険者の剣(Eランク)とハーフレザーアマーマー(Eランク)革の盾(Fランク)を装備する。今は冒険者の盾(Eランク)を買うために貯金をしている堅実派だ。
「マニエルさんも早かったじゃない。今日は早めに上がったの?」
「何とかノルマの三匹取れたしね。無理はしないのが私のモットーさ、はいお疲れさん」
「はい、お疲れ様」
二人で果実酒のジョッキを合わせて乾杯する。
マニエルは美味しそうにぐぐっと飲むとふーっと息をはきコップを置いた。
「あーーこの一口がたまんないねぇ。ところでセリー、戦の話は聞いたかい」
「うん、例のトレビア軍が北砦に攻めて来てるって話でしょ」
最近噂になっている戦の話だ。北のトレビア伯爵領とこのスターテルの町の領主が争いになっているそうだ。領地を拡大し続けるトレビア家とは元々小競り合いはあったのだが、最近明確に多くの軍隊が領地を超えて侵入してきているそうだ。
シルバンデルグ王国とは言っても所詮は小領主の寄せ集めだ。領地や利権を巡っての争いはいたるところで起きている。貴族同士の話なのでよそで勝手にやってくれと思うのだが、町に軍隊が入ってこればそうは言っていられない。
スターテルの町の領主も戦力を集める為、当然冒険者ギルドにも兵役募集の要請があるのだ。
「どうだいセリー、あたいと一緒に討伐軍に参加しないか」
「えー。やだよ、そんなの、あたしは角ウサギの相手がいいの。人と戦うなんて絶対嫌」
嫌と言うか絶対に無理だ。
「やっぱりな。セリーならそう言うと思ったよ。ウソウソあたいもそんなの御免だ。でも無理やり徴兵されるかもって話だぜ。そうなる前に安全な町に移動した方がいいと思ってね、一緒にいかないかい」
マニエルが本題を切り出した。
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