【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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58.選択【孤児院職員マリー視点】

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 孤児院が建てられたのは、もう数十年前のこと。
 私は当時を知らないけれど、町の人たちは相当反対したそうね。

 当然だと思うわ。
 神さまに親を与えられなかった子どもたちなんて近くに置きたいと思うわけがないもの。

 その親だって、何をしたか分かったものではないわ。
 子どもを置いて神さまのところへ行くことになった人たちなのよ?
 下手したら破門されているかもしれないじゃない?

 そんな親の子どもだなんて。
 どんな恐ろしい人間に成長するかと誰だって心配になるものよ。
 
 私たちだって、そんな恐ろしい子どもは引き取らない。
 病気になって先行きが短いからと親の意思で預けられた子どもたち。
 あるいは突然の事故等両親を失った理由がはっきりと分かる子どもだけ。

 通常は一人がどうなってしまっても、もう一人の親がいるものだわ。
 神さまの教えを正しく実行している人ならば、子どもが両方の親を失うことなんてそうそうないことなのよ。

 そして神さまの教えを正しく実行しようとも思えば、どんなことがあっても子どもだけは成人するまで育てて行こうと考えるもの。

 だから孤児院に子どもを預けたいと言ってくる大人たちの多くが、真面ではなくて。

 よくいるのが、神さまの教えに反して、結婚せずに子どもを産んだ母親よ。
 一人で育てていくのは経済的にも時間的にも厳しいからと、保護者の権利を譲るから孤児院で育ててくれと言ってくるのね。
 これはお断りよ。

 こういう母親は私たちの答えに怒り狂うわ。
 だけど神さまの教えに反して生まれた子どもの世話なんて冗談じゃないもの。

 子どもが可哀想だと思わないのかと怒鳴られるわよ。
 それより可哀想な子どもがいることを知らされて、切り捨てなきゃならない私たちに同情して欲しいくらいね。


 でもこういう話は内輪だけのもの。

 町の人たちは何も知らないから。
 中にはとても恐ろしい子どもも紛れているんじゃないかと疑っているのでしょう?

 近くに孤児院が建つなんてとんでもないって、それはもう暴動が起きかねないくらいに当時の町の人たちは結託して抗議を行ったそうだわ。
 でもそれは無意味だった。
 田舎町の平民が反対したところで、領主さまが聞いてくれるわけはないでしょう?
 むしろそういう特産物も見所も何ない貧相な田舎の町だから、孤児院が建てられることになったのだもの。
 余計に領主さまの覚えが悪くなっただけだったみたいよ。
 他の町より課せられた税率が高いみたいね?

 だから町の人たちは孤児たちだけでなく、私たちにもずっと冷たくしていたわ。
 買い出しに行けばどこのお店も町の人たちに売るよりずっと高い値段を提示してくるのよ。
 酷い話でしょう?
 でも気持ちは分かってしまうの。
 私だってただの町娘として生きていたらそうしてしまうかもしれないわ。


 孤児院の予算も年々削られていて、日々の暮らしは本当に苦しかったわね。
 毎年のように成果がないから予算を減らすと言われてしまうの。
 そもそも孤児院の成果って何なのかしらね?
 今でも本当に分からないことのひとつよ。

 だからきっと来年も減らされてしまうのでしょうね。

 子どもを大事にしている姿を領主さまが率先して見せるために、世界中に孤児院が建てられたと聞いたことがあるわ。
 それはただの噂話だったということなのでしょう。

 領主さまも孤児院の存在を疎ましく思っているようだもの。
 私が直接お会いすることは一生ないでしょうけれど、無駄に経費が掛かることに怒っていらっしゃるというのは、孤児院にその年の予算を届けに来る管理人がいつも言っていることよ。
 贅沢を知らせず、慎ましく生きられる大人を作りなさいって。
 
 これ以上どうやって慎ましく生きろと言うのよね?
 もう子どもたちに生きることを諦めろと言うしかなくなってしまうわ。

 当然私たちの給料なんて、普通に生活するのも難しいような僅かなもの。
 孤児院の予算と合わせて、なんとか子どもたちと一緒に生きてきたのよ?

 それが嫌でやめていく職員もいたのよね。
 自分の稼ぎを孤児に使うのは嫌だって。
 でもあの人、他で働けているとは思えないから、貧民街にでも落ちてしまっているのではないかしら?

 
 そういうことだから。
 子どもたちはなるべく孤児院から出さないようにしてきたわ。


 ……これもおかしいわね?


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