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第一章 厄災の王女
6.懐かしむ王女
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「違います。生きておいでです」
言葉が返ってきたことに驚いて身体を起こせば、薄暗かった室内が明るくなって、フロスティーンは側に侍女が控えていたことを知る。
「ごめんなさい。眠ってしまったわ」
「謝らなくてもよろしいのですよ。まだお眠りになられますか?」
「眠っていた方が有難いかしら?」
侍女は短く沈黙したあとに、ゆっくりと首を振って微笑んだ。
フロスティーンはそこに懐かしいものを感じ取り、同時に祖国との違いを学ぶ。
祖国では城の侍女がこのように微笑むことは許されていなかったから。
「失礼ですが、お名前をお呼びしてもよろしいでしょうか?」
これも祖国との違いとして受け取ったフロスティーン。
とは言っても、フロスティーンの祖国の侍女に対するそれは、すべて知識であって、経験で得たものは何一つない。
彼女の祖国サヘラン王国では、侍女とは主人の命令に従うだけの存在であり、彼女たちに自由意志はなく、いつでも感情を示さないことを正とされていた。それをフロスティーンは知っているだけ。
そう、主人がいれば……。
謁見の間に同席していた彼女とて、あのような発言はせずに、顔をにやつかせることもなかったはず。
「好きなように呼んでいいわ」
フロスティーンはこう答えたが、無表情だから本心では名を呼ばれたくはないと思っていると捉えられてもおかしくはなかった。
だが短い時間フロスティーンの世話を務めた侍女は、もう彼女の表情に変化がないことには慣れたようで。
「有難きにございます、フロスティーン様」
簡単に王女の名を口にした。
そこでフロスティーンは気付く。
──名前を呼ばれたのは、乳母以来かも……?
「フロスティーン様がお目覚めになりたくなってから起きられたらよろしいのですよ?」
幼子を諭すようにゆったりと語る侍女に、フロスティーンは思い出したばかりの人をさらに重ねてしまった。
──この方、乳母に似ているかも?ということは……。
悟りを極めようとしているフロスティーンの心情など知らず、侍女は微笑みを浮かべ、フロスティーンに語る。
「お腹が空いていれば、すぐにお食事をご用意いたします。軽食がよろしければ、そのように仰ってください。甘いものもございます。お飲み物もこちらの城にあるものでしたら、お好きなものをご用意出来ます」
お腹が空いているかと問われると、急にそうだと感じてきたフロスティーン。
だが何を望めばいいか、フロスティーンには分からなかった。
そこでどう答えようかと悩まなかったフロスティーンは、まだ寝ぼけていたのだろうか。
──食事だけでなく飲み物まで……。間違いないわ。ここは……。
関係ない方向に思考を巡らし答えぬフロスティーンの様子を、別の意味で受け取ってしまった侍女は気遣いを示す。
「本日はこちらで選んだものをご用意させていただきますね。お気に召すものがございましたら、どうか教えてくださいませ。まだしばらくはお食事は軽いものとなりますが、それについてはご容赦ください」
侍女が何を言いたいのか本当は分かっていなかったフロスティーンであったけれど、静かに頷くと、あとは侍女にすべてを委ねることにした。
さっそく顔を洗うためにと用意された湯に感激したフロスティーン。
その後も着替えを手伝われ、髪も綺麗に結われ……。
フロスティーンはまだ夢を見ているのではないかと疑い始める。
だがどれだけ夢見心地な気分に浸っても、フロスティーンの表情は動かなかった。
そんな心と表情がちぐはぐな王女は、すでにあの謁見の間での姿とは別人となっている。
ただし骨と皮だけに見えるがりがりの身体だけは、誰の手でも一朝一夕でなんとかすることは叶わず。
それでも謁見の間に現れたのが今日のフロスティーンであったなら、あれほどの騒ぎにはならなかっただろう。
「もうご無理はなさらないでくださいませね?」
用意を終えた侍女がそう言えば、フロスティーンは頷きつつ心中では首を捻った。
