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49.それは成長の証です
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カッと目を見開いたセイディの顔が即座に緩んだ。
ふにゃふにゃの笑顔を見て、ジェラルドも思わず微笑む。
公爵邸に来たときと比べれば、随分と表情が豊かになったものだ。
「ぷりん……ですか?」
自信なさそうにそう尋ねたセイディの精神は、新しい美味しさへの驚きに満たされていた。
今までと色の違うプリンを前にして訝しがって眉間に皺まで寄せて、しばらくプリンを睨んでいたのもつい少し前のこと。
「それはパンプキンプリンなんだよ」
ジェラルドが優しく言うと、セイディは大きく頷いた。
「ぱんぷきん!知っています!」
「うん、絵本に出て来たね。そのパンプキンだ」
「これがぱんぷきん!」
それからぱくぱくと凄い勢いでプリンを食べ切ったセイディは心から満足そうに微笑んだ。
「ぱんぷきん、おいちかったです!」
「それは良かった……なぁ、セイディ」
「はい!せいでぃです!」
「ルドに聞きたいことがあるのではないかな?」
「ききたいことですか?」
「あぁ、聞きたいことがあればなんでも言って欲しい」
首を傾げたセイディは、はっと何かを思い出したように目を見開いた。
「あしたははれますか?」
「…………」
「てんき、ちがいましたか?まちがいですか?」
潤んだ瞳で言われたジェラルドは、それはもう焦った。
会話で困ったら天気の話をするといい。
淑女の嗜みとして母親にそう教わったのだろうと察したジェラルドは、どうしてそう安直に物事を教えてしまうのだと心中では母親に憤りながら、セイディを慰めた。
「セイディの答えに間違いなんてない。明日の天気か。うん、そうだな、明日は……明日は……」
「晴れますよ主さま」
それはちょうどよくセイディの耳にも届く小声だった。
「とっと!あしたははれです!」
「おや、聴こえてしまいましたか。そうですよ、セイディさま。明日は晴れますからね」
「何故言い切れる?」
「明日の天気を知ることも侍従としての当然の嗜みにございます。明日は間違いなく晴れです」
「何を言っているんだ。セイディにおかしなことを教えないでく「せいでぃもたちなみます!」どうしてくれる!」
ジェラルドは叫んだが、もう手遅れだった。
「セイディ様がお望みであれば私の嗜んできたことをお教えしましょう」
「待て。先に私に教えろ。そうして私がセイディに「いっしょがいいです」くっ」
ジェラルドの願いは悉く愛する番に阻止されていく。
そしてトットは……満面の笑みで主を見ていた。
「なんだその顔は?」
「いつもこの顔ですよ主さま。ねぇ、セイディさま?」
「いつものとっとのおかおです。とっとはたくさんおかおがあります」
「沢山というのはどうい──」
「おしゃべりもお上手になりましたねぇ、セイディさま。これからもトットと沢山お話ししてくださいね」
「せいでぃはなします!」
「おい、トット」
「何か?」
誰の番か分かっているのか?
誰に仕えているか忘れたか?
伝えたい言葉を呑み込みジェラルドは頷いた。
「私も共に学ぶし、私とは一番に沢山話そう。ね、セイディ?」
「はい!せいでぃはるどといっしょにまなびます!たくさんおはなししまちゅ!」
残念ながら最後は噛んでしまったセイディは、誤魔化すようににこっと笑うとさらに言った。
「せいでぃはおかわりしましゅ!ぱんぷきんぷりんです!」
何故かトットは拍手をして、ジェラルドはセイディの頭を撫でた。
ご満悦だとその笑顔で語るセイディは、壁際で空気になっていた料理長のルースを見やる。
「るーす、おかわりです!」
「はぁい、ははははいぃ、ただいまぁぁぁ」
急に呼び掛けられると、声が裏返ってしまうルースだった。
新しいプリンの味を好んでくれるだろうかと、はらはらどきどきして見守っていたせいである。
しかし今のセイディは手厳しい。
「はいはいっかいです。そのほうがうつくちいのです!」
「っ!!!これは失礼いたしました。はい、すぐにパンプキンプリンをお持ちします」
「よろちいです!」
得意気にちらっとルドを見上げるセイディの頭に、間を置かずジェラルドの手が再び乗った。
アルメスタ公爵邸で出て来るプリンがカラフルに変わったのは、この日からだ。
キャロットプリン、スイートポテトプリン、ビーツプリン、ピーマンプリン……。
「……いつものぷりんがいいです」
セイディが顔を曇らせたのは、緑色をしたプリンが出て来たときだった。
「これは駄目か……」
「これはぴーまんのおいろです」
徐々に大人と変わらない料理を食べられるようになると、セイディに食の好みがはっきりと示されるようになった。
