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48.公爵が抱える記憶
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王都の伯爵邸が完全に焼失したのは一昨日の晩のことだ。
屋敷がすっかり焼け落ちてしまったため、被害の仔細が判明しておらず、原因を含め調査中となっている。
その伯爵邸の主である伯爵は、未だその妻子と共に連絡も取れないまま──。
そのせいで王都中が匂った。
それはアルメスタ公爵邸の庭にも当然届き、運動しようと庭に出てきたセイディはくんくんと香りを追い掛け首を傾げては庭を駆けた。……セイディなりにだ。
セイディが何の香りかと気にするので、説明に困った面々は、急遽庭で肉を焼くパーティーを開催することにした。
誰もが不謹慎だと思いながらも、真実を伏せてセイディを喜ばせることに徹したのである。
しかし一時はセイディを誤魔化せたとして、悩ましいことは続く。
「このままご遺体なくしてご葬儀となりました暁には、どうされるおつもりで?」
「うん……悩ましいな」
「どのみち顔は見られないかと」
「そうだとしてもだ……もう少し先であれば違ったかもしれないが……」
セイディはジェラルドの両親の存在もまだよく理解していない。
幼子と同じで、側にいる大人たちがそれぞれどのような関わりで繋がっているかまでは分かっていないのである。
それでも知識が増えてきて、今や結婚というものを学び始めたセイディは、いずれ自身にも両親がいることに気付くだろう。
世のことを何も知らせず鳥かごの中で大事に育てる選択肢もあったのだが。
これまでのセイディの環境を知って、屋敷の奥に閉じ込めようと考える者は誰もいなかった。
それは番であるジェラルドであってもだ。
だからいつか、親を知ることも、彼らを求めることも、ジェラルドは覚悟の上だった。
しかしセイディは『番』までいかなくとも、『親』という言葉に対しても良い印象を持っていないのは明白。
それもあって絵本では親が出てくる話も避けられてきた。
先代公爵夫妻が親代わりとなって、親はいいものだと心から想えるようになってから。
だからいずれ親を求めるとして、それはもっとずっと先の話になる予定だったのだ。
そんな矢先にことが起こった──。
ジェラルドは記憶を辿る。
セイディを失ってからの記憶は、ジェラルドも一部が曖昧だ。
だがはっきりと覚えている怒りがある。
ある伯爵夫妻は、娘が消えて半月も持たずに娘の捜索を打ち切った。
番と共に暮らす日を先延ばしにしたあの夫妻は、公爵家に詫びるどころか、公爵家のせいだと罵り、娘の捜索を諦めたのだ。
最初から疑わしい言動が多かった。
娘を愛し、ぎりぎりまで手元に置いておきたい。口ではそう言っているのに、夫妻は公爵家が定期的に渡していた結婚の支度金という名の娘の養育費を、その通りに使っていなかったことは明らかであり、それを公爵家が泳がせていたのは、大事な番の両親だったからに違いない。
公爵家の者たちが番である娘に定期的に会えていて、直接甘やかすことが出来ていたのも大きかった。
そんな伯爵夫妻は、娘を失い、公爵家との繋がりが断たれたと分かるやいなや、これまでと態度を変えた。
後日には屋敷から娘の部屋も失われたと言う。
一方でそのような対応をしておきながら、娘が戻って来た時に生家が衰退していては悲しかろうと、そんな話でなおも伯爵夫妻は公爵家に援助を求め続けてきた。
領地経営は長く赤字続きでも人任せのまま、本人たちは王都での豪遊をやめられず、お金はいくらあっても足りなかったのだろう。
さすがに公爵家でも、娘のいない伯爵家にそこまでの援助はしていない。
だから落ちぶれた今になって、娘が若き公爵の元に戻ったことは彼らにとって僥倖だったのだ。
ジェラルドは、昨日から反省しきりである。
まさか自分の屋敷にいて危険があることまでは考えていなかったからだ。
馬車の事故が起きたのだから、護衛を付けておかなければならなかったと強く後悔していた。
悪感情に身を任せて判断を誤った認識はある。
「主さま、セイディさまのご用意が終わりそうですよ。さっそくセイディさまに愛を伝えてくださいませ。でないとまた一番を逃しても知りませんからね?」
