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その2
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ターン騎士領はサースの町から南におよそ八十kmくらい進んだ所にある、小さな村落らしい。
ニース大湖の西端から流れた水が山に当たり沿うように南へ流れていく。これがニース川だ。谷のような入り組んだ場所をずっと進んだその先に、少しだけ切り開かれた平地があり、人が住みつき村が出来た。
そんな小さな騎士の村がニース川沿いに九個もある。
九人の騎士が治める領地があるのだ。
ターン家はその中の一つだ。周辺も全部似たような状況らしい。少し南に行くと巨人の山だ。えらい所に村を作ったな。
大昔は貴族の息子らが新しい領土を認めて貰い、騎士になるのが簡単だったらしい。一つ認められたので我も我もと群がって、九つも騎士爵が出来たようだ。
皆大体百、二百人前後の人口しかないらしい。
ターン家の村も百六十人位しか居なかったそうだ。
生活は厳しく山で狩りをし山菜を取り、川で魚や貝を取る。後は少しの農地を耕して、何とか生活しているそうだ。
それのどこが騎士なんだ?
特に変わった産業も無いため、お金を得るすべが無いらしい。うーん、これは全くどうしようもないな。
まさに自給自足の隠遁生活だ。水害で作物が取れなければすぐに詰んでしまうだろう。
ターン家の長男スローは跡継ぎの騎士見習いだ。次男クイックは村の名主と結婚した。
三男のクライフは十三歳で家を飛び出し冒険者として生きてきた。稼いだ金で四男ルーレットにも援助し、ルーレットも早めに家を出た。
五男マルセイユのため、マルセイユに直接お金を送っていたのだが、マルセイユも家を出たので、今はターン家とは縁は切れているのだ。
貴族の息子らは十五歳で成人すると、家の枠から離れて平民になるそうだ。
クライフ達もターンと名乗ってはいるが、実際には何の効力も無い。(貴族ではない)
ターン領の話を聞いて俺はしばし頭を抱えた。
「クライフ……これ、九つの村全部同じ状況じゃないのか」
「はい、その通りです。九あるうちの三つの村は、直接川沿いでは無いので被害は少ないかも知れませんが似たような物でしょうな」
「そうなるとクライフの所だけ援助するってわけにはいかんぞ」
「そうなのです。そこが一番難しいのです」
クライフもそれは悩んだそうだ。
うーん、これはどうしたもんかな。そもそも寄り親であるニース子爵の問題のような気がするしな。
あれっ? 今回のサイクロピスの対応も本当はニース子爵がするべきじゃないのか。
シースの町とスランの町もニース子爵の町だが、まるで何もしてないんじゃないか。
色んな疑惑が頭をよぎるが今はまあ、よしとしよう。
俺が手を出さないほうがいいような気がするな……うーん。
――その時はっと閃いた。
「よし、クライフとルーレットとホーニャンで行ってもらおうか。俺達は家来としてついていこう」
「えっどういう事でしょうか」
三人が不思議そうに俺を見る。
「寄り親でもない男爵の俺が行くと話がややこしい。だがクライフとルーレットなら元ターン家の人間だ。あくまで元ターン家の息子が嫁さんをを連れて里帰りしたって事なら、家来が何人か付いて来ても問題ないだろう」
「なるほど、そうですな。それならニース子爵も何も言えませんな。そもそも感心もないのでしょうが……」
クライフも大きくうなずいた。
「分かりました、エルヴァン様。でも私達が居なくなっていいのでしょうか」
家宰と家宰代理が、同時に町を離れることをルーレットが心配する。
「ああ、たまにはいいだろう。部下に仕事させるのも大事な事だぞ」
「そうですな……そうしましょう」
こうして俺達はクライフとルーレットの里帰りと言う名の視察に出かけた。
黒い馬車にシロックとグレックをつなぐ。タニアが御者をし、馬車にクライフ、ルーレット、ホーニャン、ソニアが乗る。俺とアルフィー、シルフィーがいつものようにブルックに乗り、ウエスタンとオスマンはきら星に乗る。つもりだ。
俺達が家来に見えるように。
今は馬車は収納して、シロック(大馬)にクライフ達三人。グレック(大馬)にルーレットとホーニャンが乗る。
留守はメルケルン達に任せて出発した。
「エルヴァン様、そう言えば商業者ランクがBランクになりましたので商業者カードを書き換えていきましょう」
商業者ギルドの前でルーレットが言う。
「そうか、あんまりランクが上がると目立つからそのままでいいんだが……」
「ははは、そうですか。そんな事は初めて聞きました。さすが英雄、スケールが違いますね。ではそのままにしておきますか」
ルーレットが楽しそうに笑ってそう言った。
ホーニャンは困ったような変な顔になり俺達を見る。
「ああ、こないだ町の入口でSランクの冒険者カードを出したら、皆が寄って来てもみくちゃになったんだよ。ウエスがガードしてくれたから良かったんだが、いなかったら大変だ。あれから商業者カードを出すようにしてるんだ」
「そうですか、英雄も大変なんですね。わかりました。では必要があればまた書き換えましょう」
そのままエアシルの町を出た。
イースの町からは大船に乗りサースの町で一泊する。もちろん《湖のほとり》に泊まって白パンなどを回収した。
「ここで、白いパンを仕入れていたのですね。確かに素晴らしい料理です」
「夕食も朝食も美味しかったですねぇ」
「うん、美味しかったー」
ホーニャン、タニア、ソニアも喜ぶ。
特にタニアやソニアは久々の旅なので嬉しそうだ。
いつもエアシルの町で働いてくれてるからな。
たまには旅行にも行けるよう、長期の休みもあげたいな。
はしゃぐ二人を見てそう思った。
ニース大湖の西端から流れた水が山に当たり沿うように南へ流れていく。これがニース川だ。谷のような入り組んだ場所をずっと進んだその先に、少しだけ切り開かれた平地があり、人が住みつき村が出来た。
そんな小さな騎士の村がニース川沿いに九個もある。
九人の騎士が治める領地があるのだ。
ターン家はその中の一つだ。周辺も全部似たような状況らしい。少し南に行くと巨人の山だ。えらい所に村を作ったな。
大昔は貴族の息子らが新しい領土を認めて貰い、騎士になるのが簡単だったらしい。一つ認められたので我も我もと群がって、九つも騎士爵が出来たようだ。
皆大体百、二百人前後の人口しかないらしい。
ターン家の村も百六十人位しか居なかったそうだ。
生活は厳しく山で狩りをし山菜を取り、川で魚や貝を取る。後は少しの農地を耕して、何とか生活しているそうだ。
それのどこが騎士なんだ?
