都市伝説の兄妹は、いずれ最強の伝説になる

進藤 樹

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第三話 都市伝説の兄妹は、試験範囲を復習する

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 国立新京都魔導高等専門学校――略称、国立新京都魔導高専。さらに略して、京魔高専。
 歴史を辿れば、まだ東京が日本の首都として認知されていた一五〇年ほど昔まで年表に指を走らせることになる。
 日本一早く魔導学という講義を取り入れた四年制大学があったが、東京都で発生した関東魔人抗戦により京都へ移転。
 後により早期的な人材育成が求められる時代の波に呑まれ、七〇年ほど前に高校と統合。現在の京魔高専の原型となる。
 現在では、運営されている高校の中で日本最大規模の学校だ。
 この学校に入学するには、もちろん学力も求められるが、それ以上に重要視される項目がひとつある。
 それは――〝魔〟に魅入られていること。

「よしっ、じゃあ予想問題を出してくれ!」

 重護たちは現在、比叡山にある京魔高専を目指しながら、筆記試験に向けて知識の確認をしている最中だった。

〈黎魔五年に発足した国連魔導機関UNMOで各国との連携が開始した際に、日本の首都は東京都と正式に定められました。その後の遷都の発令年と遷都先、及びその主だった理由を答えなさい〉

 国連魔導機関とは、魔導についていち早く理解するために国際的に協力しあおう、という機関のことだ。
 この国連魔導機関のおかげで、大昔の魔導研究者たちが国境を越えて強固に結びついた。国連魔導機関がなければ、人類はとっくに魔導によって絶滅していたかもしれない。

「幻魔一八年、神奈川県。東京都が関東魔人抗戦の戦地になったため」

 日本は千葉県の山奥にひっそりと建てられた魔人研究所では、それが禁忌だと知りながらも、なにか改善案があるのではないかと独断専行し、魔人の研究が行われていた。
 結果三体の魔人が研究所を脱走。千葉から陸伝いに散らばり、魔人を増やしながら東京都を一週間で狂乱の舞台にしてしまったのである。
 こうして東京は首都としての機能を保てなくなり、神奈川県は横浜市を拠点としたのだ。

〈正解! 次は?〉
「逢魔三年、奈良県」

 和暦が逢魔になると、いよいよ近代史の範囲になる。

「炎竜ドレイカと海竜ウェーヴァの戦闘で東日本一帯が魔導被災したため、だな」

 ドラゴンは魔導最初期から存在する魔物で、地球上に魔力を振りまき、人間を餌ではなく娯楽として扱う生き物だ。
 炎竜ドレイカは富士山に棲み着いた比較的温厚なドラゴンで、日本という国の風土を気に入り、日本人の動向を眺めることを日課とする、曰く物好きな竜である。
 海竜ウェーヴァは世界中の海を転々と泳ぎ回るドラゴンで、日本近海遊泳時に鯨を食べたら不味かったという理由で暴れ始めた。
 炎竜ドレイカが日本人観察の邪魔になるからと追い払おうとしたところ喧嘩になり、その余波で濃密な竜の魔力が東日本一帯を覆ったのだ。
 結果、当時被災した人たちはその三〇%以上が魔人と化し、日本最大の歴史の転換点となる。
 あまりに強大な魔人の数と魔法の暴力に、日本はなす術なく滅びかけたのだ。実際、北海道が壊滅したのは完全に魔人の仕業であった。
 この事件がきっかけとなり、炎竜ドレイカは人間の無力さを傍観するだけの状態から、気まぐれで助けてくれるようになっていく。

〈あってる、そして?〉
「逢魔二四年、新京都。国連魔導機関が、魔導の在り方に合わせた文明構築を推奨し、日本の在り方を大きく変えることになったため」
〈うん、完璧!〉

 富士山以東、富士山以北の復興を諦めて完全に手放したのだ。
 この頃には炎竜ドレイカと交流と呼べる交流ができるようになっており、東日本と北日本に蔓延る魔人の群れか、ほかのドラゴンが出現した場合に限り、日本の国防を手伝ってくれると約束してもらえたのだ。
 ここまでくると、一気に現代の日本の姿を呈してくる。

〈では次の問題……克魔元年に炎竜ドレイカと結んだ竜巫女契約の内容について答えなさい〉
「えっと、炎竜ドレイカの娘、幼竜シフォンを人間が育てる代わりに、より炎竜ドレイカから様々な恩恵を受けられるようになる……だったか」
〈正解っ! また、その際に炎竜ドレイカからもたらされた、友好の証とはなんでしょう?〉

