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65.おかあしゃまはお手本です
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レイモンドは短い間シェリルから視線を外すと、遠くを見やりきゅっと眉間に皺を寄せた。
丘の上からは王都がよく見渡せる。
「セイディちゃんだけではない。私たちは息子も奪われていたわけだからな」
これに答えるシェリルは、眉を下げて微笑んだ。
「いい顔をするようになったわよね。やっと安心出来たわ」
「されどこれ以上掻き乱されては、いよいよ暴れるだろうよ。あとは任せてくれると有難いが」
「うふふ。セイディちゃんといるように言えば大人しくなるわよ」
番を奪われたのはジェラルドであっても、先代公爵夫妻もまた、息子と親子らしく過ごすはずの十年間を失っている。
この十年息子の笑顔は封印されて、何を語り掛けても返って来る反応は生気が抜けたようだった。
それ以前までの教育があったこと、それから番が生きていると信じられていたことで、なんとか息子は人間らしさだけでなく貴族らしさも失わず、権限を与えるためにと公爵位を譲ってからはそれなりに仕事をすることも出来ていたけれど。
夫妻にとっては、息子を奪われていたのと同義。
「ふむ、たまにはジェラルドも労わってやるか?」
あまり他人に同情しないレイモンドであるが、番を奪われていたことに関しては息子を不憫に思っていた。
同時によく自制出来たものだと感心もしている。
自分なら大暴れして国を壊していたように思うから。
「あら?ジェラルドはいいのよ。これからは勝手に幸せになるわ」
他人を慈しむ心あるシェリルの方が、息子には厳しかった。
レイモンドは一時感じていた息子への憐憫を瞬時に忘れ笑い出す。
「ははは。あいつはもう十分に幸せだろう。その幸せ者には、そろそろ公爵としても頑張って貰うとするかね」
「それがいいわ。色々と片付けたら、私たちは隠居してゆっくり過ごすことにしましょう。セイディちゃんを領地に連れて行く約束もしているもの」
「それはまた違った意味でジェラルドが荒れるな」
「どうせ勝手について来るわよ。王都に仕事を残してこないように約束させないと」
「まぁ、あいつに領地を学ばせるいい機会か。もう我が家が王都にいる理由もなくなるし同行を認めよう」
「うふふ。セイディちゃんに教えるためによーく学ぶでしょうね」
「それは間違いないが。おとうしゃまの知識には何年過ぎても適うまい」
「おほほ。おかあしゃまだって負けてはいないわ」
相変わらず息子には手厳しい公爵夫妻だ。
「さて」
ようやく、ようやく。
ここがどこか、レイモンドは思い出してくれたようだ。
「娘に会わせてやれなかったことは詫びよう」
娘が見付かって涙を流し喜ぶ伯爵夫妻であったなら、もっと早くに会えていたはずだ。
いくら息子が番でも、そして娘が心を失い『親』という言葉に怯えていたとしても、言葉を避けるよう言って会うことは可能だったのだから。
出会ってすぐのレイモンドとシェリルが、セイディに受け入れられたように。
もう少しでも親らしい面を見せていれば、彼らは親という認識でセイディの中にあり続けられた。
ほんの少しで良かった。
それがまったくの嘘偽りだとしても、娘への愛情を分かりやすく出せていたら。
だがそんなことで、もうここにない者を責めてもどうにもならない。
「次にいつ王都に戻るかは分からないが。そのときはセイディちゃんを連れてくることを約束しよう」
「えぇ。セイディちゃんのことは心配しないでちょうだい。私たちが大切に守り育てるわ」
「息子もよく守るだろう。君らのためではないが、報復も我々で行う。だからもうこちらのことは気にせずに眠りなさい」
まだ新品の綺麗な墓石に頭を下げて。
二人は貴族らしく優雅に見せながら、足早に馬車を目指した。
途中挨拶をしようと寄って来る貴族たちを心の中では鬱陶しく感じながら、一時は二人で足を止め、それなりには応対する。
それはアルメスタ公爵家の先代当主夫妻だから。
『おほほ。あなたたち、置いていくなら覚えていらっしゃい。再教育よ』