柔らかさ重視で選ばれていた料理の頃には食べてくれていた野菜を避けるようになったのである。
それは多くの子どもが成長過程に通る道であり、微笑ましいものではあった。
しかもがりがりに痩せて成長が止まっていたほど長く飢えてきたセイディである。
しかし今後を考えれば、野菜嫌いは早めに克服しておきたいとアルメスタ公爵邸の大人たちは頭を悩ませた。
何せ皆が揃いに揃ってセイディには特別に弱かったからだ。
ジェラルドはもちろん無理に食べさせることはないので、いつの間にか勝手に発足していた『セイディさまにお野菜の美味しさをお伝えしようの会』のメンバーにも数えられていなかったが、誰も彼もが嫌いな野菜を前にして目を潤ませるセイディに野菜を食べなさいとは言えなかった。
一番セイディに助言をしてきた侍女長のソフィアさえも、うるうると今にも泣き出しそうな瞳を見ては、そっとセイディの前から野菜の乗ったお皿を遠ざけてしまう始末。
そんな経緯を経て、ジェラルドを抜きにした大人たちの話し合いの結果。
大好きなプリンから野菜嫌いを克服したらどうかという提案がなされたのだ。
ジェラルドも一応は対策を考えていて、近頃は野菜が出て来る絵本ばかり与えてきたが、喜んで読んでいるセイディにとってそれはそれ、食べることとは別物らしい。
さて話は戻る。
二つ目のパンプキンプリンを幸せそうに味わうセイディを見詰めるジェラルドに侍従は言った。
「それより主さま。主さまこそ何かセイディさまにお伝えすることがあったのではございませんか?」
ぴくりとジェラルドの眉が揺れた。
「……それは二人のときにするものだ」
「そうですか。それは楽しみですねぇ、セイディさま」
「せいでぃ、たのちみです!ぷりん、おいちい!おかわりしましゅ!」
顔を上げたセイディのきらきらの瞳には、胸を押さえたジェラルドのよく見る姿が映っていた。
ふにゃふにゃの笑顔を見て、ジェラルドも思わず微笑む。
公爵邸に来たときと比べれば、随分と表情が豊かになったものだ。
「ぷりん……ですか?」
自信なさそうにそう尋ねたセイディの精神は、新しい美味しさへの驚きに満たされていた。
今までと色の違うプリンを前にして訝しがって眉間に皺まで寄せて、しばらくプリンを睨んでいたのもつい少し前のこと。
「それはパンプキンプリンなんだよ」
ジェラルドが優しく言うと、セイディは大きく頷いた。
「ぱんぷきん!知っています!」
「うん、絵本に出て来たね。そのパンプキンだ」
「これがぱんぷきん!」
それからぱくぱくと凄い勢いでプリンを食べ切ったセイディは心から満足そうに微笑んだ。
「ぱんぷきん、おいちかったです!」
「それは良かった……なぁ、セイディ」
「はい!せいでぃです!」
「ルドに聞きたいことがあるのではないかな?」
「ききたいことですか?」
「あぁ、聞きたいことがあればなんでも言って欲しい」
首を傾げたセイディは、はっと何かを思い出したように目を見開いた。
「あしたははれますか?」
「…………」
「てんき、ちがいましたか?まちがいですか?」
潤んだ瞳で言われたジェラルドは、それはもう焦った。
会話で困ったら天気の話をするといい。
淑女の嗜みとして母親にそう教わったのだろうと察したジェラルドは、どうしてそう安直に物事を教えてしまうのだと心中では母親に憤りながら、セイディを慰めた。
「セイディの答えに間違いなんてない。明日の天気か。うん、そうだな、明日は……明日は……」
「晴れますよ主さま」
それはちょうどよくセイディの耳にも届く小声だった。
「とっと!あしたははれです!」
「おや、聴こえてしまいましたか。そうですよ、セイディさま。明日は晴れますからね」
「何故言い切れる?」
「明日の天気を知ることも侍従としての当然の嗜みにございます。明日は間違いなく晴れです」
「何を言っているんだ。セイディにおかしなことを教えないでく「せいでぃもたちなみます!」どうしてくれる!」
ジェラルドは叫んだが、もう手遅れだった。
「セイディ様がお望みであれば私の嗜んできたことをお教えしましょう」
「待て。先に私に教えろ。そうして私がセイディに「いっしょがいいです」くっ」
ジェラルドの願いは悉く愛する番に阻止されていく。
そしてトットは……満面の笑みで主を見ていた。
「なんだその顔は?」
「いつもこの顔ですよ主さま。ねぇ、セイディさま?」
「いつものとっとのおかおです。とっとはたくさんおかおがあります」
「沢山というのはどうい──」
「おしゃべりもお上手になりましたねぇ、セイディさま。これからもトットと沢山お話ししてくださいね」
「せいでぃはなします!」
「おい、トット」
「何か?」
誰の番か分かっているのか?
