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10.元お母さまも、とんでもない方でした。 ローレンス編
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こうして全員と対面すれば、キーラの件の調査報告書から読み取ったエンデベルク子爵家の者たちの人間性が、変わらず今も維持されていることをよく理解した。
長年に渡って王家が送り込んだ担当官たちからこんこんと言い聞かされて、期待したわけではなくも、少しの変化は見られるかと思いきや──。
◇◆◇
エンデベルク子爵家の現当主と夫人は、似合いの夫婦だ。
キーラの件の調査が始まると、二人は別々の部屋にいながら、それぞれ次のように証言している。
「家のことは、すべて妻に任せていたから分からない」
「使用人の差配は、すべて家令に任せていたから分からないわ」
娘の状態を詳しく知らされても娘を心配する言葉はひとつもなく、両親から見受けられたものが自己保身と他責思考だったことに、担当官たちは怒り、貴族相手としてはかなり厳しく尋問を繰り返したようだ。
しかし担当官たちの様子が変わろうと、夫妻の態度にさほどの変化は見られなかった。
むしろ担当官たちが厳しくなるほど、より自己保身に走り、他責思考を強化していったとも言えるだろう。
キーラの弟の部屋には頻繁に足を運んでいたことを指摘されたときも、夫妻は別々に取り調べを受けていながら同じように口にした。
「息子は嫡男だぞ?私が息子をよく構うことは当然だ」
「息子は嫡男よ?構う頻度も娘たちより増えて当然でしょう?」
上の三人の姉妹の様子は時折確認していたのに、何故四女キーラの様子は一度も見なかったのか。
そう問われたときも、夫妻はそれぞれに言った。
「妻を信頼して任せていたからだ」
「家令を信頼していたのよ」
キーラの不幸は、弟が生まれたことではなく、姉が三人もいたことでもなく、この両親から生まれたことだろう。
さてそのキーラの三人の姉たち。
こんな両親から生まれたことを可哀想に思うも、キーラの件の調査中は、幼いからという理由だけではとても許してやれない言動を見せていた。
三女についてはキーラ保護当時七歳だったことを考慮され、妹の育児放棄があったという事実のみで詳しい話はいつまでもされなかったようだが。
当時十一歳と九歳だった長女と次女は、調査中に年齢を重ねていったこともあり、自ら望んだ形でキーラ虐待の仔細を聞くことになった。
それでもどの姉もキーラが無事かと聞くこともなく、反省や後悔の言葉もない。
「侍女たちが勝手にしたことよ?」
「嫡男だもの。弟の方が大切なのは当然でしょう?」
「妹の世話?使用人がするものだわ」
両親と似たようなことを口にした姉たちは、侍女について問われるとこう言った。
「私も侍女を取られて困っていたのよ。私はもう下の子たちのように暇ではなかったもの。時間のある妹たちの侍女たちに任せて、どうして悪いのかしら?」
「私の専属侍女なのよ?私を大事にさせるわ。当たり前でしょう?」
「私の侍女だもの。幼い私の側から離れられなくて当然だったわ」
弟が生まれてしばらく、まだキーラが世話をされていた頃から、この姉たちが侍女の働きを制限していたことが分かっている。
侍女がキーラの世話に行こうとする素振りを見ると、重要でもないのに急ぎの仕事を与えたり、側にいるよう強請ったり、泣いてみせたりと、こちらも示し合わせたわけでもないのに、姉たちはそれぞれに侍女がキーラのところに行かないように誘導していた。
これは侍女側からも証言が取れている。
侍女たちが「仕事をしていた」と主張したことには、こういう理由もあったのだろう。
だから何だという話だが。
◇◆◇
キーラが成人するまで、恩情を与えられたというのに。
まだ子どもだったから、成長を見ようと待たれたというのに。
あれだけ家に王家からの人間が入り込んでいても、誰も変わらなかったとすれば……。
私は少年を見た。
無言でキーラを見詰め続けるこの少年についても、その成長は期待出来ないだろう。
両親がおかしなことばかり言っていても、いつまでも表情に変化が見られないのだから──。
しかしエンデベルク子爵夫妻。
まさか詫びるどころか、私との結婚を狙って子連れで訪問していたとはね。
いい噂のない貴族家と接触している話は聞いていた。
そこまで娘たちの結婚相手探しに困窮しているのだと捉え、勝手に落ちてくれるならばと、姉たちについては直接手を下すまでもないと判断してやっていたが。
その姉たちの、まんざらでもないという顔。
この私でも、当時子どもだったことを考慮して、穏便に考えてやっていたというのに。
おかげで両親に止められる心配はなくなったが。
獲物が奪われる心配をより強くしなければならなくなった。
キーラ。
後はすべて私が行うから。
おかしな声に立ち止まらなくていい。
ほら早く、退室しようね?