──どういうことかしら?無理も何も、ここに来てからは何もしていないわ。
言葉が返ってきたことに驚いて身体を起こせば、薄暗かった室内が明るくなって、フロスティーンは側に侍女が控えていたことを知る。
「ごめんなさい。眠ってしまったわ」
「謝らなくてもよろしいのですよ。まだお眠りになられますか?」
「眠っていた方が有難いかしら?」
侍女は短く沈黙したあとに、ゆっくりと首を振って微笑んだ。
フロスティーンはそこに懐かしいものを感じ取り、同時に祖国との違いを学ぶ。
祖国では城の侍女がこのように微笑むことは許されていなかったから。
「失礼ですが、お名前をお呼びしてもよろしいでしょうか?」
これも祖国との違いとして受け取ったフロスティーン。
とは言っても、フロスティーンの祖国の侍女に対するそれは、すべて知識であって、経験で得たものは何一つない。
彼女の祖国サヘラン王国では、侍女とは主人の命令に従うだけの存在であり、彼女たちに自由意志はなく、いつでも感情を示さないことを正とされていた。それをフロスティーンは知っているだけ。
そう、主人がいれば……。
謁見の間に同席していた彼女とて、あのような発言はせずに、顔をにやつかせることもなかったはず。
「好きなように呼んでいいわ」
フロスティーンはこう答えたが、無表情だから本心では名を呼ばれたくはないと思っていると捉えられてもおかしくはなかった。
だが短い時間フロスティーンの世話を務めた侍女は、もう彼女の表情に変化がないことには慣れたようで。
「有難きにございます、フロスティーン様」
簡単に王女の名を口にした。
そこでフロスティーンは気付く。
──名前を呼ばれたのは、乳母以来かも……?
「フロスティーン様がお目覚めになりたくなってから起きられたらよろしいのですよ?」
幼子を諭すようにゆったりと語る侍女に、フロスティーンは思い出したばかりの人をさらに重ねてしまった。
──この方、乳母に似ているかも?ということは……。
悟りを極めようとしているフロスティーンの心情など知らず、侍女は微笑みを浮かべ、フロスティーンに語る。
「お腹が空いていれば、すぐにお食事をご用意いたします。軽食がよろしければ、そのように仰ってください。甘いものもございます。お飲み物もこちらの城にあるものでしたら、お好きなものをご用意出来ます」
お腹が空いているかと問われると、急にそうだと感じてきたフロスティーン。
だが何を望めばいいか、フロスティーンには分からなかった。
そこでどう答えようかと悩まなかったフロスティーンは、まだ寝ぼけていたのだろうか。
──食事だけでなく飲み物まで……。間違いないわ。ここは……。
関係ない方向に思考を巡らし答えぬフロスティーンの様子を、別の意味で受け取ってしまった侍女は気遣いを示す。
「本日はこちらで選んだものをご用意させていただきますね。お気に召すものがございましたら、どうか教えてくださいませ。まだしばらくはお食事は軽いものとなりますが、それについてはご容赦ください」
侍女が何を言いたいのか本当は分かっていなかったフロスティーンであったけれど、静かに頷くと、あとは侍女にすべてを委ねることにした。
さっそく顔を洗うためにと用意された湯に感激したフロスティーン。
その後も着替えを手伝われ、髪も綺麗に結われ……。
フロスティーンはまだ夢を見ているのではないかと疑い始める。
だがどれだけ夢見心地な気分に浸っても、フロスティーンの表情は動かなかった。
そんな心と表情がちぐはぐな王女は、すでにあの謁見の間での姿とは別人となっている。
ただし骨と皮だけに見えるがりがりの身体だけは、誰の手でも一朝一夕でなんとかすることは叶わず。
それでも謁見の間に現れたのが今日のフロスティーンであったなら、あれほどの騒ぎにはならなかっただろう。
「もうご無理はなさらないでくださいませね?」
用意を終えた侍女がそう言えば、フロスティーンは頷きつつ心中では首を捻った。
──どういうことかしら?無理も何も、ここに来てからは何もしていないわ。
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