都市伝説の兄妹は、いずれ最強の伝説になる

進藤 樹

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第二十四話 都市伝説の兄妹は、推理を聞く

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 重護と朔夜が語り終えたのを察して、鈴谷が指先でクリップボードを叩いた。

「なるほどな」

 ロゼの花粉でぐっすり眠り、火曜日のカリキュラムをメタやダニエルの監視の下こなし、放課後。生徒代表選抜試験小隊の部屋に、重護は朔夜と共に呼び出され、玲那との約束通り、朔夜と従魔契約を交わした日のことを語っていた。
 部屋には鈴谷だけだ。玲那たちは別行動中らしい。

「それで結局、俺たちはなんで拘束だとか言われて襲われなくっちゃいけなかったんです?」
「ふむ、どこから話したものか……」

 クリップボードに目をやり、鈴谷はしばらく唸った。唸り声に混じって、窓ガラスがとつとつと音を立てる。雨が降り出したようだ。

「お前らは特に違和感を持っていないようだがな、本来竜鱗は簡単に手に入るものではないし、自由に持ち運べるものでもない」
「あ……」

 朔夜が口を半開きにして、遅すぎる後悔に呆然とする。

「そう。抗魔庁の正規の記録には、たしかに星埜兄妹が契約していると書かれていた。けどな、おかしいんだ。保管庫から持ち出すには理由がいる。いったい、お前らの親父さんはどういう理由で竜鱗を所持していたんだ?」

 竜鱗は、炎竜ドレイカから毎年八〇枚貰える。そのうち半分以上は他国との国交のために輸出するので、毎年約三〇枚超が日本に残る。それらは必要に応じて必要な場所に配られる。
 魔獣・魔人対策のために、従魔契約者の抗魔官が各都府県に必要だ。
 竜鱗の研究をする大学も欲しがる。京魔高専のように、抗魔科が設置された学校にも配布される。また、博物館に本物を飾って国民に魔獣対策の大切さに興味を持ってもらうなど、用途は様々。
 しかしどれも、意味があってのことだ。

「どういう理由ってそりゃ抗魔官ですし……ん?」

 当時まだ小学生だった重護は、死別した妹が背後霊になるというインパクトが強すぎて、さもあたりまえのように上弦が竜鱗を出したことに違和感を持たなかった。一度スルーしてからというもの、こうして真剣に振り返る機会がなく、今日の今日まで気に留めずにいた。
 しかし高校生になった今、改めて真剣に考えてみると、疑問に思うべき点が多すぎる。

「抗魔官だから、じゃまったく理由になってねーな……。じゃあ親父は勝手に持ち出したってことっスか?」
「管理しているものを勝手に持ち出してバレないと思うか? 百歩譲って仮にそれができるとして、その動機はなんだ」
「動機……」
「そう。大事なポイントは〝なぜ〟竜鱗を所持していたのか、だ」

 睨むような強い眼力で、重護と朔夜を見据えてくる。

「〝どうやって〟竜鱗を所持していたのか、については問題じゃない。少なくともお前の父親なら周りにバレずにくすねることができるタイミングが一回あっただろう」
「お兄ちゃん、わたしが死んだ誕生日、言ってたじゃん!」

 朔夜に耳元で大声で言われ、重護は顔をしかめながらも思い出す。

「そうか……! 竜鱗の大量盗難事件! 現人神々の構成員を摘発した時親父もいた!」

 あの事件で盗まれた竜鱗の数は一〇〇枚。報道では犯人グループ確保の際に一七枚、その後犯人たちの証言から他アジトを当たって五〇枚以上の回収に至ったが、それでも三〇枚以上は盗まれたままとされていた。
 しかし、実際には一七枚の箇所は一八枚だったのだ。その一枚を、上弦がくすねていた。

「でも、でもよ……。親父はいったい、それをくすねてどうしたかったんだ? 契約したい魔物がいるなんて話、聞いたことないし……」
「だから、それが朔夜なんだろう?」

 腕を組んで指をトントンと動かしながら言う鈴谷に、重護は首を傾げて疑問をぶつけた。

「いや、朔夜は急に背後霊として現れたんスよ? 霊魔だから、魔物として竜鱗に魔力を送れたわけで。そもそも朔夜が霊魔になるより先に親父が竜鱗くすねてますし、順序が逆では?」
「あまり苛立たせるな。それは結果論だろう。本来お前の父親が想定していたのは、生きたままの朔夜との従魔契約なんじゃないのか、と言っているんだ」
「や、それじゃまるで朔夜が魔人だって言ってるみたいじゃないっスか……」

