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3.久しぶりの熱 キーラ編
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昨日の昼間に読んだ二通目の手紙。
昨夜から急に上がった熱。
同じ日だったことは偶然。
ただそれだけのこと。
キーラはそう考える。
だけど義兄はそうではない。
「だから俺は反対だった」
こういうとき、キーラのベッドの脇に置かれた椅子は、いつでも義兄ローレンスの定位置となる。
「お義兄さま。ただのいつもの風邪ですわ。手紙は関係ありませんの。こほっ」
昔からキーラは冬に入る前のこの時期に熱を出してきた。
幼い頃は毎年だったそれも、近年は隔年くらいに落ち着いていたものだが。
今年はその当たり年となってしまっただけ。
手紙は関係ない。
キーラが何度もそう言っているのに、ローレンスは昨夜からずっと怒り続けている。
手紙を読ませた両親すら許せないのだと、ローレンスは憤った。
「あぁ、キーラ。無理に話さなくていい」
「話さなければ、お義兄さまは飛んでいってしまうでしょう?」
「そんなことはしないよ。キーラの熱が下がるまで、俺は離れない」
「下がったら?」
「出来る限りキーラと一緒にいるよ」
「もう!そういうことではないと分かっているくせに。……けほっこほっ」
「あぁ、キーラ。本当にお喋りはそこまでにしよう。後のことは俺に任せて、ゆっくりお眠り」
「もう少しだけ聞いて、お義兄さま。お願いよ」
切なそうに眉を下げて、ローレンスはキーラの額に手を置いた。
「少し下がったね?」
「昔のように弱くはないもの。すぐに治すわ。それよりもお義兄さま。お話を聞いて」
肩を竦めて笑ったローレンスは、指先でキーラの額を撫でた。
「まずね、キーラ。そのお義兄さまというのがいけない」
「まだお義兄さまよ?」
「そうかい?お義兄さまでなくなったときの、覚悟は出来ているんだね?」
「覚悟って……怖いことのように言わないで?」
「少しずつ慣らしておこうと思ったのに、いつまでも呼んでくれないからだ。一気に箍が外れて、どうなっても知らないよ?」
「お義兄さまの箍でしょう?ゆっくり動かせばいいわ」
「まったくもう。キーラには敵わない」
それからローレンスは、キーラの柔らかい頬を指先で突いた。
「俺はね、キーラ。何もキーラを生んでくれた人たちを消し炭にしようとまでは考えていないよ?」
「お義兄さまがそういうお顔をされているときは、まったく信用ならないわ。そんなことしてくださらなくていいの。それにね、お義兄さま。いい機会だと思って。だから私──」
しばらくして、キーラは何か続けようとして開いていた口を閉じてしまった。
ローレンスの表情に優しさが満ちていく。
「大丈夫だよ、キーラ。父上も母上もそれくらいで悲しまない。もちろん俺もね」
「お見通しなら、お義兄さまから言ってくれても良かったのに」
「俺はキーラにお願いされたいからね」
ローレンスの指先は、むぅっと口を尖らせたキーラの唇へと移動した。
「キーラは、会いたいんだね?」
キーラが寝たまま頷くと、指が離れていく。
「最初に手紙を読んだときは、本当に何も感じなかったのよ?」
「うん」
「それから急に気になって。そうしたら二通目が届いたから」
「うん」
「あちらも望んでくださるなら、一度は会ってみてもいいのかしらって。親しくしたいとか、そういう気持ちはないの。ただ知っておいたら、将来のためになると思ったのよ」
ローレンスの目が見開かれた。
キーラはそれに気付かないようで、ローレンスの胸の辺りを見ながら語る。
「ほら、祖父母や親の兄弟に似てしまうことって、意外にあるのでしょう?お義兄さまも子どもの頃は、おじいさまによく似ていると言われていらしたもの。もしも私の方に似たら、知らないことで困ることもあるかもしれないし、知っていれば何か出来ることも増えるのではないかしらと思って」
ローレンスが両手で顔を覆った。
何事かとローレンスの顔を見たあとで、キーラは毛布を被った。
「キーラ。俺の勘違いではなかったら、それは俺たちの子どもの話だね?」
「知らない!」
そこからはキーラの知らない話。
ローレンスは声を上げて笑い、その笑いが静まったあとも、毛布に隠れたキーラをいつまでも愛おしそうに見ていた。
