【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも

春風由実

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19.理想とは違いますがおしゃべりは好きです

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「お聞きしていた通りの素敵な奥様のお世話が出来て嬉しいです」

 言ったのは、お粉のパフパフを終えてまた違う道具を取り出したララという侍女です。
 今度はブラシで頬をさらっと撫でられます。これはくすぐったいですね。身を捩らないよう、身体の中心に力を入れておきました。

 実は私、お化粧があまり得意ではありません。

 一昨日まではここでは化粧が不要なのかと思って喜んでいましたが違いました。
 部屋でのんびり過ごすのには不要という判断と、結婚式までの短い時間になるべく肌を労わりたかっただけだそうです。

 肌って労わるものだったのですね。
 旅の間に顔の肌を疲れさせた記憶はありませんが、人のように休ませる必要があったとは。

 あら?

 何か矛盾を感じましたよ。

 それなら、ずっと化粧をしない方が肌を労われるのでは?
 やはり旅の間はあれで正解だったことになりますよね?

 あらら?

 旅の間はずっとお肌も休んでいたことになり、お手入れも何も要らないのでは?

「これからはすべて私たちに任せてくださいね」

 髪を編んでくれているメグの一言で、私の思考は止まりました。
 そうですね。お化粧もお肌も詳しくありませんので、侍女たちに任せましょう。
 メグもこの数日の間ずっと髪に何かを塗ってくれていますが、そちらもお任せです。

「そうですよ。私たちが何でもしますから、どうかお任せください。旦那様のこともどうにかしておきますからね」

 なんと心強い言葉でしょうか。

 んん、旦那様もどうにか?

 まさかっ!
 想い人は侍女の中に!

 え?もしかしてこの中に?

「それは確実に違うので、ご安心ください。私たちは皆、仕事として旦那様に接しています」

「ちなみにお仕事では旦那様を敬愛していますが、私的な活動においてはごめんなさいです」

「まぁ、それは奥様に言うことではないわよ」

「そうよ。また、旦那様におしゃべり禁止にされてしまうわ」

 おしゃべり禁止?
 皆さんはおしゃべりを禁じられたことがあるのですか?

 やはりこの屋敷では侍女たちのおしゃべりを良く思われていないということなのでしょうか。

「その辺で慎みなさい。奥様、申し訳ありません。一介の侍女が出来過ぎた真似をいたしました」

 少々厳しい顔で他の侍女たちを窘めたあとに、そう言ったのはシシィです。
 彼女はつい先ほどドレスの着替えを手伝ってくれていましたし、私のお世話もしてくれるようですが、侍女たちをまとめる役にもあります。

「いえ……気にしません」

 出来る夫人の顔でそう言ってみましたが、正直に言いますと、どの辺が出過ぎた真似だったのか分かりません。
 こういうときには聞いた方が良かったでしょうか。でも早々に幻滅されるのも辛いですし、躊躇います。

 シシィがふわりと微笑んだので、問題なかったようです。
 良かった。

「おしゃべりについては、奥様のご希望に沿うようにと指示を受けました。奥様は私たちのお喋りが本当にお嫌ではありませんか?」

 先ほどからシシィもまたよく話してくれていました。
 だから侯爵家には本当に侍女のおしゃべりを禁じる決まりはないのでしょう。

 でもどうして昨日まではあんなに話してくれなかったのでしょうか?

 先程聞いた『おしゃべり禁止』という言葉がどうにも引っ掛かりますが……あ、分かりましたよ。
 客人の前では口を慎んでいたということですね?

 そういえば、故郷の侍女たちも客人がいる間はおとなしかったです。
 あぁ、従姉妹たちが部屋に来たときもそうでした。
 身内ですし、いつも通りで構わないと伝えていたのですが、どうも母から指示があったようで、そうなれば私に言えることはありません。

 だからだったのでしょうか。
 従姉妹たちは私に会いに来ると、まずは侍女たちを部屋から追い出してと願うのです。
 大事な内緒話をするからよっていつも言っていましたので、聞いた話は出来るだけ心に秘めるよう努めてきたのですが。
 後で侍女たちの話術に嵌って、気が付いたら全部話してしまうこともありました。不甲斐ないです。

 あの子たちに最後までそれを謝れませんでしたし、二人の内緒話をもう聞けないかと思うと……胸に詰まる想いは湧きませんね。不思議です。
 共に過ごした時間の長さの違いでしょうか。


 はっ。また考えが飛んでいました。
 シシィの問いに答えなければ。

「むしろ沢山話していただける方が嬉しいです」

 父曰く私は戦略を練るより実戦タイプだそうで、どうしてもこう考えるより前に口から気持ちが溢れています。
 憧れの夫人らしく、ツンと澄ましてみれば良かったと後悔しても遅いのです。「その減らぬ口を開かぬよう(物理的に)結んでみてはどうだ」と母のように言ってみたかったですのに、その機を逃してしまいました。


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