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129.目が曇る者
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「あなたは自分の計画を知られ、邪魔されることをひたすらに怖れていた。違うかい?」
王弟の眉がぴくりと動いた。
その反応を喜ぶように、レイモンドは笑う。
「いい顔になってきたではないか。今の状況はあなたにとって大変に不本意なことなのだろうね?思えば私たちが領地から出て来てしまったことが、あなたにとっては想定外で計画に乱れが生じはじめた。賢いあなたもそこから計画を立て直すことが出来なかったのは、あなたの若さ故のことだろうか」
嫌味を言ってみれば、どうか。
レイモンドは様々に王弟の反応を探っているが、今回は反応は見られない。
「悪いがうちにはまだまだ元気な先々代の当主がいてね。他にも優秀な人材が揃っているから、私が少し不在にしたくらいでは何の問題も起きないようになっているんだ。あなたのところとは違ってね」
アルメスタ家の在り方は、上に立つ者として正しい形を取ったものだとレイモンドは信じている。
当主一人いなくなっただけでボロボロになる領地は、すべてにおいて足りていない。
だがお飾りの領主もまた違う。領主の決定なくして大事なことが動いてしまうような、責任の所在が見えない組織で成り立つ領地もまた、すでに破綻していると言えるのではなかろうか。
領主が請け負うべきことと、それぞれの裁量の範囲が、明確化されているからこそ、アルメスタ家の領地はよく回っているのである。
こうした教えをジェラルドに与えるときも、まだ先のことになろうか。
セイディが奪われることがなかったら。今頃はとても平和的に息子たちと仕事を分担し領地の運営を行っていて、さすれば早い時期に本当の隠居も叶ったのでは?
レイモンドは少し想像してみたが、そう綺麗に引継ぎを終えた結果には至らなかった。
されどどの瞬間に想像しても、それが失ったそれとは完全に違うものだとレイモンドは知っている。
番が側にあり続けて成長した息子は、今と同じ人間にはなっていなかったであろうから。
そしてそれこそが、レイモンドと妻シェリルが失って、もう二度と手に入らない息子との十年。
これを奪った男が、目の前にあるのだから、憎しみも強まるというもの。
僅かに可哀想だという想いがまだあるとすれば、この若き王弟に上に立つための心得などを助言して与える年長者が一人もいなかったことだろうか。
しかしその役目は、アルメスタ家の当主だったレイモンドにはない。
「あなたが恐れていた相手は、私たちだけではなかったね?彼らに知られることもまた、あなたには相当な恐怖だったはずだ。露呈してしまえば、彼らは真っ先にあなたの排除へと動いてしまう。次の王弟なる存在を、彼らはどうやってでも作り出していただろうね。そうだなぁ、時間凌ぎであの第三王子を傀儡として、影の王の立場を与えていたかもしれないね。その間に、急ぎ君の兄に二人の王子を作らせるよう動いていたかな?あぁ、彼らのことだから、王族の身体を労わろうともせずに、あなたの両親、先代の王と王妃にも頑張らせていただろうか。あの二人から一人でも新しく王子が生まれてくれば、それを第二王子と出来るからね。あなた無しに赤子から教育出来るのだから、大分都合が良かろうなぁ」
王弟の叔父であった先代王弟は、彼らには決して悟られぬように甥の第二王子を守っていたのではなかろうか。
レイモンドはそのように推測していた。
だからこの王弟は、完全には彼らの思想に洗脳されることなく、自分の意思を持って成長出来ているのではないか。そう捉えたからだ。
その自分の意思と思える部分さえ、叔父の洗脳という可能性は捨てきれないが。
すると甥に殺されるところまでが、先代王弟の計画だった可能性まで拭い去れず……。
とにもかくにも、すでに亡き先代王弟の心の内は、想像しか出来ない。
それにもう、亡き人にはその責任を追及することも、復讐することも叶わないのだ。
もし故人の計画通りとすれば、レイモンドはもっと早くに気付いて自らの手であの世に送ってやりたかったと悔やんでいるが。
すると若き王弟には全責任を取って貰うしかあるまいと、レイモンドは迷いなく自分より若き男を切り捨てた。
この無情さは、レイモンドの『番を知る者』らしい部分なのかもしれない。
「そのときに至るまで、計画を誰にも知られないこと。そして大きな事が起こるそのときには、どちら側にも考える時間を与えぬこと。あなたはこの二点を重視して計画を立て、これを実行してきた──」
レイモンドが長々と語っていても、王弟はその態度でも否定も肯定も示さない。
すべて知られた後だと諦めているからなのか、それとも……。
「いくら年月を掛けようと、彼らも我がアルメスタ家には上手く入り込めなかったようだが。それでもうちが抱える者たちについては、それなりに情報を得ていたのだろう?だからあなたは、息子には衝動的に動いて欲しかったわけだ。その勢いのまま、クーデターの旗印になってくれたら万々歳。彼らにもこの急な動きに翻弄されて何も分からないままに消えて欲しかったよねぇ」
くすくすくすと小さく嘲笑し、まだレイモンドは続けてやる。