 酷い言いがかりだと怒ろうとして、鈴谷がなにを言いたいのか察する。
 生まれつき金髪だったという髪と、他の誰と比べても明らかに尖っている形をした耳――。

「まさか、本気で……本気で、朔夜が生まれつき魔人だったって言う気ですか?」
「そうだ」

 首肯する鈴谷に、重護はカッとなって言い返した。

「この程度の見た目で魔人の兆候だなんて普通思わなくないですか⁉ 魔人化の条件は体内の魔力濃度が五〇%以上、そんな状態に朔夜がなったことなんてありません!」

 昨今、魔人化する主な原因は三つに分けられる。魔導災害に被災するなどの自然災害的な原因が五割、違法な魔導具を使うなどの犯罪的な原因が二割、高出力の魔導具の使い方を間違えるなどの過失事故的な原因が三割だ。
 一〇代以下の子供だけで内訳を見れば、魔獣に襲われ魔法を浴びた結果魔人化するケースが六割もある。朔夜にそんな過去はない。

「だいたい、朔夜の魔力濃度は毎年学校の健康診断で測ってました!」

 そして生前、朔夜の体内魔力濃度は二.五%だった。一般人の平均が一%台後半であることを考えると高めの数値だが、異常値というほどではない。重護も二.一%、両親も二%前後なので、血筋だからだろうと疑いもしなかったし、疑われなかった。

「フン、二%台じゃ普通の親なら疑わないだろうな。気にするようなら過保護が過ぎる。……だが、もし他に心当たりがあるとしたらどうだ?」
「こ、心当たり……?」
「親が魔物なら、子も魔物だ」
「なっ……⁉ なにを……ッ!」

「つまり、おまえの母親〝も〟魔人なんじゃないのかと言っているんだ」
 鈴谷の言葉を真に受けるなら、朔夜は女なので、母親である美月が魔人ということになる。魔物の遺伝は性別でわかる――中学で習う知識だ。
 しかし、それはそれで理屈が合わない。 

「いや、鈴谷先生だって知ってるでしょ、うちの母さんは一般人です! 見た目もそうですし、理性だって失っていません!」
「見た目に関しては魔術でどうとでもなる。おまえの母親はその道のエキスパートだろ」
「言いがかりもいい加減にッ――」

 感情的になって否定する重護に対し、あくまでも鈴谷は冷静に話を進める。

「そこで傍証となってくるのが、さっき語ってもらったお前たちの従魔契約時の話だ」

 そう前置きをして、鈴谷は重護たちに問いかけた。

「背後霊として出現した朔夜がポルターガイストを暴走させた時、親が最初に取った行動はなんだ? お前の両親は、その突拍子もないトラブルにどう対処しようとした? そしてその結果どうなった?」
「どうって……朔夜に従魔契約の知識があるか確認して、従魔契約をしようとして……俺と契約して……」
「わたしの暴走が、落ち着いた……」

 外では風が強く吹き、窓ガラスに大粒の雨が叩きつけられる。

「ではなぜ、両親は迷いなくその手段で解決できると思ったんだ? 従魔契約に魔物の魔力を安定させる効果があるなんて、私は聞いたことがないんだが」

 従魔契約は、あくまでも主人と従魔の命をリンクさせるものだ。主人の血液を魔力に変えて従魔を強化し、従魔が人間と深く関わっても魔力の衰退が起きなくなる。――それですべてのはずだ。
 そもそも魔物が魔法を暴発させることがない以上、暴走を止めるという状況自体が起こりえない。
 なのに、さも当然のように、上弦は朔夜の暴走を従魔契約で収めた。

「その行動の理由はなにか。答えは、前例を知っていたから、ではないのか? 自分たち夫婦がそうだった、という、前例を」
「ちょ、ちょっと考える時間をください……」
「いいだろう、紅茶でも入れてやる」

