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動き出した地獄の管理人
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「適正な裁きを決定し、陛下へと進言するまでが聖剣院の仕事だ。その後、陛下が処罰の是非を決断なさる。お前は何でも都合よく聞き流すようだが、陛下が決定されたお前の罪が二度と覆らぬことだけは、よく覚えておくといい。処罰への異を唱えることもまた、陛下への反逆罪だ。これより口を慎むように」
だからこそ元子爵家の面々は、公爵領に入ってから聖剣院にあったときとはがらりと態度を変えてきた。
今さら何を喚いたところで、その罪は覆らないどころか、状況は悪化していく。
ならばあとは、刑期を少しでも短く済ませられるようにと勤勉に働くのみ。
しかし彼らの場合は、自ら爵位や領地を返上していたせいで、急いだところでその先には平民として生きる道しか待っておらず。しかもせっかく準備してきたものはすべて没収となっていた。
だからあえて長くこの領に留まり守られて暮らした方が、実は幸せだという可能性もある。
ということまで考慮して、これから何年も経ったあとにレオンは彼らの刑期の短縮の是非をよく検討しなければならない。
そのときまで、レオンが公爵であり続けたら、という話だが。
そうなれば、必ず妻と共に彼らの先行きを相談することになるだろう。
妻にとっては親族であるがこそ、もう関わらせたくない気持ちも強いが。
オリヴィアが公爵夫人であり続けるならばこそ──。
だが、目の前のこの男は違った。
ダニエルには、この地から出る先がない。
とすれば、レオンには憂いることがない。
「ここからは、お前の今後へと繋がる話だ。こちらとしては、最後くらいは聞き流さずによく聞いていて欲しいものだがな」
ダニエルは最後という言葉に反応し、顔を上げた。
最後くらい……婿らしくし謙ってみたらどうだ、と感じさせる敵意のこもる、それでも生気のない瞳がレオンを睨む。
「陛下が処罰を決定した罪人は、すべて我が公爵領に護送されることになっている。ここまで言ってもなお、お前にはその意味が分からぬのだろうな」
偽りでも義父だった者を馬鹿にするなと言いたいならば。
馬鹿にされぬようになってみろ。
レオンが挑発するように冷たい視線で見返せば、途端ダニエルは生気のない目を泳がせた。
何も分かっていないのだろう。
だが、若い者よりものを知らぬということを、どうしても認めたくないらしい。
無駄なプライドが何からも自分を守ってくれないことは、もう重々分かっていように、こうも捨てられないものか。
レオンは冷ややかに笑い、この場を譲った気でいるルカは口を押さえて何かに耐えていた。
「先も言った通り、この管理棟をもって、聖剣院から引き継いだ罪人の全権は公爵家の管理下に置かれることになる。これでも分からぬお前には、面倒だが特別に仔細説明してやろう」
真っ暗な瞳をしたダニエルは、何も言わずにじっとレオンを見ていた。
何も言えないだけなのだろうか。
「聴取の記録を読ませて貰ったが。この公爵領に鉱山があることだけは、よく知っていたようだな?それで我が領は潤っているに違いないとでも思っていたようだが。確かに我が公爵領は財政的に潤っていようが、それは鉱山だけの話ではない。罪人たちがこの地の多くの労働を担っているからだ」
「罪人の労働……?」
呟く声は張りがなく、誰にも響かずぽとりと落ちた。
「安心しろ。お前にはいかなる労働の義務もないからな」
「では、し……」
死刑かと問いたかったのだろう。
言い淀んだダニエルにまだ死への恐怖が残っていることが確認出来たルカは、目を輝かせて喜んでいる。
レオンもまた、これに少しほっとしたのは事実だ。
死への恐れを失うまでに精神の壊れた者は、その罪を反省することなく、この世から消えていく。
その精神状態がいかにあれ、国の役には立ってくれようが、こういう罪人を前にしたときのレオンはいつも、被害者に向けてはやるせない気持ちになっていた。
だからダニエルがまだ恐れをその内に残していることは、レオンにとっても喜ばしい話となる。
「それも安心するといい。天上での神の裁きの前に、今世において出来得る限りの裁きを与え、どの命も人の世に役立たせるべしという神の教えを重んじる尊き陛下は、各領主とは違って、ただの死刑を選択しないことになっている。まぁ、お前は領主でもないくせに伯爵領では散々人を死刑に追いやってきたようだが。いや、それは子爵領にある、ただの領主の子息のときからだったか」
ダニエルの瞳に、かすかな光が戻った。
もしやまだ、この男は自身の幸運を信じているのだろうか。
レオンが伝えた後半の言葉も間違いなく聞き流していようことは、その顔を見ているだけでレオンにも伝わった。
