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幕間 そして親子は間違えた
すでに王太子であったとはいえ、議会が揉めずに現王の即位を承認した理由は、二点。
先王の遺言があったこと、そして暫定の王と考えられていたためだった。
本来ならば早々にオーレリア王女を王太女にすると宣言させたのち、現王には隠居を願う予定だったのだ。
貴族たちの対立はあるとして、まだこの時点で次代としてオーレリア王女が優勢。
幼いバージル王子を押す側妃の実家派の貴族たちや、女王否定派の貴族たちについても、オーレリア王女とバージル王子の十歳の差を利用して、王子が成長するまでの繋ぎの女王だからと説得することが可能だった。
しかしこの目論見が外れてしまう。
現王が……捻くれたのだ。
なにせ即位した現王が真っ先に知ったことが、自分はどうも言われているように賢くないということだったから。
議会に顔を出しても、貴族たちが何を言っているのか分からない。
確認しろと渡される書類のほとんどは、文字は読めても内容が理解出来ないものだった。
今までいた側近たちは消え、新たについた仕事の出来る側近たちは、忙しそうにして会話の相手もしてくれない。
現王は捻くれて、拗ねた。
その心を慰めるため、自分で遠くに敵を作り出すこともした。
それがこの国一賢いと言われるウォーラー一族だったわけだ。
国政に関わらないウォーラー一族は、王との接触が少なく、そもそも王都には滅多に現れない。
しかしそれがかえって、憎む相手としてはちょうど良かったのだろう。
愛されて育った現王は、別に悪人というものではなかった。
王として無知が罪と言われてしまえばそれまでだが、本人には悪気がない。
よく知る相手では憎めないし、憎むと言っても、子どもが嫌いな食べ物を睨むくらいの可愛い感情である。
さして害もないので、誰もが現王の意味のない嫉妬心は放置した。
それがまさか今へと繋がるとは思わず──。
そんな現王は、自分より明らかに優秀な娘、オーレリア王女のこともまた避けるようになった。
自分には分からないことを堂々と話す娘を前にすると、心が折れてどうにもならなかったからだ。
現王は決して娘を憎んでいたわけではないが、オーレリア王女を避ける言動のすべてが側妃を喜ばせ、そして彼女を暴走させた。
毎日のように、夫にはオーレリア王女の降嫁を願い、次の王は我が子になると示唆して派閥の貴族たちの結束を強めていく。
現王とて、自分から遠ざけるために、そして娘の幸せのため、オーレリア王女をさっさと降嫁させたいと願っていたが。
残る叔父も、議会も、側近でさえ、これは絶対に認めないと言う。
そのうえ皆に、オーレリア王女なく政務が出来るのか?と嫌味まで言われた。
現王は捻くれて……意地になった。
周りがいくら進言しても、オーレリア王女を王太女にするとは決して言わなかったのだ。
もしかしたらこれは、今さら迎えた反抗期だったかもしれない。
ぐずぐずと次代が決まらず、時が過ぎていく。
双子の王子王女も成長し、教育をどうするかという段階で、現王は急にあれこれと口を出した。
愚かな現王は、ただ我が子を愛したいと願っただけ。
そのため自分と似たように成長する王子王女を望んだが、周囲は困惑する。
溺愛する王子を次代に据える気か。
それとも王子を次代にしないための策か。
この時点で叔父たちが数名生きていたこと、これも良くなかった。
彼らはオーレリア王女に厳しくし過ぎたことを反省し、降嫁して幸せに生きる未来を奪った結果に後悔しては、またしても罪悪感を抱きつつあったから。
最後は甥の願いを叶え、かつ幼い又甥又姪を甘やかし、気分良くこの世を去りたいという、これまた酷く無責任な考えのもと、同じ過ちを繰り返していく──。
こうして先王の代から続く因果として導かれた今日という日は、やって来た。
「読み間違えておりますよ。オーレリア殿下。ニッセル公爵」
先王の遺言があったこと、そして暫定の王と考えられていたためだった。
本来ならば早々にオーレリア王女を王太女にすると宣言させたのち、現王には隠居を願う予定だったのだ。
貴族たちの対立はあるとして、まだこの時点で次代としてオーレリア王女が優勢。
幼いバージル王子を押す側妃の実家派の貴族たちや、女王否定派の貴族たちについても、オーレリア王女とバージル王子の十歳の差を利用して、王子が成長するまでの繋ぎの女王だからと説得することが可能だった。
しかしこの目論見が外れてしまう。
現王が……捻くれたのだ。
なにせ即位した現王が真っ先に知ったことが、自分はどうも言われているように賢くないということだったから。
議会に顔を出しても、貴族たちが何を言っているのか分からない。
確認しろと渡される書類のほとんどは、文字は読めても内容が理解出来ないものだった。
今までいた側近たちは消え、新たについた仕事の出来る側近たちは、忙しそうにして会話の相手もしてくれない。
現王は捻くれて、拗ねた。
その心を慰めるため、自分で遠くに敵を作り出すこともした。
それがこの国一賢いと言われるウォーラー一族だったわけだ。
国政に関わらないウォーラー一族は、王との接触が少なく、そもそも王都には滅多に現れない。
しかしそれがかえって、憎む相手としてはちょうど良かったのだろう。
愛されて育った現王は、別に悪人というものではなかった。
王として無知が罪と言われてしまえばそれまでだが、本人には悪気がない。
よく知る相手では憎めないし、憎むと言っても、子どもが嫌いな食べ物を睨むくらいの可愛い感情である。
さして害もないので、誰もが現王の意味のない嫉妬心は放置した。
それがまさか今へと繋がるとは思わず──。
そんな現王は、自分より明らかに優秀な娘、オーレリア王女のこともまた避けるようになった。
自分には分からないことを堂々と話す娘を前にすると、心が折れてどうにもならなかったからだ。
現王は決して娘を憎んでいたわけではないが、オーレリア王女を避ける言動のすべてが側妃を喜ばせ、そして彼女を暴走させた。
毎日のように、夫にはオーレリア王女の降嫁を願い、次の王は我が子になると示唆して派閥の貴族たちの結束を強めていく。
現王とて、自分から遠ざけるために、そして娘の幸せのため、オーレリア王女をさっさと降嫁させたいと願っていたが。
残る叔父も、議会も、側近でさえ、これは絶対に認めないと言う。
そのうえ皆に、オーレリア王女なく政務が出来るのか?と嫌味まで言われた。
現王は捻くれて……意地になった。
周りがいくら進言しても、オーレリア王女を王太女にするとは決して言わなかったのだ。
もしかしたらこれは、今さら迎えた反抗期だったかもしれない。
ぐずぐずと次代が決まらず、時が過ぎていく。
双子の王子王女も成長し、教育をどうするかという段階で、現王は急にあれこれと口を出した。
愚かな現王は、ただ我が子を愛したいと願っただけ。
そのため自分と似たように成長する王子王女を望んだが、周囲は困惑する。
溺愛する王子を次代に据える気か。
それとも王子を次代にしないための策か。
この時点で叔父たちが数名生きていたこと、これも良くなかった。
彼らはオーレリア王女に厳しくし過ぎたことを反省し、降嫁して幸せに生きる未来を奪った結果に後悔しては、またしても罪悪感を抱きつつあったから。
最後は甥の願いを叶え、かつ幼い又甥又姪を甘やかし、気分良くこの世を去りたいという、これまた酷く無責任な考えのもと、同じ過ちを繰り返していく──。
こうして先王の代から続く因果として導かれた今日という日は、やって来た。
「読み間違えておりますよ。オーレリア殿下。ニッセル公爵」
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