【完結】彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~

春風由実

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156.それは誰にも想定外

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「王族の古い慣習に従って王家が幽閉先を北の地に定めたことは、私たちにとっては僥倖だった。ずっとあの場所を探りたいと思っていたからね」

 彼らによく守られていた北の地。
 王家の直轄領であったため、十年国中を巡らされてきたジェラルドも派遣されることはなく、アルメスタの手の者が潜りにくい場所だった。

「あなたは大分焦っていたようだね?息子が予想通り暴れず、このままではあなた一人の手に権力を集約する未来が潰えそうだと恐れていたかい?」

 この頃にはレイモンドにも王弟がセイディを生かした理由が見えはじめていた。

 番を知る者の多くが、番相手を失ったとき今世に未練なく相手を追い掛けていくことは、世に周知されていること。
 つまりジェラルドに生きて暴れて欲しかったのではないか。

 そう推察すると、今まで見えなかったものも見えてきた。 

 身体は衰弱し心まで壊れた番の状態に怒り狂って、ジェラルドが主犯とおぼしき王族を皆殺しにする勢いで暴れ、ついでに実行犯としてごと粛清してくれたなら。

 適当な理由を付けて、その瞬間に立ち会わないようにして。
 城を不在でひとり生き残った悲劇の王子として、民からは同情を、貴族らには担がれる形でも、機を見て立ち上がれば。

 あとは思い通りにことが流れるはずだった。

 彼の思惑通り、貴族らにはアルメスタの若き当主を逆恨みで嫌っている者も増えていたから、最初は貴族らが主体となってアルメスタを過激に裁いてくれたことだろう。

 この十年王家の指示でジェラルドは監査役として各貴族家の領地を荒らした。
 おかげで不正を指摘され、罰せられた貴族は両手では足りないほど。

 彼らは恨みを晴らすよう、喜々としてアルメスタ家を滅亡させるに違いない。

 そうすると貴族たちが強過ぎる権力を握ってしまいそうなものではあるが。

 王弟のこと。
 ジェラルドに調べさせずとも、彼らを通じて、各貴族家の弱みは掌握済みであろうからには。

 アルメスタを成敗し勢い付いた貴族らの傀儡へと落ちる心配もなく。
 数を減らし勢力の衰えた彼らももはや、王弟にとって怖れる対象ではなくなっている予定だったとすれば。

 そこに築かれる新生王国に、王弟の理想が詰め込めると思ったのではないか。


 そういう計画ならばあり得そうだと考えたレイモンドは、なおもこの王弟の観察を続けてきたが。

 この流れに間違いなし、と思えるときもあれば。
 時に何か違和を覚える様子もあって。

 そこでレイモンドは、王弟をどこまでも追い詰めてその本性を探ることにした。
 
 何故?
 それは当然、レイモンドの描く未来に必要なことだったから。

「おかげで北の地で悍ましいものを見せられることになったが。あなたは今度こそ私たちを怒らせたかったのかもしれないね。しかしこれも上手くいかなかった」

 王弟の策略に反し、北の地であの香油の研究状況に触れたレイモンドたちは、より冷静になったと言えよう。
 こんな危険なもの、世に出してはいけないし、二度と世に出て来ない、そんな国に造り替える──。

 そのために必要となるものは?

「あなたも余計なことばかりしてしまったね──ただ罰を受ける、それだけで済んでいれば、あなたも随分楽に終われていただろうが」

 気が昂っている王弟に、今やレイモンドの言葉は何ひとつ響かないのだろう。
 不穏な未来を予測するそんな言葉を掛けられても、王弟からは特に言葉は返って来なかった。
 
 不満そうに時折レイモンドを睨みつけてはいるが、多くの視線が兄の方と話したいように窺える。
 その兄がレイモンドを見ているから、大人しく口を閉ざして自分と目が合う時を待っているのだろうか。

「私たちも無実と知りながら、あの王女を長く幽閉する気はなかった。王家には責任を持って彼女の性根を叩き直して貰おうとは思っていたがね?うちの子たちにちょっかいを出し、酷く迷惑していた過去は消せないのだから。まぁでも私たちからすれば可愛いお仕置きくらいのものだったよ。これはここにいるお二人も了承済みでね──ところがあなたはまったく違うことを考えた」

 実は聴こえていないのではないか、薬が効き過ぎたか。
 レイモンドが心配するほどに王弟から言葉がない。

「私たちが動かないならば、彼らに代わりをさせようとあなたは計画を練り始めた。そこへ──私たちも想定していなかった状況が起きてしまった。あの北の研究施設の中から王女の番相手が見付かったことだ」




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