長年に渡って王家が送り込んだ担当官たちからこんこんと言い聞かされて、期待したわけではなくも、少しの変化は見られるかと思いきや──。
◇◆◇
エンデベルク子爵家の現当主と夫人は、似合いの夫婦だ。
キーラの件の調査が始まると、二人は別々の部屋にいながら、それぞれ次のように証言している。
「家のことは、すべて妻に任せていたから分からない」
「使用人の差配は、すべて家令に任せていたから分からないわ」
娘の状態を詳しく知らされても娘を心配する言葉はひとつもなく、両親から見受けられたものが自己保身と他責思考だったことに、担当官たちは怒り、貴族相手としてはかなり厳しく尋問を繰り返したようだ。
しかし担当官たちの様子が変わろうと、夫妻の態度にさほどの変化は見られなかった。
むしろ担当官たちが厳しくなるほど、より自己保身に走り、他責思考を強化していったとも言えるだろう。
キーラの弟の部屋には頻繁に足を運んでいたことを指摘されたときも、夫妻は別々に取り調べを受けていながら同じように口にした。
「息子は嫡男だぞ?私が息子をよく構うことは当然だ」
「息子は嫡男よ?構う頻度も娘たちより増えて当然でしょう?」
上の三人の姉妹の様子は時折確認していたのに、何故四女キーラの様子は一度も見なかったのか。
そう問われたときも、夫妻はそれぞれに言った。
「妻を信頼して任せていたからだ」
「家令を信頼していたのよ」
キーラの不幸は、弟が生まれたことではなく、姉が三人もいたことでもなく、この両親から生まれたことだろう。
さてそのキーラの三人の姉たち。
こんな両親から生まれたことを可哀想に思うも、キーラの件の調査中は、幼いからという理由だけではとても許してやれない言動を見せていた。
三女についてはキーラ保護当時七歳だったことを考慮され、妹の育児放棄があったという事実のみで詳しい話はいつまでもされなかったようだが。
当時十一歳と九歳だった長女と次女は、調査中に年齢を重ねていったこともあり、自ら望んだ形でキーラ虐待の仔細を聞くことになった。
それでもどの姉もキーラが無事かと聞くこともなく、反省や後悔の言葉もない。
「侍女たちが勝手にしたことよ?」
「嫡男だもの。弟の方が大切なのは当然でしょう?」
「妹の世話?使用人がするものだわ」
両親と似たようなことを口にした姉たちは、侍女について問われるとこう言った。
「私も侍女を取られて困っていたのよ。私はもう下の子たちのように暇ではなかったもの。時間のある妹たちの侍女たちに任せて、どうして悪いのかしら?」
「私の専属侍女なのよ?私を大事にさせるわ。当たり前でしょう?」
「私の侍女だもの。幼い私の側から離れられなくて当然だったわ」
弟が生まれてしばらく、まだキーラが世話をされていた頃から、この姉たちが侍女の働きを制限していたことが分かっている。
侍女がキーラの世話に行こうとする素振りを見ると、重要でもないのに急ぎの仕事を与えたり、側にいるよう強請ったり、泣いてみせたりと、こちらも示し合わせたわけでもないのに、姉たちはそれぞれに侍女がキーラのところに行かないように誘導していた。
これは侍女側からも証言が取れている。
侍女たちが「仕事をしていた」と主張したことには、こういう理由もあったのだろう。
だから何だという話だが。
◇◆◇
キーラが成人するまで、恩情を与えられたというのに。
まだ子どもだったから、成長を見ようと待たれたというのに。
あれだけ家に王家からの人間が入り込んでいても、誰も変わらなかったとすれば……。
私は少年を見た。
無言でキーラを見詰め続けるこの少年についても、その成長は期待出来ないだろう。
両親がおかしなことばかり言っていても、いつまでも表情に変化が見られないのだから──。
しかしエンデベルク子爵夫妻。
まさか詫びるどころか、私との結婚を狙って子連れで訪問していたとはね。
いい噂のない貴族家と接触している話は聞いていた。
そこまで娘たちの結婚相手探しに困窮しているのだと捉え、勝手に落ちてくれるならばと、姉たちについては直接手を下すまでもないと判断してやっていたが。
その姉たちの、まんざらでもないという顔。
この私でも、当時子どもだったことを考慮して、穏便に考えてやっていたというのに。
おかげで両親に止められる心配はなくなったが。
獲物が奪われる心配をより強くしなければならなくなった。
キーラ。
後はすべて私が行うから。
おかしな声に立ち止まらなくていい。
ほら早く、退室しようね?
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