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130.採点のとき
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レイモンドは返事がないのに、また一人で頷いていた。
「確かにあの家が出しゃばれば、また息子はしばらくの間、番と離れることもあったかもしれないねぇ。まぁ、そんなことは私たちが許さないけれど」
セイディが親や弟に会いたい、親や弟と過ごしたい。一度でも会って、自ら口にするよう導かれてしまったら。
番最優先のジェラルドがこれを拒否出来るわけはないのである。
だから実親に会わせることも渋っていたわけで。
「……あの家は元から彼らの粛清対象でした」
王弟からやっと出てきた言葉がそれだった。
反応がある部分となき部分の違いを感じ取れば、レイモンドは愉快になってくる。
「あぁ、あの子の親とは思いたくないほどに、あの伯爵夫妻は貴族として酷いものだったね。あとから生まれた息子との交流はなかったが、あの親の子らしくそれは立派に育っていたと聞くよ」
セイディの両親が彼らからこの国に要らない貴族として判断されていたことは容易に想像出来た。
そのうえセイディという番を知る娘を生んだ親だ。両親だけでなく、後から生まれた弟も念のためにと共に消す予定にあったと考えられる。
「でもねぇ、あれは悪手だった。おかげで私たちはより深く考えるようになってしまったからね」
確かにレイモンドたちがまだ領地にいたら。
ジェラルドが暴走していた可能性がないとは言い切れない。
せっかく戻ってきたセイディの生家が焼き払われたことで、セイディを奪った者の残党がまだセイディを狙っているのではないかと疑心暗鬼に陥って、攻勢に転じていもおかしくはなかった。
ジェラルドとセイディを想うあまりに、ジェラルドに付けていた者たちも熱くなって、ジェラルドと共に衝動的に動いていたかもしれない。
だがアルメスタ家はそれからも慎重な動きしか見せなかった。
すでにレイモンドたちが主体となって動いていたところもあるが。
それは皆がセイディのお世話に忙しくて、復讐など二の次状態にあった影響も大きい。この心ない王弟にそういう想像が出来ていたとは思えないレイモンドであった。
されどさすがに十年も大人しく耐えているジェラルドを見ていたら。
王弟はもっと早くに計画を練り直していてもおかしくはなかったのではあるまいか。
レイモンドならば王弟が望むような国の破滅を導いていたかもしれないが、ジェラルドは十年もの長い時間にそうはしなかった。
それはもう個人の性質によるところが大きいように、レイモンドは感じている。
息子と言っても、別の人間。
レイモンドにはジェラルドのすべては分からない。
だが息子は何があっても、レイモンドならそうするようには動かなかったと思える。
無実の人たちまで巻き込んで、善人だろうと脅し、世の人々に恐怖を与え、番を取り戻すために動くようなことは、あの子には出来ない。それは父親としての少なくない愛情が目を曇らせている可能性も否定は出来ないまでも。
息子はそういう部分で自分に似なかったのだと、レイモンドは核心を持てた。
ジェラルドが素直な優しい子に成長出来たのは、幼くして番を得るという幸運を知り、心を卑屈に育てるような苦しい時期を成長時に味わわなかったせいもあるかもしれない。
けれどもやはりそれは最初から。
愛しい妻に似て生来の優しさを持ち続けた、自分よりずっと強い子どもだったから。
ジェラルドは大道から逸れず、地道に番を探し続けられたのであろう。
レイモンドからすれば、息子はとことん甘く、姿は似ていようとも中身はまるで別人。
なんだかんだと文句を言いながらも、息子は今までに誰のことも切り捨てて来なかったのだから。
番の一番を奪われたときでさえ。
番に自分より他者を選ばれたときでさえも。
誰も追い詰めない、誰も切り捨てない、その優しさは、間違いなくレイモンドが持たないもの。
レイモンドならば、同じ状況で迷いなく従者らを総入れ替えし、元の従者らは厳しい罰を与えたあとに、二度と番と会えぬ場所へと飛ばしてやった。
常日頃から家の者たちに気安く話し掛けられているせいで、下々に甘い男に見えてはいても。
それはレイモンドに仕える者たちが、ここまでは許されるという線引きをよく把握して、その線を決して踏み出して来ないからに過ぎない。
レイモンドがもっとずっと若い頃に、その線を越えてしまった者たちの末路を、レイモンドを主君とする者たちは知っているから……。
それは、息子は知らず、この先も息子らが知る機会を得ることもないだろう別の話。
さてはて。
ここまで甘い息子にクーデターの旗印を望んでいたって?
番を返してやれば、あとは無敵になって暴れるだろう?
全貌が見えたとき、レイモンドは首を捻った。
あれだけ聡い王弟が、どうしてジェラルドという若き青年をいつまでも見誤ってしまったのか。
その理由にレイモンドは当たりを付けた。
いくら先代王弟が人知れず守っていたとして。
この王弟は、物心付く前から彼らに教育を受けている。
とすれば、王弟にとって『番を知る者』とは──。
「さてさて、どうして。調査が進み、話が見えてくるほどに。私たちは前提に大きな違和感を覚えるようになっていった」
にやり。
続く言葉を待つ王弟に、レイモンドはまたしても不敵に笑ってやる。
「あなたが本当に妹君を愛していたのか、という部分への違和感だ。心当たりはあるね?」
さぁ、どう反応する?