侍従ははたして主を励ましていたのだろうか。
それは神のみぞ知る。
屋敷がすっかり焼け落ちてしまったため、被害の仔細が判明しておらず、原因を含め調査中となっている。
その伯爵邸の主である伯爵は、未だその妻子と共に連絡も取れないまま──。
そのせいで王都中が匂った。
それはアルメスタ公爵邸の庭にも当然届き、運動しようと庭に出てきたセイディはくんくんと香りを追い掛け首を傾げては庭を駆けた。……セイディなりにだ。
セイディが何の香りかと気にするので、説明に困った面々は、急遽庭で肉を焼くパーティーを開催することにした。
誰もが不謹慎だと思いながらも、真実を伏せてセイディを喜ばせることに徹したのである。
しかし一時はセイディを誤魔化せたとして、悩ましいことは続く。
「このままご遺体なくしてご葬儀となりました暁には、どうされるおつもりで?」
「うん……悩ましいな」
「どのみち顔は見られないかと」
「そうだとしてもだ……もう少し先であれば違ったかもしれないが……」
セイディはジェラルドの両親の存在もまだよく理解していない。
幼子と同じで、側にいる大人たちがそれぞれどのような関わりで繋がっているかまでは分かっていないのである。
それでも知識が増えてきて、今や結婚というものを学び始めたセイディは、いずれ自身にも両親がいることに気付くだろう。
世のことを何も知らせず鳥かごの中で大事に育てる選択肢もあったのだが。
これまでのセイディの環境を知って、屋敷の奥に閉じ込めようと考える者は誰もいなかった。
それは番であるジェラルドであってもだ。
だからいつか、親を知ることも、彼らを求めることも、ジェラルドは覚悟の上だった。
しかしセイディは『番』までいかなくとも、『親』という言葉に対しても良い印象を持っていないのは明白。
それもあって絵本では親が出てくる話も避けられてきた。
先代公爵夫妻が親代わりとなって、親はいいものだと心から想えるようになってから。
だからいずれ親を求めるとして、それはもっとずっと先の話になる予定だったのだ。
そんな矢先にことが起こった──。
ジェラルドは記憶を辿る。
セイディを失ってからの記憶は、ジェラルドも一部が曖昧だ。
だがはっきりと覚えている怒りがある。
ある伯爵夫妻は、娘が消えて半月も持たずに娘の捜索を打ち切った。
番と共に暮らす日を先延ばしにしたあの夫妻は、公爵家に詫びるどころか、公爵家のせいだと罵り、娘の捜索を諦めたのだ。
最初から疑わしい言動が多かった。
娘を愛し、ぎりぎりまで手元に置いておきたい。口ではそう言っているのに、夫妻は公爵家が定期的に渡していた結婚の支度金という名の娘の養育費を、その通りに使っていなかったことは明らかであり、それを公爵家が泳がせていたのは、大事な番の両親だったからに違いない。
公爵家の者たちが番である娘に定期的に会えていて、直接甘やかすことが出来ていたのも大きかった。
そんな伯爵夫妻は、娘を失い、公爵家との繋がりが断たれたと分かるやいなや、これまでと態度を変えた。
後日には屋敷から娘の部屋も失われたと言う。
一方でそのような対応をしておきながら、娘が戻って来た時に生家が衰退していては悲しかろうと、そんな話でなおも伯爵夫妻は公爵家に援助を求め続けてきた。
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さすがに公爵家でも、娘のいない伯爵家にそこまでの援助はしていない。
だから落ちぶれた今になって、娘が若き公爵の元に戻ったことは彼らにとって僥倖だったのだ。
ジェラルドは、昨日から反省しきりである。
まさか自分の屋敷にいて危険があることまでは考えていなかったからだ。
馬車の事故が起きたのだから、護衛を付けておかなければならなかったと強く後悔していた。
悪感情に身を任せて判断を誤った認識はある。
「主さま、セイディさまのご用意が終わりそうですよ。さっそくセイディさまに愛を伝えてくださいませ。でないとまた一番を逃しても知りませんからね?」
侍従ははたして主を励ましていたのだろうか。
それは神のみぞ知る。
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