やがて寝息が聴こえても、ローレンスは長い時間そこにいた。
昨夜から急に上がった熱。
同じ日だったことは偶然。
ただそれだけのこと。
キーラはそう考える。
だけど義兄はそうではない。
「だから俺は反対だった」
こういうとき、キーラのベッドの脇に置かれた椅子は、いつでも義兄ローレンスの定位置となる。
「お義兄さま。ただのいつもの風邪ですわ。手紙は関係ありませんの。こほっ」
昔からキーラは冬に入る前のこの時期に熱を出してきた。
幼い頃は毎年だったそれも、近年は隔年くらいに落ち着いていたものだが。
今年はその当たり年となってしまっただけ。
手紙は関係ない。
キーラが何度もそう言っているのに、ローレンスは昨夜からずっと怒り続けている。
手紙を読ませた両親すら許せないのだと、ローレンスは憤った。
「あぁ、キーラ。無理に話さなくていい」
「話さなければ、お義兄さまは飛んでいってしまうでしょう?」
「そんなことはしないよ。キーラの熱が下がるまで、俺は離れない」
「下がったら?」
「出来る限りキーラと一緒にいるよ」
「もう!そういうことではないと分かっているくせに。……けほっこほっ」
「あぁ、キーラ。本当にお喋りはそこまでにしよう。後のことは俺に任せて、ゆっくりお眠り」
「もう少しだけ聞いて、お義兄さま。お願いよ」
切なそうに眉を下げて、ローレンスはキーラの額に手を置いた。
「少し下がったね?」
「昔のように弱くはないもの。すぐに治すわ。それよりもお義兄さま。お話を聞いて」
肩を竦めて笑ったローレンスは、指先でキーラの額を撫でた。
「まずね、キーラ。そのお義兄さまというのがいけない」
「まだお義兄さまよ?」
「そうかい?お義兄さまでなくなったときの、覚悟は出来ているんだね?」
「覚悟って……怖いことのように言わないで?」
「少しずつ慣らしておこうと思ったのに、いつまでも呼んでくれないからだ。一気に箍が外れて、どうなっても知らないよ?」
「お義兄さまの箍でしょう?ゆっくり動かせばいいわ」
「まったくもう。キーラには敵わない」
それからローレンスは、キーラの柔らかい頬を指先で突いた。
「俺はね、キーラ。何もキーラを生んでくれた人たちを消し炭にしようとまでは考えていないよ?」
「お義兄さまがそういうお顔をされているときは、まったく信用ならないわ。そんなことしてくださらなくていいの。それにね、お義兄さま。いい機会だと思って。だから私──」
しばらくして、キーラは何か続けようとして開いていた口を閉じてしまった。
ローレンスの表情に優しさが満ちていく。
「大丈夫だよ、キーラ。父上も母上もそれくらいで悲しまない。もちろん俺もね」
「お見通しなら、お義兄さまから言ってくれても良かったのに」
「俺はキーラにお願いされたいからね」
ローレンスの指先は、むぅっと口を尖らせたキーラの唇へと移動した。
「キーラは、会いたいんだね?」
キーラが寝たまま頷くと、指が離れていく。
「最初に手紙を読んだときは、本当に何も感じなかったのよ?」
「うん」
「それから急に気になって。そうしたら二通目が届いたから」
「うん」
「あちらも望んでくださるなら、一度は会ってみてもいいのかしらって。親しくしたいとか、そういう気持ちはないの。ただ知っておいたら、将来のためになると思ったのよ」
ローレンスの目が見開かれた。
キーラはそれに気付かないようで、ローレンスの胸の辺りを見ながら語る。
「ほら、祖父母や親の兄弟に似てしまうことって、意外にあるのでしょう?お義兄さまも子どもの頃は、おじいさまによく似ていると言われていらしたもの。もしも私の方に似たら、知らないことで困ることもあるかもしれないし、知っていれば何か出来ることも増えるのではないかしらと思って」
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何事かとローレンスの顔を見たあとで、キーラは毛布を被った。
「キーラ。俺の勘違いではなかったら、それは俺たちの子どもの話だね?」
「知らない!」
そこからはキーラの知らない話。
ローレンスは声を上げて笑い、その笑いが静まったあとも、毛布に隠れたキーラをいつまでも愛おしそうに見ていた。
やがて寝息が聴こえても、ローレンスは長い時間そこにいた。
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