レイモンドが目を輝かせていることに、大奥さまに嫌われても知りませんよーと注意をしてくれるお節介な侍従らも、今は側にない。
「確かにあの家が出しゃばれば、また息子はしばらくの間、番と離れることもあったかもしれないねぇ。まぁ、そんなことは私たちが許さないけれど」
セイディが親や弟に会いたい、親や弟と過ごしたい。一度でも会って、自ら口にするよう導かれてしまったら。
番最優先のジェラルドがこれを拒否出来るわけはないのである。
だから実親に会わせることも渋っていたわけで。
「……あの家は元から彼らの粛清対象でした」
王弟からやっと出てきた言葉がそれだった。
反応がある部分となき部分の違いを感じ取れば、レイモンドは愉快になってくる。
「あぁ、あの子の親とは思いたくないほどに、あの伯爵夫妻は貴族として酷いものだったね。あとから生まれた息子との交流はなかったが、あの親の子らしくそれは立派に育っていたと聞くよ」
セイディの両親が彼らからこの国に要らない貴族として判断されていたことは容易に想像出来た。
そのうえセイディという番を知る娘を生んだ親だ。両親だけでなく、後から生まれた弟も念のためにと共に消す予定にあったと考えられる。
「でもねぇ、あれは悪手だった。おかげで私たちはより深く考えるようになってしまったからね」
確かにレイモンドたちがまだ領地にいたら。
ジェラルドが暴走していた可能性がないとは言い切れない。
せっかく戻ってきたセイディの生家が焼き払われたことで、セイディを奪った者の残党がまだセイディを狙っているのではないかと疑心暗鬼に陥って、攻勢に転じていもおかしくはなかった。
ジェラルドとセイディを想うあまりに、ジェラルドに付けていた者たちも熱くなって、ジェラルドと共に衝動的に動いていたかもしれない。
だがアルメスタ家はそれからも慎重な動きしか見せなかった。
すでにレイモンドたちが主体となって動いていたところもあるが。
それは皆がセイディのお世話に忙しくて、復讐など二の次状態にあった影響も大きい。この心ない王弟にそういう想像が出来ていたとは思えないレイモンドであった。
されどさすがに十年も大人しく耐えているジェラルドを見ていたら。
王弟はもっと早くに計画を練り直していてもおかしくはなかったのではあるまいか。
レイモンドならば王弟が望むような国の破滅を導いていたかもしれないが、ジェラルドは十年もの長い時間にそうはしなかった。
それはもう個人の性質によるところが大きいように、レイモンドは感じている。
息子と言っても、別の人間。
レイモンドにはジェラルドのすべては分からない。
だが息子は何があっても、レイモンドならそうするようには動かなかったと思える。
無実の人たちまで巻き込んで、善人だろうと脅し、世の人々に恐怖を与え、番を取り戻すために動くようなことは、あの子には出来ない。それは父親としての少なくない愛情が目を曇らせている可能性も否定は出来ないまでも。
息子はそういう部分で自分に似なかったのだと、レイモンドは核心を持てた。
ジェラルドが素直な優しい子に成長出来たのは、幼くして番を得るという幸運を知り、心を卑屈に育てるような苦しい時期を成長時に味わわなかったせいもあるかもしれない。
けれどもやはりそれは最初から。
愛しい妻に似て生来の優しさを持ち続けた、自分よりずっと強い子どもだったから。
ジェラルドは大道から逸れず、地道に番を探し続けられたのであろう。
レイモンドからすれば、息子はとことん甘く、姿は似ていようとも中身はまるで別人。
なんだかんだと文句を言いながらも、息子は今までに誰のことも切り捨てて来なかったのだから。
番の一番を奪われたときでさえ。
番に自分より他者を選ばれたときでさえも。
誰も追い詰めない、誰も切り捨てない、その優しさは、間違いなくレイモンドが持たないもの。
レイモンドならば、同じ状況で迷いなく従者らを総入れ替えし、元の従者らは厳しい罰を与えたあとに、二度と番と会えぬ場所へと飛ばしてやった。
常日頃から家の者たちに気安く話し掛けられているせいで、下々に甘い男に見えてはいても。
それはレイモンドに仕える者たちが、ここまでは許されるという線引きをよく把握して、その線を決して踏み出して来ないからに過ぎない。
レイモンドがもっとずっと若い頃に、その線を越えてしまった者たちの末路を、レイモンドを主君とする者たちは知っているから……。
それは、息子は知らず、この先も息子らが知る機会を得ることもないだろう別の話。
さてはて。
ここまで甘い息子にクーデターの旗印を望んでいたって?
番を返してやれば、あとは無敵になって暴れるだろう?
全貌が見えたとき、レイモンドは首を捻った。
あれだけ聡い王弟が、どうしてジェラルドという若き青年をいつまでも見誤ってしまったのか。
その理由にレイモンドは当たりを付けた。
いくら先代王弟が人知れず守っていたとして。
この王弟は、物心付く前から彼らに教育を受けている。
とすれば、王弟にとって『番を知る者』とは──。
「さてさて、どうして。調査が進み、話が見えてくるほどに。私たちは前提に大きな違和感を覚えるようになっていった」
にやり。
続く言葉を待つ王弟に、レイモンドはまたしても不敵に笑ってやる。
「あなたが本当に妹君を愛していたのか、という部分への違和感だ。心当たりはあるね?」
さぁ、どう反応する?
レイモンドが目を輝かせていることに、大奥さまに嫌われても知りませんよーと注意をしてくれるお節介な侍従らも、今は側にない。
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