【完結】子爵家の四女として生まれたキーラ。元家族はとんでもない人たちでした。

春風由実

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12.元お姉さまたちも、とんでもない方々でした。 ローレンス編

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 気持ち悪いと言われること、これは覚悟のうえだ。
 何より自分でも、そう思っていた時期がある。

 今は私が何を言っても、言い訳に聴こえることだろう。
 けれども本当にあるときまでは、キーラは私にとって妹だった。

 だから恋心を自覚したときの私は、嫌悪感を抱くことになったのだ。



 ◇◆◇



 最初に私の内に生じた変化は、呼び方だった。
 今考えればそれが、恋慕の情の芽生えのときだったのだろう。


『おにいさま』


 あれほど好きだったキーラからの呼び掛けに、何か気に障るような、少しの抵抗感を覚えたあの日。
 キーラに要らぬ心配を掛けまいと、私はそれを隠して、いつも通りキーラと過ごした。

 それからいくら月日が流れても、小さな抵抗感はずっと胸の内に燻ったまま。
 それでも私の中でキーラが一つ年下の妹という認識は変わらなかった。


 次に生じた変化は、他家の子息たちとの交流の中だった。

 次期当主として、キーラよりずっと早くから他家の子息たちと付き合いをはじめていた私は、その頃には気安く話せる友人と呼べる者たちも出来ていた。

 ある時期から、示し合わせたように、友人たちが私の妹に会いたいと口にするようになった。
 今なら彼らがどういう時期にあったのか分かるけれど、当時はただただ友人たちの言葉を不快に想って、妹に会いたいと言われるたびに私ははっきりと断っていた。

 おかげで私は友人たちから妹を溺愛する兄として認識されたようだ。


 そしてついに、改革と言っていい私の認識が変容するときが訪れる。

 それを齎したのは、特に仲のいい友人の言葉だった。


『それだけ大事に想う妹なら、よく知る男と結婚させた方が安心だろう?私なんかは、事情も知っているし、爵位もちょうど良く、妹の夫として適任だと思わないか?』


 まず湧いたのは怒りだった。
 私の様子がおかしいことにすぐに気が付いた友人は、調子に乗り過ぎたと反省を口にしていたが。

 それは聴こえていたが、気にならないくらいに、私は怒りに支配されていた。


 キーラが余所の男と結婚する?


 私も馬鹿ではないから、このときには気が付いた。

 すると次に湧いた感情は、強い嫌悪感だ。
 誰にだって?私に対してだよ。


 キーラは私を兄として見ているのに。
 私はそんなキーラを、妹として見られていないと分かったのだから。

 妹の信頼を裏切る行為だし、兄なのに妹に恋慕する自分が、心底気持ち悪い男だと思った。


 それでも気付いてしまった気持ちに蓋をすることも出来ず。

 それどころか気付いたせいで、気持ちは溢れて止まらなくなって。


 今までのように振る舞える自信も失った私は、もう離れるしか手はないと考えた。

 傷付けたくなかったから、いきなりは無理でも。
 徐々に距離を置いて、キーラから離れようと決意したのだ。


 そんな私の浅慮な愚行を止めたのが、キーラだった。


『お兄さまは、私のことが嫌いになってしまったの?』


『お兄さまに好かれるように頑張るわ。だからお願い。どこにも行かないで』


 五歳までの環境が影響していたのだろうか。
 離れようとしていることに敏感に気が付いたキーラは、私に縋った。

 そして熱を出し、しばらく寝込んでしまったのだ。


 離れられるわけがないと思った。

 キーラが遠くで悲しんでいたら?
 熱を出して苦しんでいたら?

 側にいられない状況を想像するだけで、気が狂いそうだった。


 恥を忍び、後継の座を降りる覚悟で、私は両親に相談した。

 もう私一人では、どうにも出来ない状況だったからだ。


 ところが両親は、私の気持ちにはとっくに気が付いていたと言い出し、私を笑った。
 本気で悩んでいる息子をよくあれほどに笑えたものだよ。

 しかしあのときの私は、こんな両親に救われたのだ。

 すべてはキーラの気持ち次第。
 無理強いはしないこと。誘導もしないこと。もちろん嫌がられたらそこまで。
 他に好きな人が出来たときは祝福なさい。出来ないならそのときは本当に離れること。

 笑った両親は、条件を提示しても、私の想いを決して否定しなかった。
 こうしてその日から、両親の言葉に甘えた私は、キーラの側で、キーラを愛し続けてきたのである。

 口説いたかって?当然だよ。
 好意を向けて貰えるよう努力したとも。

 気持ち悪いと思われない程度に……この匙加減はなかなかに大変だったね。


 そしてキーラは、私の気持ちを知ったあとも、一度だって気持ち悪いと言うことはなかった。



 ◇◆◇


 キーラの姉たちは、どの家に婚約を打診しても、断られているらしい。
 エンデベルク子爵家が、育児放棄するような家として知られたからだ。

 さらにキーラがウェーバー侯爵家の養女となっていることで、その関係性を疑って、エンデベルク子爵家には近付きたくないというのが多くの貴族たちの本音だろう。


 そこで私と結婚させようと考えるところは、さすが実子を育児放棄したエンデベルク子爵家だと言える。
 キーラの過去について誰より深く知る我が家と、自ら望んで繋がろうと考えるとは。


 気持ち悪いと言われたが、私も今、彼女たちを気持ち悪いと感じている。

 どの女の視線も不快だ。


 保護されたのが私だったらと言った女もいたな?

 保護したからではない。
 義兄だからでもない。

 確かに出会えていなければ、側にいなければ、想いを抱くことはなかったかもしれないが。

 私がキーラを愛しているのは、キーラだからだ。


 我が家に来てからもキーラは辛い日々を重ねた。
 あれほど弱った身体が元気になるには多くの時間が必要で、今では大分強くなったとはいえ、あの時間がなく無事に成長した先にあった身体に戻れているかは分からない。


 何度も熱を出して。魘されて。痛い想いもして。苦い薬を飲んで。
 それでもキーラは泣かなかった。辛い、苦しい、嫌だとは言わず、大丈夫、ありがとう、ごめんなさい、と繰り返す。
 育児放棄されていた事実を知ってからも、生家に恨み言ひとつ口にしたことのないキーラだから。

 私は気が付いたときには、恋に落ちていた。


 姉たちの誰が幸せになろうとも、キーラは羨ましいとも、酷いとも、狡いとも口にしない。
 これは絶対だ。

 しかし姉たちは言った。
 キーラが羨ましいと、酷いと、狡いと。

 キーラの境遇を知っていてそう言った。

 誰がお前たちを選ぶか。





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