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125.願いは叶えない
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「幼いあなたは、この国でも香油を利用すると決め、彼らにそれを納得させた。それまでの彼らは、あなたにいちいち問うこともなく、番を知る者を見付けては勝手に処理していたそうだね?数を競い合っていた者もいたそうではないか」
「……競い合っていた件に関しても把握はしておりませんが、それも彼らの思想の矛盾のひとつでしょう。彼らはいつも『民は王家のものである』と言いながら、王族の許可も得ずに好き勝手に民らを処理していたのですから。それは番を知る者だけに留まりません」
その民が王家にとって良くない存在であると判断すれば、彼らは独断で民を処分していたということである。
王の名の元に法が定まっている国において、彼らの行動は暴挙でしかないが、歴代の王と王弟たちがこれを許してきたということだ。
レイモンドは軽く腕を組むと、わざとらしいほど感心してみせた。
「いちいち連絡を取ってはいられなかったのだろうけれどねぇ。まぁ、うちの者たちだって、すべてを上げては来ないよ。自己で判断させている部分も多くある。とは言ってみてもねぇ……」
そうして腕を組んだまま、レイモンドはうんうんと頷いてから言った。
「それだけの決定権を持って自由に振舞える者たちが国中に散らばったとして、その一代限りならば理解は出来るのだよ。王弟に仕える身であることを隠し、その地にはじめからいるように過ごすことも、次代くらいまでは出来るだろうね。だがもうその地で何代も過ぎ、王族の顔を一人も知らないような者しかいなくなってからも、何代にも渡って思想を共有出来ていることは、奇跡だよね?そこは素直に称賛しよう。うちの者たちにだって、これは求められない」
王弟が珍しく首を振って、レイモンドの言葉を否定した。
「生まれたときから洗脳しているだけの話です。それに裏切り者がなきよう監視し合うのも彼らですから」
「それだけ縛れば、かえって違反者が多く出てきそうなものだけれどねぇ?そうなる前に消しているのかな?」
「そうかもしれません」
答えをはぐらかしているのではなく、断定出来るほど知らないのだろうと、レイモンドは王弟の答えからそのように受け取った。
「彼らの思想も行動も私には到底理解出来ないし、うちの者たちに見習わせたいなんてことも、一度とて思ったことはないよ。けれどね、彼らの思想とその継承方法に関しては興味がある。後世のためにも、研究して記録を残しておきたいと考えていてね。ここまで長く崇拝を続けられる仕組みを解明し理解しておけば……あなたも分かるね?」
「えぇ……世の統制に利用価値はありましょう。事前に世の乱れを防ぐためにも……。ですが、私はそこに詳しくはありません」
彼らを従える立場にある王弟が、彼らがどうやって存続しているかを知らない。
こういったところにも、彼らの思想の矛盾が表れていると言えるだろう。
「この研究に関しては、必ずあなたに協力をいただくとして──彼らはあなたには弱いからね。香油の件で、あなたは彼らからひとつの権利を奪ったというわけだ。番を知る者を見付けたら、勝手に処理せず、あの北の地に集めさせた。そして香油を使って実験を行った。ただひとつ、そこで計画外の出来事が起こってしまった。それも大分未来の話になるが。香油の実験対象者として集めていた番を知る者の中に、王女の番相手が含まれた──あなたはあえて集め方を指示していなかったのだろう?それで今は後悔をしているのかな?」
王弟はただ真直ぐにレイモンドを見詰めていた。
その瞳に悲しみや後悔が宿ることも無く……レイモンドも首を振るに留める。
これ以上追求したところで、王弟はその内にある想いをレイモンドに明かすことはないのだろう。
ならば答え合わせを粛々と続けていくのみ。
「あなたの計画において、彼らはより多くの者たちに憎まれていて欲しかった。その憎しみが、彼らの思想に伴うところまで膨れればいいと考えていたのだろう?王族のためと称すれば、彼らが彼らを消す大義名分が出来るからね。そう遠くない未来に、今の隣国のような状況になるところまで想定していたのではないかな?そう考えると、末恐ろしい少年だったね。しかしあなたはやはり幼く、大きく間違えた──」
今日はじめてここで、レイモンドの目から色が抜け落ちた。
静寂の中で、王弟とレイモンドが見詰め合う。
「息子を巻き込んだことだよ。あなたにとっては、目的を果たせて満足しているかもしれないがね。私たちはそう優しくないのだから。あなたが本当に望むことなど、絶対に実現してやらないのだよ?」
「……なぜ?」
「逆に問いたい。番こそすべての私たちが、番を奪われた相手の望みを叶えようと思うだろうか?」
「しかし私たちはもう、この国を統べる者としては──」
