【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ

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彼の苦悩

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 そんなある日、私は彼の食生活にもサポートに入ることをお願いした。

 だって、アレックスったら薬草ばかり食べていて、全然まともな食事を摂らないんだもの。
 心配にもなるってものでしょう。

 そうして、彼に手料理を振舞うと、彼はとびっきりの笑顔で「美味しい!」と言ってくれた。
 その眩しいばかりの笑顔を見て、私は思わずときめいてしまいそうになる。
 本当にこの人の顔はずるい……。

 しかし、彼はその笑顔から一変。
 目を伏せ、僅かに寂しそうな顔をしながら、ほぅ……と息を吐く。

「本当に美味しいよ。母の味みたいだ。懐かしいな……」

 そうぼそりと呟く彼にはいつもの覇気がなかった。
 どうしたのでしょう。ホームシックにでもなったのでしょうか。

「そういえば以前、学園に住み込みで研究してるって言ってましたよね? 家には帰らないんですか?」
「……帰りたくないんだ。僕と家族は仲が良くなくてね」
「そうなんですか」

 おっとまずい。これは地雷を踏んでしまったか……。
 なんとなく次の言葉が思いつかず黙ってしまっていると、アレックスはぽつりぽつりと話し始めた。

「僕が今やっていることって、家族から余り応援されてなくてね。別に戦闘で使える訳でもない、生活の質をあげる訳でもない。そんなものにかまけているくらいなら、家業に従事しなさいって言われてるんだ」

 そう遠い目をしながら語るアレックス。
 しかし、彼は「でもね」と拳を握りしめる。

「僕はそんな敷かれたレールの上を歩くようなことはしたくないんだ。自分の道を思いっきり自由に走りきりたい。でも、親はそう思っていないんだ。ただの子供の反抗期としか思ってない。いや、親だけじゃない。この学園の人たちも、友人も、兄も、弟も。全員僕の研究を指さしてバカにしているんだ」
「……」
「あんな研究は無駄だ。完成する訳がない。理解できない。なんの役にたつのか。そんな言葉ばかりさ。流石の僕も不安になるんだ。もしこのまま何も成し遂げられずに、爪痕を残せずに終わったら僕の今やっていることは無駄になるんじゃないかって……」

 それは初めて聞いた彼の弱音だった。
 この頭のネジの外れた天才でも、そうやって人並みの悩みがあるんだ、となんだか妙な親近感が湧いてくる。
 アレックスも私と同じく、何か爪痕を残そうとしているんだ、と。

 それと同時に私はイラつきを覚えた。
 この研究が無駄? 完成する訳がない?
 そんなのやってみなけりゃわからないでしょう!

 私は自然と拳に力が入った。

「あっと、すまないね。つまらない話をしてしまって。ささっ、早く研究に戻ろうか」
「……りえません」
「え?」
「ありえません! あなたがやっていることがどれだけ素晴らしいことか! 凄いことなのかを分かってないんですその人たちは!」

 爆発した感情は元に戻らない。
 私は気がつけば食らいつくように彼に迫っていた。

「この研究は本当にレイモンド賞を取れるかもしれないんです! それを何の役に立つのか? アホですか!? これほど完成したら、役に立つものをなんで分からないんでしょう! アレックス様、そんな奴らの戯言なんか聞かなくていいです! あなたはそのまんま一直線で走り抜けるべきです! アレックス様の情熱はここで失われていいはずがないんです!」
「わ、わかった……、わかったから。と、とりあえず、離れてくれないかな?」

 そこではっと気づく。
 いつの間にかアレックスと私の顔が至近距離にあることに。

 私は思わず恥ずかしくなって、頬を熱くさせる。
 私ったらつい……。

「……はしたない所をお見せしてしまって、申し訳ありません」
「い、いや、別に謝ることじゃないよ。気にしなくていい……綺麗だったし」

 ほんのり顔を赤く蒸気させたアレックスがそういう。

 私はその言葉を聞いて固まってしまった。
 え、綺麗って私のこと? 
 まさかそんなはずはない。

 ……いや、どう考えても私のことだ。
 私のことでしかない。

 嘘。こんな地味顔の私が綺麗?
 アレックス様って好みも変わってますのね。
 う、嬉しいですけど。

 彼の言葉に、私は更に顔が熱くなるのを感じた。

 そして、沈黙が辺りを包み込む。
 時計のチクタクという音だけが、この場を支配していた。
 気まずい。言葉を探しても、頭が整理出来てなくて上手く言葉が出てこない。

 そうして黙っていると、どれくらいの時間が経ったのだろう。
 おもむろに彼が口を開いた。

「ありがとう。私の研究をそう言ってくれたのは、君が初めてだよ」

 優しく、ほっとしたかのような顔で彼はそう微笑む。
 目に毒だと思った私は思わずそっぽを向いて、彼の笑顔から逃れる。

「……別にお礼を言われることじゃありませんわ。事実を言ったまでですもの」
「なら、なおさら嬉しいよ。なんだか君の言葉を聞くと、素直にそう思える。勇気づけられる。……本当にありがとう」

 そう言って頭を下げてくるアレックス。
 なんだろう。凄くむず痒い。
 お礼なんて言われたのはいつぶりだろうか。
 それも彼から言われると、不思議と私も高揚感が募ってくる。

 どうしましょう。私も嬉しい。
 彼から初めて言われた感謝の言葉に舞い上がってしまいそうだった。

「そ、それならいいんです。そんな事よりさっさと研究に戻りましょう! 学会まで時間がないんですから! ほらほら!」

 だから私は感情をグッと抑えて、誤魔化す。
 この気持ちは死ぬ前に邪魔になるだけだから。
 そうしないと後戻り出来ない方へと進んでしまいそうで、怖かったから。

 アレックスは私の言葉に、ふふっと可笑しそうに笑うと「そうだね。戻ろうか」と言った。

 ……私ったらなんて軟弱者なんでしょう。
 死ぬと決めたのに。
 そう決めてやっているはずなのに。
 彼の笑顔に振り回されてしまうなんて。

 それもこれも彼がイケメンすぎるのがいけないだわ。色々と厄介な設定を作った神を呪おう。
 そしてあの世で散々文句を言ってやるんだ。

 そう決心して、私は研究に戻った。

 史上最高の遺書を完成させるために。
 この世に大きな爪痕残せるように。
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