「わざわざ義娘の生家まで焼き払ったのも、息子を激しく怒らせたかったのだろう?加えて息子が番を離さないように考慮した、というところだね?」
王弟の眉がぴくりと動いた。
その反応を喜ぶように、レイモンドは笑う。
「いい顔になってきたではないか。今の状況はあなたにとって大変に不本意なことなのだろうね?思えば私たちが領地から出て来てしまったことが、あなたにとっては想定外で計画に乱れが生じはじめた。賢いあなたもそこから計画を立て直すことが出来なかったのは、あなたの若さ故のことだろうか」
嫌味を言ってみれば、どうか。
レイモンドは様々に王弟の反応を探っているが、今回は反応は見られない。
「悪いがうちにはまだまだ元気な先々代の当主がいてね。他にも優秀な人材が揃っているから、私が少し不在にしたくらいでは何の問題も起きないようになっているんだ。あなたのところとは違ってね」
アルメスタ家の在り方は、上に立つ者として正しい形を取ったものだとレイモンドは信じている。
当主一人いなくなっただけでボロボロになる領地は、すべてにおいて足りていない。
だがお飾りの領主もまた違う。領主の決定なくして大事なことが動いてしまうような、責任の所在が見えない組織で成り立つ領地もまた、すでに破綻していると言えるのではなかろうか。
領主が請け負うべきことと、それぞれの裁量の範囲が、明確化されているからこそ、アルメスタ家の領地はよく回っているのである。
こうした教えをジェラルドに与えるときも、まだ先のことになろうか。
セイディが奪われることがなかったら。今頃はとても平和的に息子たちと仕事を分担し領地の運営を行っていて、さすれば早い時期に本当の隠居も叶ったのでは?
レイモンドは少し想像してみたが、そう綺麗に引継ぎを終えた結果には至らなかった。
されどどの瞬間に想像しても、それが失ったそれとは完全に違うものだとレイモンドは知っている。
番が側にあり続けて成長した息子は、今と同じ人間にはなっていなかったであろうから。
そしてそれこそが、レイモンドと妻シェリルが失って、もう二度と手に入らない息子との十年。
これを奪った男が、目の前にあるのだから、憎しみも強まるというもの。
僅かに可哀想だという想いがまだあるとすれば、この若き王弟に上に立つための心得などを助言して与える年長者が一人もいなかったことだろうか。
しかしその役目は、アルメスタ家の当主だったレイモンドにはない。
「あなたが恐れていた相手は、私たちだけではなかったね?彼らに知られることもまた、あなたには相当な恐怖だったはずだ。露呈してしまえば、彼らは真っ先にあなたの排除へと動いてしまう。次の王弟なる存在を、彼らはどうやってでも作り出していただろうね。そうだなぁ、時間凌ぎであの第三王子を傀儡として、影の王の立場を与えていたかもしれないね。その間に、急ぎ君の兄に二人の王子を作らせるよう動いていたかな?あぁ、彼らのことだから、王族の身体を労わろうともせずに、あなたの両親、先代の王と王妃にも頑張らせていただろうか。あの二人から一人でも新しく王子が生まれてくれば、それを第二王子と出来るからね。あなた無しに赤子から教育出来るのだから、大分都合が良かろうなぁ」
王弟の叔父であった先代王弟は、彼らには決して悟られぬように甥の第二王子を守っていたのではなかろうか。
レイモンドはそのように推測していた。
だからこの王弟は、完全には彼らの思想に洗脳されることなく、自分の意思を持って成長出来ているのではないか。そう捉えたからだ。
その自分の意思と思える部分さえ、叔父の洗脳という可能性は捨てきれないが。
すると甥に殺されるところまでが、先代王弟の計画だった可能性まで拭い去れず……。
とにもかくにも、すでに亡き先代王弟の心の内は、想像しか出来ない。
それにもう、亡き人にはその責任を追及することも、復讐することも叶わないのだ。
もし故人の計画通りとすれば、レイモンドはもっと早くに気付いて自らの手であの世に送ってやりたかったと悔やんでいるが。
すると若き王弟には全責任を取って貰うしかあるまいと、レイモンドは迷いなく自分より若き男を切り捨てた。
この無情さは、レイモンドの『番を知る者』らしい部分なのかもしれない。
「そのときに至るまで、計画を誰にも知られないこと。そして大きな事が起こるそのときには、どちら側にも考える時間を与えぬこと。あなたはこの二点を重視して計画を立て、これを実行してきた──」
レイモンドが長々と語っていても、王弟はその態度でも否定も肯定も示さない。
すべて知られた後だと諦めているからなのか、それとも……。
「いくら年月を掛けようと、彼らも我がアルメスタ家には上手く入り込めなかったようだが。それでもうちが抱える者たちについては、それなりに情報を得ていたのだろう?だからあなたは、息子には衝動的に動いて欲しかったわけだ。その勢いのまま、クーデターの旗印になってくれたら万々歳。彼らにもこの急な動きに翻弄されて何も分からないままに消えて欲しかったよねぇ」
くすくすくすと小さく嘲笑し、まだレイモンドは続けてやる。
「わざわざ義娘の生家まで焼き払ったのも、息子を激しく怒らせたかったのだろう?加えて息子が番を離さないように考慮した、というところだね?」
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