「隣国のようなクーデターは起きないし、あなたも、そして王陛下も、そしてこれから生まれていただく次代も、王族としての地位に座り続けていただく──あなたの望むように誰が裁くか」
レイモンドが微笑みを浮かべて言ったせいで、その声色との温度差は激しかった。
「……競い合っていた件に関しても把握はしておりませんが、それも彼らの思想の矛盾のひとつでしょう。彼らはいつも『民は王家のものである』と言いながら、王族の許可も得ずに好き勝手に民らを処理していたのですから。それは番を知る者だけに留まりません」
その民が王家にとって良くない存在であると判断すれば、彼らは独断で民を処分していたということである。
王の名の元に法が定まっている国において、彼らの行動は暴挙でしかないが、歴代の王と王弟たちがこれを許してきたということだ。
レイモンドは軽く腕を組むと、わざとらしいほど感心してみせた。
「いちいち連絡を取ってはいられなかったのだろうけれどねぇ。まぁ、うちの者たちだって、すべてを上げては来ないよ。自己で判断させている部分も多くある。とは言ってみてもねぇ……」
そうして腕を組んだまま、レイモンドはうんうんと頷いてから言った。
「それだけの決定権を持って自由に振舞える者たちが国中に散らばったとして、その一代限りならば理解は出来るのだよ。王弟に仕える身であることを隠し、その地にはじめからいるように過ごすことも、次代くらいまでは出来るだろうね。だがもうその地で何代も過ぎ、王族の顔を一人も知らないような者しかいなくなってからも、何代にも渡って思想を共有出来ていることは、奇跡だよね?そこは素直に称賛しよう。うちの者たちにだって、これは求められない」
王弟が珍しく首を振って、レイモンドの言葉を否定した。
「生まれたときから洗脳しているだけの話です。それに裏切り者がなきよう監視し合うのも彼らですから」
「それだけ縛れば、かえって違反者が多く出てきそうなものだけれどねぇ?そうなる前に消しているのかな?」
「そうかもしれません」
答えをはぐらかしているのではなく、断定出来るほど知らないのだろうと、レイモンドは王弟の答えからそのように受け取った。
「彼らの思想も行動も私には到底理解出来ないし、うちの者たちに見習わせたいなんてことも、一度とて思ったことはないよ。けれどね、彼らの思想とその継承方法に関しては興味がある。後世のためにも、研究して記録を残しておきたいと考えていてね。ここまで長く崇拝を続けられる仕組みを解明し理解しておけば……あなたも分かるね?」
「えぇ……世の統制に利用価値はありましょう。事前に世の乱れを防ぐためにも……。ですが、私はそこに詳しくはありません」
彼らを従える立場にある王弟が、彼らがどうやって存続しているかを知らない。
こういったところにも、彼らの思想の矛盾が表れていると言えるだろう。
「この研究に関しては、必ずあなたに協力をいただくとして──彼らはあなたには弱いからね。香油の件で、あなたは彼らからひとつの権利を奪ったというわけだ。番を知る者を見付けたら、勝手に処理せず、あの北の地に集めさせた。そして香油を使って実験を行った。ただひとつ、そこで計画外の出来事が起こってしまった。それも大分未来の話になるが。香油の実験対象者として集めていた番を知る者の中に、王女の番相手が含まれた──あなたはあえて集め方を指示していなかったのだろう?それで今は後悔をしているのかな?」
王弟はただ真直ぐにレイモンドを見詰めていた。
その瞳に悲しみや後悔が宿ることも無く……レイモンドも首を振るに留める。
これ以上追求したところで、王弟はその内にある想いをレイモンドに明かすことはないのだろう。
ならば答え合わせを粛々と続けていくのみ。
「あなたの計画において、彼らはより多くの者たちに憎まれていて欲しかった。その憎しみが、彼らの思想に伴うところまで膨れればいいと考えていたのだろう?王族のためと称すれば、彼らが彼らを消す大義名分が出来るからね。そう遠くない未来に、今の隣国のような状況になるところまで想定していたのではないかな?そう考えると、末恐ろしい少年だったね。しかしあなたはやはり幼く、大きく間違えた──」
今日はじめてここで、レイモンドの目から色が抜け落ちた。
静寂の中で、王弟とレイモンドが見詰め合う。
「息子を巻き込んだことだよ。あなたにとっては、目的を果たせて満足しているかもしれないがね。私たちはそう優しくないのだから。あなたが本当に望むことなど、絶対に実現してやらないのだよ?」
「……なぜ?」
「逆に問いたい。番こそすべての私たちが、番を奪われた相手の望みを叶えようと思うだろうか?」
「しかし私たちはもう、この国を統べる者としては──」
「隣国のようなクーデターは起きないし、あなたも、そして王陛下も、そしてこれから生まれていただく次代も、王族としての地位に座り続けていただく──あなたの望むように誰が裁くか」
レイモンドが微笑みを浮かべて言ったせいで、その声色との温度差は激しかった。
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