【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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80.必要な経験【神官さま視点】

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 ヴァイスからこれほどまでに叱られたのは、何年振りだろう。
 幼少期以来のことに間違いない。

 余計なことばかりするヴァイスのせいで、リリアにはあの王子と同じ男として認定された。
 それからどうにも壁を感じ、親しくなろうとしても上手くいかない。

 これまでの世話には感謝していると言いながら、相変わらず私の名前さえ呼んでくれないのはどうなんだ。

 ヴァイスなど連れて来なければ良かったと思った。
 ケオにまで散々に言われたときには、二人を今すぐこの件から引かせることも考えた。

 リリアの保護者に相応しい人物など他にいくらでもいる。
 この国の立て直しを任せる相手も、ケオでなくていい。

 そもそもおかしいのだ。
 あの町にリリアを連れて戻るまで、二人は協力的に見えていた。

 あれだけ生温い視線を向けておきながら、その変わり様はなんだという?


 ヴァイスに至っては分からないならそれまでだと、私を切り捨てるような発言までしてくれた。

 確かに私は将来を選んではいないし、私でなくていいとも思っている。
 子も孫も沢山いるのだから。
 積極的にその地位を望む者が手にすればそれでいい。
 
 しかし私は神殿を出るつもりで生きていない。
 ヴァイスやケオに見限られたという経歴は必ず痛手となろう。
 もっと下の神官たちを連れて来るんだったな。


 落ちてしまったリリアからの評価を上げなくては。
 焦る私にも、ヴァイスは優しさを見せなかった。

 本気で私を見限るつもりなのか?


 しかしあの生意気そうな男からまでも、心底軽蔑していると言いたそうな視線を向けられ続けていることだけは許容出来ない。
 リリアと、そしてヴァイスとまで、すでに身内のような顔をして接していることもだ。

 自分で何かしたわけでもなく、ただ幼い頃から側にいただけの青年ではないか。

 父親の策謀を暴いて罰し、王家から守り、漏れ続ける魔力を制御して。


 この短い期間に彼女のために動いていたのは私だけだ。


 あの若い男に何が出来ただろう?

 せいぜいリリアが生きていることを国が察知したあとに、町から共に逃げ出すくらいのもの。
 それも孤児院育ちで、生まれ育った田舎町の肉屋に雇われただけの男だ。
 逃げた先であっさり捕まり、リリアと引き離されて、良くてリリアを好きなようにする理由として生かされ、悪ければ処刑といったところ。

 これと引き離そうとするのは当然ではないか?

 何の権力も持たず、リリアの重石にしかならない男など、彼女の将来には不要であろう。


 不満を溜め込んだ私が爆発する前に、いよいよヴァイスから一度本神殿に戻るよう伝えられた。
 おじいさまがお呼びだと言うが、お前たちが告げ口したのだろうよ。

 不満たらたらに出来るだけゆっくり本神殿に戻ってやれば。
 おじいさまから満面の笑みでお迎えされた。

 あぁ、これは怒っている。
 それも相当に怒っている。

 ヴァイスといい、おじいさまといい、私の周りには怒るほど笑顔になるという奇怪な人間が多過ぎた。


 それからしばらくは自由な時間がなかった。
 直々に叩き直すと言われ、おじいさまから有難くもないお説教を受け続ける日々。

 暇があり過ぎるだろう、このじいさん。

 そもそものはじまりは、おじいさまではないか。
 つい私が文句を言えば。

 勘違いした私が悪いのだと逆に叱られてしまった。

 なんだって成人したいい大人の私が、祖父から叱られねばならない?


 必要な経験を得ると伝えられ、それがどうして未来の嫁を迎える話に置き換わるのかと。
 おじいさまは心底分からないというように私へと問い掛けた。

 分からないのはこちらの方だった。
 おじいさまがこれまで結んで来た縁の数を考えれば、何故私にはそれを授けなかったのかと疑問しか湧かない。

 おじいさまの主張では、将来の伴侶に出会うと伝えたことは一度もないと言う。
 いつも私のように、必要な経験を得る場所へと人を送っていただけ。
 多くの者は気付けばその地で結婚していたと、実情はそういう話だった。

 女神さまとのお喋りが趣味と豪語するこのじいさんは、てっきり女神さまと縁結びの話で盛り上がっているのかと思っていたが。
 そんなことは無いと言う。

 今さら知らされても困るのだが?

『お前は将来の伴侶でなければ、彼女を救わなかったのか』

 すぐに答えられなかった。

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