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16.私の目指す夫人像は母です
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あれから急に侍女の皆さんがフレンドリーになりました。
よく話し掛けてくれるようになったのです。
侯爵家に着いてから結婚式までの間に客間で過ごした頃とはまるで違う態度には、少し驚いてしまいましたが。
いえ、結婚式と晩餐会を終えてこの邸に戻ってからも、侍女たちの様子は以前と同じでしたのに。
この一晩で一体何が起きたのでしょうか?
黙々と完璧なお仕事をされている様子に、侯爵家にはお喋りをしながら働いてはいけない決まりでもあるのかと思って、こちらも必要以上に話し掛けることを躊躇っていたのですが。
意外なことに、ひとたび口を開けば、とっても気さくな方たちでした。
今もこの通り。
「ラベンダーの香りは好きなんですよ。でもどうしても口に含むことが受け付けなくて」
「我が領にもそういう方はいらっしゃいました。好みの問題ですから、これはもう仕方がないことだと思いますよ」
どれだけ美味しいと伝えたところで、苦手な人には通じません。
我が領でも、皆がラベンダーをお茶にして飲むからと言って、苦手な人にまですすめることはありませんでした。
「私はもう少し頑張ってみようと思います。奥様のお好みを理解したいので」
そんな宣言をしてくれた侍女の名は、マリーと言います。
そのような努力は望んでおりませんが、私も頑張りたくなってきました。
「無理はしないでちょうだいね?それから、私にもマリーの好みを教えて頂けるかしら?他の皆にもお願い出来る?」
私も侍女の好みを把握しておきたいですからね。
そうすれば、日頃の感謝を的確に伝えられるようになります。
まぁ、とか。
ふふ、だとか。
それぞれ明るい声と共に微笑んでおりましたので、私はつい調子に乗ってしまいました。
「侯爵領のいいものも教えて貰えると有難いのだけれど」
重ねて頼みごとをしてしまいましたが、侍女たちは微笑み合って頷きます。
「もちろんですとも。奥様には是非こちらの暮らしのいいものを知っていただきたく思います」
「これからゆっくりとご紹介させていただきますね。侯爵領にもいいものは沢山あるんですよ」
「さっそく特産品をこちらに持って来ましょうか?」
「あら、それはまだ旦那様のお役目だと思うわよ?」
「そうね。勝手をしたら、またうるさく言われてしまうわ」
侯爵様のお役目ですか?
それにうるさく……?
「ねぇ、やっぱり」
「えぇ、そうね。そう思うわ」
何かひそひそと会話をしていますが、侍女たちに馴れ馴れしくし過ぎてしまったでしょうか。
どうも令嬢らしい、いえ、今は夫人でした。夫人らしい振舞い方がまだ見えません。
母を参考にしますと、もっとこう……女王様的な態度を示さなければならないと思うのですが。
扇を持って、くいっと相手の顎を上向けてみたり。
時には扇をさりげなく折ることも。あ、母専用の替えの扇は沢山ありましたので大丈夫です。
それから人知れず父の背中をつねり、氷の目をして弟にはにっこりと微笑む。
文官たちには笑顔を振り撒いて、時に騎士たちを睨み付けることも。
とにかく母は、会話なく人を動かす天才でした。
何か言う前に人が動くのです。
私もそこを目指すべきでしたのに、はじめからもうこんなにお喋りをしてしまいまして。
口を開かず目力だけで伝える訓練は重ねてきましたのに、ここではそれも通用するかどうか怪しくなっています。
どうも故郷の皆が優秀だったようで。
いえ、こちらの皆さんも優秀だと思うのですが。我が領地の人たちは、声に出さない指示を正しく読む力が半端なく高かったのではないかと。
それは領地を出てからここに来るまでの長旅の間にも気付かされたことです。
あら?
でも、そういえば。
理想の夫人像として母を思い浮かべていたら、父が掛けてくれた言葉を思い出しました。
よく話し掛けてくれるようになったのです。
侯爵家に着いてから結婚式までの間に客間で過ごした頃とはまるで違う態度には、少し驚いてしまいましたが。
いえ、結婚式と晩餐会を終えてこの邸に戻ってからも、侍女たちの様子は以前と同じでしたのに。
この一晩で一体何が起きたのでしょうか?
黙々と完璧なお仕事をされている様子に、侯爵家にはお喋りをしながら働いてはいけない決まりでもあるのかと思って、こちらも必要以上に話し掛けることを躊躇っていたのですが。
意外なことに、ひとたび口を開けば、とっても気さくな方たちでした。
今もこの通り。
「ラベンダーの香りは好きなんですよ。でもどうしても口に含むことが受け付けなくて」
「我が領にもそういう方はいらっしゃいました。好みの問題ですから、これはもう仕方がないことだと思いますよ」
どれだけ美味しいと伝えたところで、苦手な人には通じません。
我が領でも、皆がラベンダーをお茶にして飲むからと言って、苦手な人にまですすめることはありませんでした。
「私はもう少し頑張ってみようと思います。奥様のお好みを理解したいので」
そんな宣言をしてくれた侍女の名は、マリーと言います。
そのような努力は望んでおりませんが、私も頑張りたくなってきました。
「無理はしないでちょうだいね?それから、私にもマリーの好みを教えて頂けるかしら?他の皆にもお願い出来る?」
私も侍女の好みを把握しておきたいですからね。
そうすれば、日頃の感謝を的確に伝えられるようになります。
まぁ、とか。
ふふ、だとか。
それぞれ明るい声と共に微笑んでおりましたので、私はつい調子に乗ってしまいました。
「侯爵領のいいものも教えて貰えると有難いのだけれど」
重ねて頼みごとをしてしまいましたが、侍女たちは微笑み合って頷きます。
「もちろんですとも。奥様には是非こちらの暮らしのいいものを知っていただきたく思います」
「これからゆっくりとご紹介させていただきますね。侯爵領にもいいものは沢山あるんですよ」
「さっそく特産品をこちらに持って来ましょうか?」
「あら、それはまだ旦那様のお役目だと思うわよ?」
「そうね。勝手をしたら、またうるさく言われてしまうわ」
侯爵様のお役目ですか?
それにうるさく……?
「ねぇ、やっぱり」
「えぇ、そうね。そう思うわ」
何かひそひそと会話をしていますが、侍女たちに馴れ馴れしくし過ぎてしまったでしょうか。
どうも令嬢らしい、いえ、今は夫人でした。夫人らしい振舞い方がまだ見えません。
母を参考にしますと、もっとこう……女王様的な態度を示さなければならないと思うのですが。
扇を持って、くいっと相手の顎を上向けてみたり。
時には扇をさりげなく折ることも。あ、母専用の替えの扇は沢山ありましたので大丈夫です。
それから人知れず父の背中をつねり、氷の目をして弟にはにっこりと微笑む。
文官たちには笑顔を振り撒いて、時に騎士たちを睨み付けることも。
とにかく母は、会話なく人を動かす天才でした。
何か言う前に人が動くのです。
私もそこを目指すべきでしたのに、はじめからもうこんなにお喋りをしてしまいまして。
口を開かず目力だけで伝える訓練は重ねてきましたのに、ここではそれも通用するかどうか怪しくなっています。
どうも故郷の皆が優秀だったようで。
いえ、こちらの皆さんも優秀だと思うのですが。我が領地の人たちは、声に出さない指示を正しく読む力が半端なく高かったのではないかと。
それは領地を出てからここに来るまでの長旅の間にも気付かされたことです。
あら?
でも、そういえば。
理想の夫人像として母を思い浮かべていたら、父が掛けてくれた言葉を思い出しました。
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