301 / 349
♥選ぶもの
84.知らない顔
しおりを挟む
「……どうしよう、キリム。何も分からない」
鬼気迫るアイリーンの視線の圧に負けたシーラの視線は、縋るようにキリムに逃げた。
「ふふ。思い込みが過ぎましてよ、アイリーン嬢」
「申し訳ありません。しかしながら仔細聞いてしまっては──」
一体どんな想像をして、気を遣っているのだろうか。
アイリーンの中でシーラとイルハについてのどんな物語が成り立っているか大変興味のあるキリムであったが、早く本当のシーラを知ってアイリーンをこちら側に巻き込んでしまいたいので、今は聞くことをやめておく。
その話だけで、お茶会が終わってしまいそうだったから。
「気遣いは素晴らしいけれど、あなたの前提が正しいとは限らないわ。ねぇ、シーラ。レンスター卿はあなたと一緒に編み物をなさるのよね?」
「うん。私が出来なかったから、一緒にしたのは一度だけだけどね!今度、イルハの編んだマフラーを見る?」
「是非見せていただきたいわ」
アイリーンの反応はかなり遅れた。
「……は?」
「え?」
「うふふ」
アイリーンは口を小さく空けて呆け、シーラはどうしたのかと首を傾げる。
その二人を交互に眺め、キリムは笑った。
「レンスター卿はあなたの前ではどんな感じかしら?」
「どんな?イルハはいつもイルハの感じだよ?」
「……なっ!」
「え?」
「うふふ」
また似たようなときが繰り返される。
こんなこと、あと何回続くのかしら?とキリムは回数を予測して自分の中だけで楽しむことにした。
「分かりにくい聞き方をしてしまったわね。そうだわ。ここに来る前に、レンスター卿があなたに何を言っていたか聞かせてくださる?」
シーラから満面の笑みが零れると、その笑顔をアイリーンは疑うことが出来ない。
「帰りは迎えに行くからねって。それから帰りたくなったらいつでも伝言を頼むようにと言っていたよ。時間に関係なくイルハが迎えに来てくれるんだって。今日はお仕事が忙しくないからそのまま一緒に帰ると言っていたの」
「まぁ、それは……大変ね」
今夜を想像して、キリムは面倒ね、と思ったが顔には出さない。
「大変?」
「いいえ、こちらの話よ。他にも何か言っていらして?」
「リタが夕食に特別なものを作るから食べ過ぎないように……あ!沢山食べちゃった。でもまだ沢山食べられるから平気だね。イルハって私のお腹がどうなっているか不思議なんだって。どうにもなっていないのにね?」
いいえ、それは私も気になっているわ。
なんてキリムは思うがこれも口にはしなかった。
もっと面白い話を早く聞き出したいから。
「そうそう今日の装いが素敵だって褒めてくれたの。それはもう朝から何回も言っていた!」
ここでキリムは、自分がいつもならしていることを今日はしていなかったことに気付く。
どちらに対してもだ。
鬼気迫るアイリーンの視線の圧に負けたシーラの視線は、縋るようにキリムに逃げた。
「ふふ。思い込みが過ぎましてよ、アイリーン嬢」
「申し訳ありません。しかしながら仔細聞いてしまっては──」
一体どんな想像をして、気を遣っているのだろうか。
アイリーンの中でシーラとイルハについてのどんな物語が成り立っているか大変興味のあるキリムであったが、早く本当のシーラを知ってアイリーンをこちら側に巻き込んでしまいたいので、今は聞くことをやめておく。
その話だけで、お茶会が終わってしまいそうだったから。
「気遣いは素晴らしいけれど、あなたの前提が正しいとは限らないわ。ねぇ、シーラ。レンスター卿はあなたと一緒に編み物をなさるのよね?」
「うん。私が出来なかったから、一緒にしたのは一度だけだけどね!今度、イルハの編んだマフラーを見る?」
「是非見せていただきたいわ」
アイリーンの反応はかなり遅れた。
「……は?」
「え?」
「うふふ」
アイリーンは口を小さく空けて呆け、シーラはどうしたのかと首を傾げる。
その二人を交互に眺め、キリムは笑った。
「レンスター卿はあなたの前ではどんな感じかしら?」
「どんな?イルハはいつもイルハの感じだよ?」
「……なっ!」
「え?」
「うふふ」
また似たようなときが繰り返される。
こんなこと、あと何回続くのかしら?とキリムは回数を予測して自分の中だけで楽しむことにした。
「分かりにくい聞き方をしてしまったわね。そうだわ。ここに来る前に、レンスター卿があなたに何を言っていたか聞かせてくださる?」
シーラから満面の笑みが零れると、その笑顔をアイリーンは疑うことが出来ない。
「帰りは迎えに行くからねって。それから帰りたくなったらいつでも伝言を頼むようにと言っていたよ。時間に関係なくイルハが迎えに来てくれるんだって。今日はお仕事が忙しくないからそのまま一緒に帰ると言っていたの」
「まぁ、それは……大変ね」
今夜を想像して、キリムは面倒ね、と思ったが顔には出さない。
「大変?」
「いいえ、こちらの話よ。他にも何か言っていらして?」
「リタが夕食に特別なものを作るから食べ過ぎないように……あ!沢山食べちゃった。でもまだ沢山食べられるから平気だね。イルハって私のお腹がどうなっているか不思議なんだって。どうにもなっていないのにね?」
いいえ、それは私も気になっているわ。
なんてキリムは思うがこれも口にはしなかった。
もっと面白い話を早く聞き出したいから。
「そうそう今日の装いが素敵だって褒めてくれたの。それはもう朝から何回も言っていた!」
ここでキリムは、自分がいつもならしていることを今日はしていなかったことに気付く。
どちらに対してもだ。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる