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9.元お母さまも、とんでもない方でした。 キーラ編
しおりを挟む「あなたは何を言っているのだ。我がウェーバー侯爵家は、娘キーラを外に出す気はない」
ウェーバー侯爵の発言は、強く主張する口調だった。
応接室に重たい空気が漂い始める。
「え?しかし……確かに聞いたのですが」
エンデベルク子爵家当主と思われる男の彷徨う視線が、キーラを捉えた。
どんな想いで見詰めているかも分からず、キーラは首を傾げるだけである。
「不思議ね、お義兄さま。誰に聞いたのかしら?」
「不届き者があったのだろうね。よく調べておくよ」
「お義兄さま。ほどほどにお願いよ?」
ローレンスと会話をしている間に、エンデベルク子爵家当主と思われる男が顔を真っ赤にしていたのはどうしてか。
キーラにはそれも分からなかった。
男は今にもキーラに何か言ってきそうな気配はあったが、義父であるウェーバー侯爵がこれを妨げる。
「可哀想に。間違った話を聞いたのだな。ではもう用はよろしいか?」
「いや、あの……娘は侯爵家を出ない?……しかし……いずれは出ますよね?」
「出す気はないと言ったが?娘に何の権利も持たぬあなたが、私に何か意見があるとでも?」
「えっ。いえ、その意見といいますか、私の娘のことですし……いつまでも頼るのも悪いことですから。将来はこちらで考えようと思っておりまして」
「将来とはなんだ?まさか娘の将来とは言わないな?」
「え?娘の将来の話ですが」
「あなたにそれを考える権利はない。そういう話がしたいなら、聞く気はないから今すぐ帰ってくれ」
「そんなっ。お待ちください。まだ大事な話があります!」
もう聞く気がないと、ウェーバー侯爵が振り返り「お客さまがお帰りだ」と言おうとしたとき。
「あなた。私が話しますわ」
女性の声がした。
おそらくは彼女がエンデベルク子爵夫人だろうと、キーラは思う。
そしてそんな女性を見ても何にも感じるものがなくて、キーラはまた安堵した。
隣ではローレンスがキーラの横顔を見詰めて穏やかに微笑んでいたが、キーラは知らない。
「侯爵。わたくしたちが間違った情報を流され騙されていたことを教えてくださり、感謝いたしますわ。今後は気を付けられますもの」
ウェーバー侯爵は使用人へ掛ける言葉を止めたが、それからも無言だった。
すると女性はこれを発言の了承と捉えたのか、さらに言った。
「大事な娘のことですから、わたくしたちも話を聞いて、確認もせずに慌てて動いてしまいましたわ。こうして全員で迎えにも来ましたのよ」
それからはしばらく静寂が流れた。
女性はどうやら返事を待っているらしい。
「はぁ。それで?」
疲れたように、ウェーバー侯爵が問えば、女性は嬉しそうに言葉を紡いだ。
「それでもいつまでもお世話になるわけにはいかないでしょう?いつその娘を返していただけますでしょうか?こちらも出来れば早く予定を立てたいと思っておりますの」
「返すだなんて。何を言っているのかしら?」
それは義母ウェーバー侯爵夫人の言葉だった。
いつもの淑女らしい美しき笑みが完璧に保たれていることに、キーラは不安を覚える。
大丈夫かしらと隣を見れば、優しく微笑むローレンスがそこにいて、気は楽になったものの……キーラはまだ家族が心配だった。
会いたいと望んだのはキーラだが、こんなにもとんでもない人たちが現れるとまでは予測していなかったから。
過去を考えれば、真面な人間ではないとは思っていても、そこは貴族。
どれほど酷い人たちだったとして、この場ではしかと取り繕った貴族らしい者たちに会うことになろうと、キーラは考えていたのである。
それがこれでは……危ない。
キーラの心配も知らず。
エンデベルク子爵夫人と思われる女性は、何かおかしいかしら?というように首を傾げ微笑むと、さらに言った。
「それから本日子どもたち全員を連れて来ましたのはね。娘がお世話になったこともご縁かと思いまして。次代の若い者たちで仲良くなってはどうかしらと思いましたの。娘をすぐに返していただけないということでしたら、本日は交流だけでもいかがかしら?ご令息もまだ婚約されておられないようですもの、ちょうどよろしいわ」
「は?」
と言ったのは、義父ウェーバー侯爵で。
「今ならどの子でも選んでいただけましてよ?」
「あ?」
と言ったのは、義兄ローレンスだった。
キーラは思わず義母と視線を交わす。
我が家の男性陣、大丈夫かしら?と。
しかしその義母も「おほほ。おかしいことを仰るわ」と笑っているが、目が据わっていて頼りにならない。
まずいと思ったキーラは、ゆったりといつものように彼らを呼んだ。
「お義父さま。お義母さま。お義兄さま。この方は、ただ知らないのですわ。発表前ですもの」
しかしいつもの手が、この場の家族には通用しなかった。
「キーラは、そろそろ疲れたね?退室しようか?」
「大丈夫ですわ」
「いいえ、無理をしてはいけないわ。先日熱を出したばかりですもの」
「そうだったな。キーラ、彼らの対応は私たちに任せなさい。いいね?」
こうなってしまったら。
キーラに出来ること、それは祈るばかり。
「せめて……お手柔らかにお願い出来まして?」
キーラの言葉に、家族皆が笑顔で頷いた。
キーラは何も安心出来ず、まだこの場に居たいと望んだ。
しかし先に立ち上がったローレンスが、キーラの手を引いてる。
もちろん優しい力であったが、ローレンスの落ちて来る視線から有無を言わさぬ強い意思を感じ取ったキーラは、諦めて立ち上がると。
「待ちなさいよ!私たちを置いて、どこに行く気なの?」
また別の若い女性の声がした。
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