 鈴谷は立ち上がり、魔導ケトルのある給湯セットの方へ足を向けた。勝手に使ってはマズいのか、ぽつりと「芹澤にあとで文句つけられるな」とぼやいている。

「朔夜……お前、この話どう思う……?」

 タチの悪い冗談ではないのか。そうであってくれという願いを込めて、朔夜に意見を求めた。

「考えたことなかった……でも、筋は通ってる……よね……?」

 仮定があまりに突飛だが、母である美月が魔人であり、既に上弦が従魔契約によって美月の暴走を阻止できているのだとしたら、すべてに説明がつく。
 朔夜が発火現象で死亡したのは、魔人として魔法を発動したものの制御ができなかったから。死後霊魔として魔法を暴走させた時に従魔契約を結ぼうとした理由にも、繋がる。

「あの、そこまで言うからには証拠はあるんでしょうね」

 鈴谷は魔導ケトルを持ち上げて、裏面を覗き込みながら答えた。

「星埜美月……結婚前は常盤美月だが、その結婚前の経歴がデタラメだった。履歴書にあそこまで派手な嘘を書く奴はいない」

 履歴書。おそらく美月がここの教師をするに当たって提出させたのだろう。もしそれが最初から美月の経歴を調べるためのものだとすれば。

「……ってことは、疑われていたのは最初から親父と母さんだったってことですか?」
「ああ。実践教育プログラム自体は元から話があったからな。そこにご両親をねじ込んで接触しやすいようにと考えた」
「それで一家大集合という結果になったのか……」
「パパが教師に選ばれるなんてあり得ないと思ってたけど、今ようやく納得できたよ」

 重護は朔夜の酷い物言いに同意しつつ、質問を続ける。

「だったら母さんはなんの魔人だっていうんですか?」
「その辺は今、竜胆たちが動いているさ。……これ使い方どこに書いてあるんだ」

 どうやら鈴谷は魔導ケトルの使い方がわからないらしい。しかし、今は紅茶より現状把握だ。

「竜胆先輩たちが動いてるって……いや、捜査するの先輩たちなんですか?」
「本職の抗魔官を動かすには根拠が薄いし、本職を動かして気取られるのも厄介だ。相手の旦那は現役だしな。……スマン、これの使い方わかるか?」
「液体反応式ですよね? 水入れるとランプがつきます」
「なるほど、先に水を入れないと話にならなかったか……」

 鈴谷は頭を掻いて、水、水、と冷蔵庫を開ける。紅茶を作るのに水道水ではなく市販のミネラルウォーターを使う気らしい。
 重護はようやく脳内で話をまとめられるようになってきて、鈴谷へ再び問いかけた。

「じゃあ、俺たちを狙っていたのはなんでなんです?」
「お前たちがなにも知らされていないのか、それともご両親と共謀してなんらかの目的でこの京魔高専に入学していたのか、それを確かめるためだ」
 どうも、疑われていたことに違いはないようだ。

「は、はあ……それで結局、俺たちの疑いは晴れたってことでいいんでしょうか……」
「一応な。どちらにせよご両親の疑惑がある間は監視対象ではあるが。まあ飲め」

 お礼を言って紅茶を受け取り、熱い一口を口に含んでこれまでの話を咀嚼する。
 こじつけが過ぎる気がして重護の眉間にしわが寄った。論拠のない仮定や話の飛躍があちこちにあって、なにより美月が魔人だという一番大切な部分が捜査中。
 重護としては、鈴谷の話が間違いであることを信じたい。

「うん?」

 鈴谷が不意にポケットから魔導端末を出す。着信らしく、即座に耳を当てた。

「私だ。……ああ、ああ。……なに? さすがだな、翅橋。すぐに向かう」
「今の通話、翅橋先輩ですか?」
「ああ。まったく、野生の魔蟲を操れ――協力を仰げるってのは怖いな。絶対敵に回せん」
「……い、いったいなにを……?」

 プール脇で見せられた本気の眼差しを思い出して、ひやりと背筋に冷たいものが伝う。
 鈴谷は飲みかけの紅茶をそのままに、ソファから力強く立ちあがった。

「お前たちの両親が動いた。素直に言うこと聞くなら連れてってやる」
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