【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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43.真実の目【神官さま視点】

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※※※残酷な描写があります。苦手な方はこのページをお閉じください※※※




 この人非ざる者たちが犯した大罪を、悍ましい獣にしか見えぬ男の姿を、リリアが見ていることはないだろう。
 女神さまは子どもには格別に優しい御方だから、リリアだけは特別に優しい映像を見ているはず。
 それがリリアのためになればいいと祈りながら、私は拳を握り締めた。

 溢れる魔力を抑えるために。
 罪人共を私的に処刑しないように。 


『このっ。気味が悪い!その子どものせいか!』

 背中を丸めて蹲る夫人の上に馬乗りになる形で、男は何度もその手を高い位置から振り下ろした。
 男の手にはアイスピックのような尖った金属棒が握られていて、もはや手元まで赤く染まっている。

『このっ、このっ!』

 たちまち修復されていく傷に怯え、顔も身体も強張らせながら、それでも力強く男は夫人の背中を突き続ける。

『やめてっ。もうやめて!あなたっ!どうしてなのっ!』

 傷が出来た瞬間だけ出て来る血液は、夫人のドレスも着実に色付けていた。
 その胸に隠すように赤子を抱いて、夫人は泣き叫んでいる。

『うるさい。とっとと死んでくれなかったお前が悪いんだっ!こちらは苦しまぬよう優しさで毒を使ってやったと言うのに。いつまでもどこもなんともないなんて、化け物じゃないかっ!だからこうするしかなかったんだよ!全部、全部お前のせいだっ!』

『もうやめて。お願いよ。離婚でもなんでもするわ。だからやめて!』

『すると言ってから何年目だ!私たちはもう待てない!』

『そんなの知らないわよ。あなたが帰って来ないから、離婚届にサインを貰えなかっただけでしょう!あなたがいれば、いつでも出せたのよ!』

『うるさいっ!お前さえいなければっ!お前がいたからっ!』

『離婚したいなら、どうして子どもが出来るようなことをしたのよ!心を入れ替えるからやり直そうなんて言ったのもあなただわ!』

『貴族なんだから後継ぎは必要だろう!それだけだ!』

『再婚してその人と後継ぎを設ければ良かったのよ!どうせお父さまたちに怒られるのが怖かっただけでしょう!どちらも亡くなるのを待っていたのね!』

『うるさいうるさいっ!もういいから、その子どもを離せ!こっちに寄越せ』

『いやよ、渡さないわ!子どもに何かするなんて。あなた正気じゃないのよっ!女神さまはこんなことお許しになられないわよっ!どうするのよっ!』

 夫人を傷付け続けている時点で、もはや正気ではないだろう。

『くそっ。女神さまのあれがなければ……っ。おい、神官。この子の力を封じてくれ!』

『ひっ。そんなことは出来ませんよ』

『神官なら出来るだろう!何のためにこの場に呼んだと思っている!』

『私は領主殿が御用があると聞き足を運んだだけで。こんなことは受け入れられませんよっ!さすがに無理ですっ!私は神官なのですよっ!』

『お前がしてきたことを神殿に伝えてもいいのか!』

『そんな!それはお約束が違います!』

『なら早く子どもの魔力を封じろ!』

『そ、そうは言われましても……』

『まさか出来ないわけではないな?』

『ま、まさか。神官ですよ?それより領主殿、あなたもどうして魔力で攻撃をしないのです?確かあなたは火の魔力がお得意だったと──』

『うるさいっ!こんな女に貴重な魔力は使わんだけだ』

 不毛な男たちの言い争いの間も、男は夫人の身体を突き刺す手を止めなかった。
 ごふっと口からも血が零れることは、数えきれず。

 そうしてやがて──眼を見開いたまま、夫人の身体が横へと流れた。
 それは最後の力で、赤子を潰さぬよう守ったような動きだった。

 赤子の泣き声が轟く。

『神官!こいつを黙らせろ!』

『そんなことを言われましても……』

 二人はすでに三度も女神さまから警告を告げる夢を見せられていた。
 これは私たちが少し前に映像で見知った事実。

 なのにこの二人は、己を省みることも、言動を改めることもしなかった。
 それはあの女の方も同じだ。

 ただしあの女は、夫人の件には関与していなかった。
 夫人は産後に体調を崩し、そのまま亡くなったものと信じている。

 女の都合のいい解釈に、男は口を合わせるうち、それが真実だったように記憶は塗り替えられていった。
 女神さまの計らいによって夫人は亡くなり、想い合う二人の仲は許されたと信じたのだ。

 とんだ阿呆である。


 そしてまた場面が変わった。


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