 すぐに答えが浮かばなくて、重護は眉を顰めた。

「友好の証……? そんな単語あったか……?」
〈授業でやったじゃん……聞いてなかったの?〉
「いや、記憶にないな……」
〈ほら、わたしたちも結んでるでしょ?〉
「俺たちも結んでる……?」

 しかし、問題の展開的に竜巫女契約のことではないはずだ。

〈三、二、一……ぶぶー、時間切れ~〉
「急かすな……。で、正解はなんだったんだよ」
〈正解は……従魔契約じゅうまけいやく、でした~〉

 言われて、重護は手を叩く。

「あ、それって友好の証ってことで教えてくれたってことなのか!」

 従魔契約自体が身近な常識すぎて、とつい重護は言い訳した。

〈なに今初めて知りましたみたいなリアクションしてるの? そう先生も言ってたじゃん。……そういえば、あの授業の時ってお兄ちゃん寝てたんだっけ〉

 重護の脳内で溜息を吐いた朔夜は、そのまま疑惑の声で確認してくる。

〈まさか、わたしたちが従魔契約していることも……?〉
「そっちはいくらなんでも忘れねーよ!」

 大事なことだからな、と重護は真剣に頷いた。

「竜鱗に魔物の魔力を満たして人間が飲み込むと結ばれる契約……それが従魔契約だ。一〇〇年以上生きたドラゴンの竜鱗であれば種類は問わないが、事実上炎竜ドレイカしかくれる相手がいないから、毎年八〇枚しか貰えない貴重品だな」

 ドレイカの娘シフォンは、今年で生誕三〇年。成竜の鱗が生えるのはまだまだ先の未来だ。

〈ちなみに、従魔契約の教科書的模範解答は大丈夫?〉
「あたりまえだ。竜鱗に魔力を注ぐ側が『従魔』で、その竜鱗を飲み込む側が『主人』になる。そしてその際、双方に従魔契約をする意思がなければならない」

 主人になれる条件は、魔力をまったく持たないこと。つまりは人間であることだ。
 一方で従魔は、竜鱗に魔力を注ぐ必要がある。そして自意識を持った個体である必要もある。

「両者は、片方が絶命した時、もう片方も同時に命を落とすという運命共同体になるが――」

 共有するのは生死だけでなく、痛覚などもそうだ。先のカラスとの戦闘後、重護の腹が鳴ったのは、朔夜の空腹感に影響されてのことである。

「その分、メリットもある。主人が許可している場合に限り、従魔は主人の血液を魔力に変えて受け取ることができるんだ。これで従魔は普段以上のポテンシャルを発揮することができる」

 もちろん、主人の血だって無限じゃない。主人が弱れば弱るほど従魔も弱体化してしまうので、使いどころは考えないといけない。

〈うん、あともう一つの特徴は?〉
「従魔になった魔物は、魔力の低下が発生しない……だな」

 ペットや家畜、農作物など、人の手で育てられた魔物は魔力を失っていくという研究結果が出ている。魔力を宿した鉱石なども、あまり加工しすぎると魔力が低下してしまうのだ。
 しかし、従魔契約を結んだ場合は、魔力の弱体化は確認されていない。

〈それでOK。なんだ、大丈夫そうじゃん〉
「そりゃ、受験勉強頑張ったからなぁ……」

 京魔高専を志願するにあたり、重護にとって最大の関門が筆記テストだった。
 歴史ある学校だけあって、求められる学力が高いのだ。もっとも進学校と比べるほどではないが、中学時代では学年順位が半分より上に入れたら頑張った方と言える重護にとっては関門であることに変わりはない。

〈そこまでして、京魔高専に行く必要ある?〉
「当然だろ。だって――」

 脳裏に焼き付いて離れない、忌まわしき青い炎。
 それは、重護が当時十一歳、朔夜が十歳の、まだ生きていた頃の朔夜を燃やし殺した、魔力でできた炎だ。

「――朔夜がどうして魔力の炎で燃やされたのか、当時の魔導技術ではその経緯までわからなかった。あの日の真相を解き明かすには、最先端の魔導解析が必要なんだ……!」
〈お兄ちゃん……〉