特に変わった産業も無いため、お金を得るすべが無いらしい。うーん、これは全くどうしようもないな。
まさに自給自足の隠遁生活だ。水害で作物が取れなければすぐに詰んでしまうだろう。
ターン家の長男スローは跡継ぎの騎士見習いだ。次男クイックは村の名主と結婚した。
三男のクライフは十三歳で家を飛び出し冒険者として生きてきた。稼いだ金で四男ルーレットにも援助し、ルーレットも早めに家を出た。
五男マルセイユのため、マルセイユに直接お金を送っていたのだが、マルセイユも家を出たので、今はターン家とは縁は切れているのだ。
貴族の息子らは十五歳で成人すると、家の枠から離れて平民になるそうだ。
クライフ達もターンと名乗ってはいるが、実際には何の効力も無い。(貴族ではない)
ターン領の話を聞いて俺はしばし頭を抱えた。
「クライフ……これ、九つの村全部同じ状況じゃないのか」
「はい、その通りです。九あるうちの三つの村は、直接川沿いでは無いので被害は少ないかも知れませんが似たような物でしょうな」
「そうなるとクライフの所だけ援助するってわけにはいかんぞ」
「そうなのです。そこが一番難しいのです」
クライフもそれは悩んだそうだ。
うーん、これはどうしたもんかな。そもそも寄り親であるニース子爵の問題のような気がするしな。
あれっ? 今回のサイクロピスの対応も本当はニース子爵がするべきじゃないのか。
シースの町とスランの町もニース子爵の町だが、まるで何もしてないんじゃないか。
色んな疑惑が頭をよぎるが今はまあ、よしとしよう。
俺が手を出さないほうがいいような気がするな……うーん。
――その時はっと閃いた。
「よし、クライフとルーレットとホーニャンで行ってもらおうか。俺達は家来としてついていこう」
「えっどういう事でしょうか」
三人が不思議そうに俺を見る。
「寄り親でもない男爵の俺が行くと話がややこしい。だがクライフとルーレットなら元ターン家の人間だ。あくまで元ターン家の息子が嫁さんをを連れて里帰りしたって事なら、家来が何人か付いて来ても問題ないだろう」
「なるほど、そうですな。それならニース子爵も何も言えませんな。そもそも感心もないのでしょうが……」
クライフも大きくうなずいた。
「分かりました、エルヴァン様。でも私達が居なくなっていいのでしょうか」
家宰と家宰代理が、同時に町を離れることをルーレットが心配する。
「ああ、たまにはいいだろう。部下に仕事させるのも大事な事だぞ」
「そうですな……そうしましょう」
こうして俺達はクライフとルーレットの里帰りと言う名の視察に出かけた。
黒い馬車にシロックとグレックをつなぐ。タニアが御者をし、馬車にクライフ、ルーレット、ホーニャン、ソニアが乗る。俺とアルフィー、シルフィーがいつものようにブルックに乗り、ウエスタンとオスマンはきら星に乗る。つもりだ。
俺達が家来に見えるように。
今は馬車は収納して、シロック(大馬)にクライフ達三人。グレック(大馬)にルーレットとホーニャンが乗る。
留守はメルケルン達に任せて出発した。
「エルヴァン様、そう言えば商業者ランクがBランクになりましたので商業者カードを書き換えていきましょう」
商業者ギルドの前でルーレットが言う。
「そうか、あんまりランクが上がると目立つからそのままでいいんだが……」
「ははは、そうですか。そんな事は初めて聞きました。さすが英雄、スケールが違いますね。ではそのままにしておきますか」
ルーレットが楽しそうに笑ってそう言った。
ホーニャンは困ったような変な顔になり俺達を見る。
「ああ、こないだ町の入口でSランクの冒険者カードを出したら、皆が寄って来てもみくちゃになったんだよ。ウエスがガードしてくれたから良かったんだが、いなかったら大変だ。あれから商業者カードを出すようにしてるんだ」
「そうですか、英雄も大変なんですね。わかりました。では必要があればまた書き換えましょう」
そのままエアシルの町を出た。
イースの町からは大船に乗りサースの町で一泊する。もちろん《湖のほとり》に泊まって白パンなどを回収した。
「ここで、白いパンを仕入れていたのですね。確かに素晴らしい料理です」
「夕食も朝食も美味しかったですねぇ」
「うん、美味しかったー」
ホーニャン、タニア、ソニアも喜ぶ。
特にタニアやソニアは久々の旅なので嬉しそうだ。
いつもエアシルの町で働いてくれてるからな。
たまには旅行にも行けるよう、長期の休みもあげたいな。
はしゃぐ二人を見てそう思った。
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