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33.選ばれた男
しおりを挟む「ひぃぃっ!」
私の顔はそんなに恐ろしいのだろうか。
今度のおっさんがはじめから堂々と顔を上げていたのは印象的だった。
おっさんは、室内にいる人を確認するよう端から順に視線を動かし、その人らがどんな服装をしていようとも怯むことなく、鋭い目付きとふんと鼻を鳴らすように顎を上げた顔の角度で高圧的な態度を崩さなかったのだけれど。
それが私のところで一変した。
中央付近で私と目が合うや、叫び声をあげたのである。
何なのかな?
そんな珍しい顔をしているとは思わないんだけど?
失礼なおっさんたちね!
「そ、そんな……ニーナさまっ……わ、私ではありませんっ!私は何もしておりませんっ!」
「静粛に!」
「わたしでは……ちがう……わたしはなにも……」
進行役の神官さまに叱られたおっさんは、俯いたのにまだぶつぶつと小声で何かを続けていた。
改めて「静かにしなさい」と言われても独り言を止められなかったおっさんは、「声を出せないようにしましょうか?」とさらに優しく言われたときに、やっと進行役の神官さまと目を合わせ、そして黙った。
あの進行役の神官さまは、曲者だと思う。
優しそうな顔をしているし、口調も穏やかで、いい人そうだなぁと感じていたけれど。
いやね、悪い人だとは言わないよ。
きっと感じたままに、いい人なんだろう。
でもね、あの人は怒らせたらいけない人だと思う。
見たくない人が増えてしまったじゃないの!
私は怒りをぶつけるようにして、様子のおかしいおっさんを眺めながら、その罪状を聞いていった。
分かりにくいから、さっき氷漬けになったおっさんは、おっさん1で。
今いる方をおっさん2と呼ぼうか。
このおっさん2は、なんと神官だった。
つい先日まで、あの町も含めた結構な広さの地域を管轄していたそうで、これまでまったく仕事をしていなかったことが判明している。
なんとね、この大きな神殿にも、ほとんど滞在していたなかったんだって。
この町の人たちはその不在を良い方に受け取っていて、小さな町までよく出向いて仕事をする素晴らしい神官さまだと思っていたらしい。
うちの町でこの話をしたら、皆はどう思うだろう?
神さまに仕える人がこうだと知って、いよいよ信仰が揺らいでしまうかもしれないね。
で、おっさん2がどこにいたか?と言えば。
なんとまぁ、びっくりなことに。
先までいたおっさん1が用意した立派なお家で、使用人に世話までされて、優雅に暮らしていたそうな。
それも何年もね。
そりゃあ肥えるよ。
そして氷漬けになったあのおっさん1は、あれでも侯爵だから。
その広い領地に、さらに二人の神官さまが派遣されているとのこと。
もしかして共犯か?と疑ったのは私だけではなく。
厳しく取り調べを受けることになった二人は、おっさん2とは真逆の真面目な神官さまだと証明された。
完全なとばっちりである。
私からすると驚きではあったけれど、二人は顔も知らないほどにおっさん2とは交流をしていなかった。
同じ領内にいると言っても管轄する地域が異なる神官さまらに接点はないらしい。
そして神官さまたちに、神殿への報告義務のようなものも、存在していなかった。
私からすると組織に所属しながら同僚の一人もなく、誰にも報告義務のない仕事というのは信じられないけれど。
よく考えれば、国王や領主だって一人しかいないのだから、この世界ではこれが普通の感覚なのかもしれない。
そのうえ女神さまの教えというものがあっては、基本的に社会構造は前世の性善説で成り立ってきたのではなかろうか。
とはいえ、愚か者というのはどんな立場の人からも出るもので。
地域に派遣された神官さまらの働きぶりを見張る者がないというわけでもない。
もしかしたらこれは神殿側から国への配慮ではないかとも考えられた。
あえて地域にたった一人の派遣に留め、神殿側がそれ以上に目を光らせることをせず……。
派遣した神官の働きぶりの確認は、その土地を治める者に委ねる。
あー、そういうことね。
私はこの時点で納得してしまった。
神官であるおっさん2は、領主であるあのおっさん1に選ばれてしまったのだろう。
それは当然、悪い方にである。
こいつなら悪巧みに協力してくれそうだなと、まさに悪巧みを考える男から思われるような男だったということ。
あと二人の真面目な神官さまは無理だと判断されたから、おっさん1も声を掛けなかったのだろう。
おっさん1からいい暮らしを約束されて、おっさん2は大喜びでこれを受け入れた。
おっさん1が何故おっさん2に協力を求めたかって?
それはまたしても『魔力』のため──。
魔力、魔力って貴族は大変だねぇ、と私は他人事のように感じていた。
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