誰に仕えているか忘れたか?
伝えたい言葉を呑み込みジェラルドは頷いた。
「私も共に学ぶし、私とは一番に沢山話そう。ね、セイディ?」
「はい!せいでぃはるどといっしょにまなびます!たくさんおはなししまちゅ!」
残念ながら最後は噛んでしまったセイディは、誤魔化すようににこっと笑うとさらに言った。
「せいでぃはおかわりしましゅ!ぱんぷきんぷりんです!」
何故かトットは拍手をして、ジェラルドはセイディの頭を撫でた。
ご満悦だとその笑顔で語るセイディは、壁際で空気になっていた料理長のルースを見やる。
「るーす、おかわりです!」
「はぁい、ははははいぃ、ただいまぁぁぁ」
急に呼び掛けられると、声が裏返ってしまうルースだった。
新しいプリンの味を好んでくれるだろうかと、はらはらどきどきして見守っていたせいである。
しかし今のセイディは手厳しい。
「はいはいっかいです。そのほうがうつくちいのです!」
「っ!!!これは失礼いたしました。はい、すぐにパンプキンプリンをお持ちします」
「よろちいです!」
得意気にちらっとルドを見上げるセイディの頭に、間を置かずジェラルドの手が再び乗った。
アルメスタ公爵邸で出て来るプリンがカラフルに変わったのは、この日からだ。
キャロットプリン、スイートポテトプリン、ビーツプリン、ピーマンプリン……。
「……いつものぷりんがいいです」
セイディが顔を曇らせたのは、緑色をしたプリンが出て来たときだった。
「これは駄目か……」
「これはぴーまんのおいろです」
徐々に大人と変わらない料理を食べられるようになると、セイディに食の好みがはっきりと示されるようになった。
柔らかさ重視で選ばれていた料理の頃には食べてくれていた野菜を避けるようになったのである。
それは多くの子どもが成長過程に通る道であり、微笑ましいものではあった。
しかもがりがりに痩せて成長が止まっていたほど長く飢えてきたセイディである。
しかし今後を考えれば、野菜嫌いは早めに克服しておきたいとアルメスタ公爵邸の大人たちは頭を悩ませた。
何せ皆が揃いに揃ってセイディには特別に弱かったからだ。
ジェラルドはもちろん無理に食べさせることはないので、いつの間にか勝手に発足していた『セイディさまにお野菜の美味しさをお伝えしようの会』のメンバーにも数えられていなかったが、誰も彼もが嫌いな野菜を前にして目を潤ませるセイディに野菜を食べなさいとは言えなかった。
一番セイディに助言をしてきた侍女長のソフィアさえも、うるうると今にも泣き出しそうな瞳を見ては、そっとセイディの前から野菜の乗ったお皿を遠ざけてしまう始末。
そんな経緯を経て、ジェラルドを抜きにした大人たちの話し合いの結果。
大好きなプリンから野菜嫌いを克服したらどうかという提案がなされたのだ。
ジェラルドも一応は対策を考えていて、近頃は野菜が出て来る絵本ばかり与えてきたが、喜んで読んでいるセイディにとってそれはそれ、食べることとは別物らしい。
さて話は戻る。
二つ目のパンプキンプリンを幸せそうに味わうセイディを見詰めるジェラルドに侍従は言った。
「それより主さま。主さまこそ何かセイディさまにお伝えすることがあったのではございませんか?」
ぴくりとジェラルドの眉が揺れた。
「……それは二人のときにするものだ」
「そうですか。それは楽しみですねぇ、セイディさま」
「せいでぃ、たのちみです!ぷりん、おいちい!おかわりしましゅ!」
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