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128.ウォーラーを名乗る者たち
「アシェルくん。ソフィアちゃん。今すぐに領地に向かえないことは分かるわね?」
講堂内から人の気配が減れば、レイラの可憐な声は今まで以上によく響き渡った。
アシェルとソフィアは、これに頷いて返している。
「巻き込んで悪いとは思っているが。ウォーラーの名を得た以上は、二人にも一族のために動いて貰う。ただし、二人の聴取は出来るだけ少なくし、先に帰れるようには調整しよう」
すまないね、とローワンは続けた。
二人が首を振れば、ローワンは普段の優しい顔付きに戻り、頷いた。
「さすがに疲れたであろう。今日のところはこちらで処理しておくから、二人は邸に戻って休みなさい。次からは公式な手順を踏むことになるが、今ここで言っておきたいことはあるかな?」
アシェルとソフィアが顔を見合わせるも、すぐに適当な答えは出て来なかった。
それはそうだ。
二人は今日、講演をするためだけに、この講堂に来ていたのだから。
そんな二人が相談する前に、先に声が掛かった。
「アシェル卿。ソフィア卿。二人には、この場で改めて謝罪をしたい。もちろん受け取らなくていいから、勝手をさせてくれ」
そう言ったオーレリア王女は、二人の前へと歩み出ると、深々と頭を下げた。
「愚弟たちが酷い迷惑を掛けた。そして私も──事前に知っていてこれを止めず、こちらの勝手な都合で二人を巻き込んだ。本当に申し訳なかった」
頭を下げ続けるオーレリア王女の後ろから、すすっとアシェルたちへと近付いてきたのが、ニッセル公爵である。
「私もまたこの場で謝罪を受け取って頂こうとは思っておりませんが。勝手ながら、今この場で一度は謝罪をさせていただきたい。お二人を巻き込んではどうかとオーレリア殿下に進言した者も、私だったのです。すべては私の浅はかな思想から生まれた理想の実現のため、ウォーラー一族のお若い方々を国政に引き入れようと願い、不敬ながら私がオーレリア殿下を誘導しました。この度はご迷惑をお掛けして大変申し訳なかった。そして愚息が迷惑を掛けたこと、こちらも重ねてお詫び申し上げる」
ニッセル公爵もまた、オーレリア殿下の隣から一歩下がったところで、深く頭を下げた。
ローワンたちが黙って見守っているので、対応はアシェルとソフィアに委ねられているということ。
今度こそアシェルとソフィアは、小さな声で二度ほど互いの耳元で囁き合って。
そしてアシェルが言った。
「謝罪を受け入れるにあたって、お願いを聞いていただけないでしょうか?ただ──勘違いしないでいただきたいのですが。これは脅しではありません」
同時に顔を上げたオーレリア王女とニッセル公爵は、共にその表情に驚きを示していた。
アシェルは言葉を続ける。
「無理ならそうだとはっきりと仰ってください。俺たちは願いを叶えなければ謝罪を拒否するとは言いません。いずれにせよ、今回の件の落としどころは、公式の場での交渉で決定するものと思っています。ですので俺たちが今言っているお願いというのは、ただ殿下と公爵の耳に入れたい、それだけの意味を持つものです。ですので……言ってみても──?」
麗しきお願いのその破壊力に、オーレリア王女は負けなかった。
冷静な顔をしてニッセル公爵と一度視線を交わしたのち、オーレリア王女は言った。
「非公式の場だ。何でも話してくれ!」
実際には、本人も気付かずにとうに負けていたかもしれない。
──欲に天井は要らず。底なしに強欲であれ──
ウォーラー一族に伝わる教えのいくつかは、誰が聞いても分かるように矛盾している。
賢者の集団は、世界が正しい一つの理で成り立たないことを知っているから。
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