【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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16.異質

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「それで、リリアはどこの親に捨てられたんだ?」

 意味を理解するまで、大分時間が必要だった。

「違ったか?ではどなたかの御落胤だろうか?」

 さらに理解出来なくなった。

「ふむ。教育義務の放棄以前の問題だったか」

 神官さまが答えない私の何に納得しているかも分からない。

「リリア。親について覚えていることがあれば何でも言って欲しい。リリアのことは、悪いようにはしないと約束する」

 それってよくある物語で悪人が使う台詞ですよね?

 私の中で神官さまへの警戒心が急激に高まっていく。
 それと同時に、この世界で今までに築いてきたすべてが崩れ落ちていく音を聴いた気がした。

 だから私は、状況の把握も出来ていないのに、必死に誤魔化そうと試みる。
 何をどう誤魔化せたら、逃げられるかも分かっていないというのに。

「私はただの孤児ですよ?」

「ただの孤児は、自分をただの孤児とは言わない」

「でも……私は皆と同じように育ちましたし、孤児院の誰とも変わらないと思うのですが。もしかして孤児の親を探して裁くことも神官さまのお役目なのですか?」

「んー」

 神官さまは首を捻りながら、顎を擦った。

「育児放棄した親を特定し、罰することはあるな。それは神の教えに反する行いだからだ。だが、やむを得ない事情があって、孤児院に我が子を預ける親は許される。だから神官が孤児院に来て、積極的に孤児の親を探すという仕事はしていないよ。孤児院からの通報があれば別だがね」

 育てられない事情があれば、そういうこともあるだろう。
 たとえば親が病気だとか、借金があるとか、まっとうな子育てを出来ない状況に陥ったときに、それでも神の教えの通りに親として成人までは子どもの世話をしなさいと言われたら、最悪は子も一緒に共倒れだ。

 あれ?もしかしてこの孤児院にもそういう子がいるの?

 私はここではじめて、皆のことをよく知らないのだと知った。
 こんなに長く一緒に暮らしてきたのに、誰の親のことも私は知らない。

 親が亡くなったときを思い出して夜泣きを続けた子の事情はなんとなく分かっている。それでも本人が語らない限りは、私たちは親を亡くしたんだな~っていう情報を得ただけ。親がどんな人たちで、どういう理由で亡くなったかなんて知らないままだ。

 同じように親を亡くし孤児院に来た子どもは多いだろう。
 だけど多くの子どもは、悲しみを飲み込んで、普通の顔をしてここでの暮らしを続けている。
 すると私たちは、知る機会も与えられない。

 さすがに先生たちは個々の事情を知っているだろうけれど。
 それを私たち孤児相手に教えてくれることはいつまでもないだろう。

 私たちは家族みたいな関係だとこれまで信じてきたけれど。
 実はずっと希薄な関係で、家族と呼べるものではなかったのかもしれない。

 前世もあるのに。
 これぞ家族という人と人との距離感を、私はまだ分かっていないのだと悟った。

 この人生では、知ることが出来るだろうか。

「それも君たちの孤児院では、対象にはならないね。この地域は私たちの落ち度で、事情があって親が子どもを孤児院に一時預けることさえ、神さまの教えに反する行為だと長く信じさせてしまった」

 そうだった。
 目の前で倒れる子どもも助けられない人たちである。
 それは親も成人までは自分が子どもの世話をしなければならないものと思い込み、どんなに苦しい状況でも誰かに預けて世話を任せるようなことは考えも付かなかっただろう。

 私が思う以上に、本当は救えたのに救われなかった子どもたちは沢山いたのではないか。

「これは完全にこちらの落ち度で謝罪と救済、是正をしていかなければならないが……リリア、君は別だ」

「……どうして」

 私だけ?

 自分で思った以上に震える声が出て、最後まで言葉を続けることも出来なかった。


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