【完結】彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~

春風由実

文字の大きさ
137 / 186

130.採点のとき

しおりを挟む
 レイモンドは返事がないのに、また一人で頷いていた。

「確かにあの家が出しゃばれば、また息子はしばらくの間、番と離れることもあったかもしれないねぇ。まぁ、そんなことは私たちが許さないけれど」

 セイディが親や弟に会いたい、親や弟と過ごしたい。一度でも会って、自ら口にするよう導かれてしまったら。
 番最優先のジェラルドがこれを拒否出来るわけはないのである。

 だから実親に会わせることも渋っていたわけで。

「……あの家は元からの粛清対象でした」

 王弟からやっと出てきた言葉がそれだった。
 反応がある部分となき部分の違いを感じ取れば、レイモンドは愉快になってくる。

「あぁ、あの子の親とは思いたくないほどに、あの伯爵夫妻は貴族として酷いものだったね。あとから生まれた息子との交流はなかったが、あの親の子らしく育っていたと聞くよ」

 セイディの両親がからこの国に要らない貴族として判断されていたことは容易に想像出来た。
 そのうえセイディという番を知る娘を生んだ親だ。両親だけでなく、後から生まれた弟も念のためにと共に消す予定にあったと考えられる。

「でもねぇ、あれは悪手だった。おかげで私たちはより深く考えるようになってしまったからね」

 確かにレイモンドたちがまだ領地にいたら。
 ジェラルドが暴走していた可能性がないとは言い切れない。

 せっかく戻ってきたセイディの生家が焼き払われたことで、セイディを奪った者の残党がまだセイディを狙っているのではないかと疑心暗鬼に陥って、攻勢に転じていもおかしくはなかった。
 ジェラルドとセイディを想うあまりに、ジェラルドに付けていた者たちも熱くなって、ジェラルドと共に衝動的に動いていたかもしれない。

 だがアルメスタ家はそれからも慎重な動きしか見せなかった。
 すでにレイモンドたちが主体となって動いていたところもあるが。
 それは皆がセイディのお世話に忙しくて、復讐など二の次状態にあった影響も大きい。この心ない王弟にそういう想像が出来ていたとは思えないレイモンドであった。

 されどさすがに十年も大人しく耐えているジェラルドを見ていたら。
 王弟はもっと早くに計画を練り直していてもおかしくはなかったのではあるまいか。
 レイモンドならば王弟が望むような国の破滅を導いていたかもしれないが、ジェラルドは十年もの長い時間にそうはしなかった。
 それはもう個人の性質によるところが大きいように、レイモンドは感じている。

 息子と言っても、別の人間。
 レイモンドにはジェラルドのすべては分からない。

 だが息子は何があっても、レイモンドならそうするようには動かなかったと思える。
 無実の人たちまで巻き込んで、善人だろうと脅し、世の人々に恐怖を与え、番を取り戻すために動くようなことは、あの子には出来ない。それは父親としての少なくない愛情が目を曇らせている可能性も否定は出来ないまでも。

 息子はそういう部分で自分に似なかったのだと、レイモンドは核心を持てた。

 ジェラルドが素直な優しい子に成長出来たのは、幼くして番を得るという幸運を知り、心を卑屈に育てるような苦しい時期を成長時に味わわなかったせいもあるかもしれない。
 けれどもやはりそれは最初から。
 愛しい妻に似て生来の優しさを持ち続けた、自分よりずっと強い子どもだったから。
 ジェラルドは大道から逸れず、地道に番を探し続けられたのであろう。

 レイモンドからすれば、息子はとことん甘く、姿は似ていようとも中身はまるで別人。

 なんだかんだと文句を言いながらも、息子は今までに誰のことも切り捨てて来なかったのだから。
 番の一番を奪われたときでさえ。
 番に自分より他者を選ばれたときでさえも。
 誰も追い詰めない、誰も切り捨てない、その優しさは、間違いなくレイモンドが持たないもの。

 レイモンドならば、同じ状況で迷いなく従者らを総入れ替えし、元の従者らは厳しい罰を与えたあとに、二度と番と会えぬ場所へと飛ばしてやった。

 常日頃から家の者たちに気安く話し掛けられているせいで、下々に甘い男に見えてはいても。
 それはレイモンドに仕える者たちが、ここまでは許されるという線引きをよく把握して、その線を決して踏み出して来ないからに過ぎない。
 レイモンドがもっとずっと若い頃に、その線を越えてしまった者たちの末路を、レイモンドを主君とする者たちは知っているから……。
 それは、息子は知らず、この先も息子らが知る機会を得ることもないだろう別の話。

 さてはて。
 
 ここまで甘い息子にクーデターの旗印を望んでいたって?
 番を返してやれば、あとは無敵になって暴れるだろう?

 全貌が見えたとき、レイモンドは首を捻った。
 あれだけ聡い王弟が、どうしてジェラルドという若き青年をいつまでも見誤ってしまったのか。

 その理由にレイモンドは当たりを付けた。

 いくら先代王弟が人知れず守っていたとして。
 この王弟は、物心付く前からに教育を受けている。

 とすれば、王弟にとって『番を知る者』とは──。

「さてさて、どうして。調査が進み、話が見えてくるほどに。私たちは前提に大きな違和感を覚えるようになっていった」

 にやり。
 続く言葉を待つ王弟に、レイモンドはまたしても不敵に笑ってやる。

「あなたが本当に妹君を愛していたのか、という部分への違和感だ。心当たりはあるね?」

 さぁ、どう反応する?
 レイモンドが目を輝かせていることに、大奥さまに嫌われても知りませんよーと注意をしてくれるお節介な侍従らも、今は側にない。




しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...