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42.儀式
しおりを挟むえ?これだけ?
気が付けばほとんどの人が退出していて、室内に残っていたのは共に笑顔が胡散臭い王子さまと神官さま。
それに進行役の神官さまと、もう一人の神官さま。
王子さまの後ろには、お付きの人らしき男性が一名。
これだけである。
さっきまで沢山の人がいたはずなのに。
彼らは誰でどこ行ったの?
「これより行うことは、女神さまとのお約束に基づきまして他言無用にお願いします。元より今から見るもの聞くものについて、あなた方の口から出ることはございません。されども女神さまとのお約束を破ろうというその悪しき心が必ずや女神さまの御心を傷付けるものとなりましょう。私たちはいつその心を見られても構いませんよう、常に女神さまに恥じぬ考えを持ち、女神さまに一時も背中を向けぬ行いをしなければなりません──」
さらっと恐ろしいことを言っていない?
見るもの聞くものについて口から出ないってどういうことよ?
そのうえ女神さまはいつでも心を覗けるんだぞって脅しているよね?
これを笑顔で語るものだから、さっきまで優しかった進行役の神官さまが途端に恐ろしく見えてくる。
うぅ、こんなに美味しい飴をくれた人を恐れたくないのに。
私は出来るだけ静かに包みを開いて、もうひとつ飴を口に含んだ。
うん、甘いなぁ。
私が甘みを味わっている間に女神さま、女神さま、女神さま……と宗教的なお説教の時間が続いたあとに、おっさん1、2とおばさんの再登場となる。
でも三人は先ほど見たときとは、様子が違っていた。
黒い布袋のようなものが顔に被されていて、目だけ見えている。
不気味だし、隙間からぎょろぎょろと動く目が怖い。
体格で誰が誰かは分かったけれど、中身が別人でも気付けないのではないか。
えっ、連れてきた騎士さんたちも退場しちゃうの?
あ、一人は残るんだ。
奥の扉が閉まった。
騎士一人で大丈夫なのかと心配になってしまう。
三人が一斉に暴れたら騎士だってさすがに大変ではないの?
「必要な人間が揃いましたね」
そう言った進行役の神官さまは、木箱を抱えていた。
本当にこの人はいつもどこから荷物を出しているのか。
木箱の蓋が開くと、中にまん丸の透明な物体が入っていることが、こちらからも確認出来る。
前世で知る水晶と同じようなものだろうか。
神官さまが木箱からその丸いものを持ち上げると、室内の雰囲気が宗教らしい場へと変化した。
儀式でも始まりそう……。
「では皆さま、女神さまから与えられる一瞬をお楽しみくださいませ──」
水晶が光った。
その淡い光が室内を照らし、やがてそこは壁も床も天井もない真っ白い空間に変わっていた。
え?皆はどこに?
私一人なの?
こんなところに一人で長居をしたら気が狂いそうなんだけれど。
私は今までいた部屋と同じ場所にいるのかな?
それとも白い空間に飛ばされてきたの?
どうやったら戻れる?
ブンと不思議な音がしてその音の方に視線を向けると、空間に四角く映像が映し出されていた。
白い空間をスクリーンにプロジェクターで映しているよう感じだ。
これは前世を知らないと、私でも発狂していたと思う。
空間に映像ってそういう技術の存在を知らないと怖過ぎるよね?
そして映像には赤ん坊を抱く女性の姿。
あぁ……。
私が不意に得たのは諦念。
私はやっと理解した。
自分がずっとこの世界に居候している気分で過ごしてきたことを──。
この世界で生まれ育ってきた私の記憶は確かにあるのに、身体だって前の私とは違っているはずなのに。
私の精神も身体も、前世の親から生まれた前世の私しか認識していなかったのだ。
だから、親に会いたいという恋しさも、父親に愛されなかった悲しみも、父親の愛人に虐げられていた苦しみさえ、いつまでも自分のこととして感じることはなかった。
恋しさを知らないわけではない。
寂しさも感じてきた。
でもそれは、前世の人たちへと向かうもので……。
それで良かったんだよ、私は。
ずっとそうやって生きていくつもりでいたんだから。
それなのに……今さらこんなものを見せられてしまったら。
嫌だなぁ。
私がこの世界の子どもになってしまう。
それはだって……この世界で不足してきたものを、それがないことによる感情を、今の私のものにすることだから──。
嫌だなぁと思うのに。
胸に熱く迫るものがある。
自分でもその人は、今の私によく似ていると感じられた。
だから私の顔を見たあの裁かれていた三人は、様子がおかしかったのかもしれないね。
本当によく似ているから、化けて出てきたように思えたのかもね。
あれが……お母さん。
私の額を優しく撫でて、それからキスをしたあの人がお母さん。
あぁ、ちゃんと。
望まれて生まれてきていたんだね。
私はこの世界の子どもだった──。
『ありがとう、リーナ』
とても幸せそうに私と瓜二つのその人は笑っていた。
父親がそこにいなくても、本当に本当に幸せそうな笑顔だった。
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