 脳裏で響く彼女の声は、けっして重護が自らの精神を守るための幻聴なんかではない。
 朔夜は死後、霊魔になったのだ。その魂に魔力を宿して、重護から物理的に離れることができない背後霊になったのである。
 幸いなことに、重護と朔夜の父は当時、竜鱗を持ち合わせていた。
 その一枚で幽霊と化した朔夜の魔力の一部を吸い取り、重護はそれを飲み込んだ。
 従魔契約は片方が死ぬともう片方も死ぬというルールがあるが、分類学上この瞬間の朔夜は霊魔。未練が晴れて成仏ということが、背後霊にとっての死の定義だ。
 重護と朔夜はこうして従魔契約を結び、もうすぐ五年が経とうとしている。
 そうしているうちに、京魔高専が見えてきた。
 新京都は比叡山の中腹を大きく開いて作られた、全寮制、五年制の大規模な学校である。
 目印は、周辺の雑木林よりも頭一つ分高く伸びる時計塔。印象的なのは、赤レンガ建築の壮大な校舎。大昔の東京駅や横浜の赤レンガ倉庫、あるいは昭和の都庁を思わせる雰囲気だが、学園建築当時、誰のどんな考えがあってそうなったかはわからない。なんにせよ、今となってはこれも風情だ。

〈なんか、独特だね……〉

 重護の他にも、知らない中学校らしき制服を着た同世代の男女がちらほら見受けられる。どうやら間にあったようだ。

「時間ギリギリ、ひとまずセーフってとこか……。朔夜、間違っても試験の邪魔はするなよ」
〈はいは~い〉

 信用していいのかどうにも怪しい返事に不安になりつつ、重護は重厚な作りの正門を通った。
 五学年分の生徒が通う学校なだけあって、そして七分野における専門的な学習環境が整っているだけあって、校舎もまたとてつもなくでかい。
 麓側に一段下がったところは、マンションとホテルを足して二で割ったような建物がいくつも並んでいる。おそらくは学生寮だろう。
 さらに遠くへ目をやれば、先ほど電車で通った新京都の街並みが一望できる。古の時代から続く碁盤のように揃えられた風景が、表情筋の強ばりを解かした。
 他受験生の背中を追いながら、アスファルトの構道を進む。
 グラウンドは広く、サッカーコートや野球場など、中学とは圧倒的なスケール差を見せつけていた。

〈そういえば、当面の目的はわたしたちの目的はわたしの死因を解明することだけど、お兄ちゃん的にはどの学科に行くべきだと思ってるの?〉
「そうだなぁ……」

 京魔高専は、七つの学科に分かれている。
 魔導反応の法則や応用の仕方を学ぶ、魔術科。
 凶悪な魔獣や魔人との戦闘訓練や、魔導災害への対処の仕方を習う、抗魔科。
 魔物と人類の共生共存の道を模索する、魔獣飼育科。
 魔導的な観点から自然界を調べる、魔界科。
 魔導による怪我や病気のことを学び、手当や治療の仕方を教わる、魔療科。
 魔術を利用した道具、魔導具の開発や発展を目指す、魔導具科。
 魔導に関する歴史を学問する、魔導考古学科。

「あれが自然に発生した魔導現象だっていうなら、魔界科で学べることかもしれないが……」
〈仮に犯人がいて人為的に起こしたとするなら、魔術科や魔導具科にいけば参考になるかもしれないね〉
「ああ。元凶が魔獣だったなら、魔獣飼育科に行けばなにかわかるかもしれないぞ」

 なんにせよ、どの学科に進むかを決めるのは来年の話だ。
 京魔高専では、最初の一年は混成学科として、誰もが多方面の基礎的な授業を受けることになっている。そこでそれぞれが特に興味を引かれた分野の勉強を、二年生以降で集中的に取り組んでいくのだ。

「とりあえず、今は入学しないことには話にならないな」
〈だねっ〉

 受付は昇降口前。折りたたみ式の長いテーブルを繋げて五人の大人たちが行っているようであり、卓上の名簿一覧と受験者の名前を照らし合わせては蛍光ペンで線を引いていた。
 前の人たちがスムーズに手続きを終えて、重護の番がすぐに来る。

「これが君の受験番号だ。健闘を祈っている」
「ありがとうございます」

 渡されたのは、手の平サイズの小さな紙片だ。教室A棟、三階、E組、二八番と表記されている。
 昇降口を入れば、さっそく突き当たりの壁際に張り紙で『教室A棟はコチラ』と、迷わないようにできていた。
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