早くこの場を去りたい気持ちを完全に隠し切り、笑顔で貴族らと話していてもなお、しっかり聴こえぬ声を通す。
アルメスタ公爵家の先代当主夫人ここにあり。
丘の上からは王都がよく見渡せる。
「セイディちゃんだけではない。私たちは息子も奪われていたわけだからな」
これに答えるシェリルは、眉を下げて微笑んだ。
「いい顔をするようになったわよね。やっと安心出来たわ」
「されどこれ以上掻き乱されては、いよいよ暴れるだろうよ。あとは任せてくれると有難いが」
「うふふ。セイディちゃんといるように言えば大人しくなるわよ」
番を奪われたのはジェラルドであっても、先代公爵夫妻もまた、息子と親子らしく過ごすはずの十年間を失っている。
この十年息子の笑顔は封印されて、何を語り掛けても返って来る反応は生気が抜けたようだった。
それ以前までの教育があったこと、それから番が生きていると信じられていたことで、なんとか息子は人間らしさだけでなく貴族らしさも失わず、権限を与えるためにと公爵位を譲ってからはそれなりに仕事をすることも出来ていたけれど。
夫妻にとっては、息子を奪われていたのと同義。
「ふむ、たまにはジェラルドも労わってやるか?」
あまり他人に同情しないレイモンドであるが、番を奪われていたことに関しては息子を不憫に思っていた。
同時によく自制出来たものだと感心もしている。
自分なら大暴れして国を壊していたように思うから。
「あら?ジェラルドはいいのよ。これからは勝手に幸せになるわ」
他人を慈しむ心あるシェリルの方が、息子には厳しかった。
レイモンドは一時感じていた息子への憐憫を瞬時に忘れ笑い出す。
「ははは。あいつはもう十分に幸せだろう。その幸せ者には、そろそろ公爵としても頑張って貰うとするかね」
「それがいいわ。色々と片付けたら、私たちは隠居してゆっくり過ごすことにしましょう。セイディちゃんを領地に連れて行く約束もしているもの」
「それはまた違った意味でジェラルドが荒れるな」
「どうせ勝手について来るわよ。王都に仕事を残してこないように約束させないと」
「まぁ、あいつに領地を学ばせるいい機会か。もう我が家が王都にいる理由もなくなるし同行を認めよう」
「うふふ。セイディちゃんに教えるためによーく学ぶでしょうね」
「それは間違いないが。おとうしゃまの知識には何年過ぎても適うまい」
「おほほ。おかあしゃまだって負けてはいないわ」
相変わらず息子には手厳しい公爵夫妻だ。
「さて」
ようやく、ようやく。
ここがどこか、レイモンドは思い出してくれたようだ。
「娘に会わせてやれなかったことは詫びよう」
娘が見付かって涙を流し喜ぶ伯爵夫妻であったなら、もっと早くに会えていたはずだ。
いくら息子が番でも、そして娘が心を失い『親』という言葉に怯えていたとしても、言葉を避けるよう言って会うことは可能だったのだから。
出会ってすぐのレイモンドとシェリルが、セイディに受け入れられたように。
もう少しでも親らしい面を見せていれば、彼らは親という認識でセイディの中にあり続けられた。
ほんの少しで良かった。
それがまったくの嘘偽りだとしても、娘への愛情を分かりやすく出せていたら。
だがそんなことで、もうここにない者を責めてもどうにもならない。
「次にいつ王都に戻るかは分からないが。そのときはセイディちゃんを連れてくることを約束しよう」
「えぇ。セイディちゃんのことは心配しないでちょうだい。私たちが大切に守り育てるわ」
「息子もよく守るだろう。君らのためではないが、報復も我々で行う。だからもうこちらのことは気にせずに眠りなさい」
まだ新品の綺麗な墓石に頭を下げて。
二人は貴族らしく優雅に見せながら、足早に馬車を目指した。
途中挨拶をしようと寄って来る貴族たちを心の中では鬱陶しく感じながら、一時は二人で足を止め、それなりには応対する。
それはアルメスタ公爵家の先代当主夫妻だから。
『おほほ。あなたたち、置いていくなら覚えていらっしゃい。再教育よ』
早くこの場を去りたい気持ちを完全に隠し切り、笑顔で貴族らと話していてもなお、しっかり聴こえぬ声を通す。
アルメスタ公爵家の先代当主夫人ここにあり。
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