その内を見定めるようじっとダニエルを見据え、レオンはそれから言う。
「お前の行き先は、最先端医術研究所に決定した。残る時間、その身のすべてを検体として捧げて貰う」
まだ僅かな光を讃えたダニエルの瞳が、ゆらゆらと揺れていた。
だからこそ元子爵家の面々は、公爵領に入ってから聖剣院にあったときとはがらりと態度を変えてきた。
今さら何を喚いたところで、その罪は覆らないどころか、状況は悪化していく。
ならばあとは、刑期を少しでも短く済ませられるようにと勤勉に働くのみ。
しかし彼らの場合は、自ら爵位や領地を返上していたせいで、急いだところでその先には平民として生きる道しか待っておらず。しかもせっかく準備してきたものはすべて没収となっていた。
だからあえて長くこの領に留まり守られて暮らした方が、実は幸せだという可能性もある。
ということまで考慮して、これから何年も経ったあとにレオンは彼らの刑期の短縮の是非をよく検討しなければならない。
そのときまで、レオンが公爵であり続けたら、という話だが。
そうなれば、必ず妻と共に彼らの先行きを相談することになるだろう。
妻にとっては親族であるがこそ、もう関わらせたくない気持ちも強いが。
オリヴィアが公爵夫人であり続けるならばこそ──。
だが、目の前のこの男は違った。
ダニエルには、この地から出る先がない。
とすれば、レオンには憂いることがない。
「ここからは、お前の今後へと繋がる話だ。こちらとしては、最後くらいは聞き流さずによく聞いていて欲しいものだがな」
ダニエルは最後という言葉に反応し、顔を上げた。
最後くらい……婿らしくし謙ってみたらどうだ、と感じさせる敵意のこもる、それでも生気のない瞳がレオンを睨む。
「陛下が処罰を決定した罪人は、すべて我が公爵領に護送されることになっている。ここまで言ってもなお、お前にはその意味が分からぬのだろうな」
偽りでも義父だった者を馬鹿にするなと言いたいならば。
馬鹿にされぬようになってみろ。
レオンが挑発するように冷たい視線で見返せば、途端ダニエルは生気のない目を泳がせた。
何も分かっていないのだろう。
だが、若い者よりものを知らぬということを、どうしても認めたくないらしい。
無駄なプライドが何からも自分を守ってくれないことは、もう重々分かっていように、こうも捨てられないものか。
レオンは冷ややかに笑い、この場を譲った気でいるルカは口を押さえて何かに耐えていた。
「先も言った通り、この管理棟をもって、聖剣院から引き継いだ罪人の全権は公爵家の管理下に置かれることになる。これでも分からぬお前には、面倒だが特別に仔細説明してやろう」
真っ暗な瞳をしたダニエルは、何も言わずにじっとレオンを見ていた。
何も言えないだけなのだろうか。
「聴取の記録を読ませて貰ったが。この公爵領に鉱山があることだけは、よく知っていたようだな?それで我が領は潤っているに違いないとでも思っていたようだが。確かに我が公爵領は財政的に潤っていようが、それは鉱山だけの話ではない。罪人たちがこの地の多くの労働を担っているからだ」
「罪人の労働……?」
呟く声は張りがなく、誰にも響かずぽとりと落ちた。
「安心しろ。お前にはいかなる労働の義務もないからな」
「では、し……」
死刑かと問いたかったのだろう。
言い淀んだダニエルにまだ死への恐怖が残っていることが確認出来たルカは、目を輝かせて喜んでいる。
レオンもまた、これに少しほっとしたのは事実だ。
死への恐れを失うまでに精神の壊れた者は、その罪を反省することなく、この世から消えていく。
その精神状態がいかにあれ、国の役には立ってくれようが、こういう罪人を前にしたときのレオンはいつも、被害者に向けてはやるせない気持ちになっていた。
だからダニエルがまだ恐れをその内に残していることは、レオンにとっても喜ばしい話となる。
「それも安心するといい。天上での神の裁きの前に、今世において出来得る限りの裁きを与え、どの命も人の世に役立たせるべしという神の教えを重んじる尊き陛下は、各領主とは違って、ただの死刑を選択しないことになっている。まぁ、お前は領主でもないくせに伯爵領では散々人を死刑に追いやってきたようだが。いや、それは子爵領にある、ただの領主の子息のときからだったか」
ダニエルの瞳に、かすかな光が戻った。
もしやまだ、この男は自身の幸運を信じているのだろうか。
レオンが伝えた後半の言葉も間違いなく聞き流していようことは、その顔を見ているだけでレオンにも伝わった。
その内を見定めるようじっとダニエルを見据え、レオンはそれから言う。
「お前の行き先は、最先端医術研究所に決定した。残る時間、その身のすべてを検体として捧げて貰う」
まだ僅かな光を讃えたダニエルの瞳が、ゆらゆらと揺れていた。
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