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第一章 厄災の王女
16.微笑を知る王女
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フロスティーンと目を合わせながら、ゼインは自然に豊かな未来を描いてしまった。
それを終わらせたのは、微笑を浮かべたフロスティーンである。
「ゼイン様は緊張されるのですか?」
「あぁ、俺もなかったな」
──よくぞ平然と大嘘が吐けるな。
答えながらそう自嘲して、ゼインは常に自分が緊張状態にあることを思い出していた。
戦争中はさることながら、今だってアウストゥール王国は多くの問題を抱えている。
隣国を次々と併合したせいでかえって内政には不安を残し、急成長したこの国をよく思わない潜在的な敵国を増やしてしまった。
いつ誰が裏切るやも分からない。いつどこの国が攻めてくるかも分からない。
そんな状況でゼインが少しでも間違えれば、人は亡くなるし、国は滅ぶことになる。
歴代の王たちのように、隣国に対し、まるで属国のように従っていたら。
その方が楽に生きられたことはゼインも分かっていた。
されどももう突き進んでしまった後。
多くの者から恨まれる立ち場となった以上、心休まる日はいつまでも期待出来ないことをゼインは受け入れている。
そして王だからこそ、常に自分が緊張状態にあることを誰にも悟らせるわけにはいかなかった。
だからフロスティーンにも、迷いなく緊張はないと答えていたが。
──近頃は俺も大分楽しそうだな?
フロスティーンと過ごす日々のひととき。
ゼインは王であることを忘れて、純粋に楽しんできたように感じている。
しかしそれは、ひとたび気が付いてしまうと、とても気恥ずかしくなるものだった。
──俺よりフロスティーンを楽しませたいのだがな。
心の内を隠したゼインが、フロスティーンをじっと見詰めていたら、やがてその唇が開かれた。
──いつもとは違う色だな。紅か。
「経験なくとも、緊張という感覚はお分かりになるのですか?」
その唇に意識を囚われていたゼインは、何食わぬ顔をしてフロスティーンの瞳に視線を戻した。
「周りから聞けばだいたいのことは分かるものだ」
「そういうものなのですね。私も知らない感覚について人に尋ねてみようと思います」
フロスティーンはまたひとつ学べたと喜ぶように微笑む。
だがその微笑みが、訓練して得たものであることをゼインはよく分かっていた。
分かっていたのに……心はまた軽くなっていく。
──どうしてやろうか?
と、ゼインが自身の気持ちを誤魔化そうと、勝気にフロスティーンへと挑みたくなっていたとき。
不意に扉が開かれて、二人の視線はその向こうへと引き込まれる。
眩い光がぱっと入り込んできた直後には何も見えなくなった視界もすぐに開けた。
突然の腕をきゅっと掴まれた感覚にゼインは驚く。
人の多さに圧倒されたのだろうか。
フロスティーンにその手の意図はなかったとしても。
──本当にどうかしている。まず俺をどうにかした方が良さそうだ。
頼られたと喜ぶ自分を内心で嘲笑しながら、ゼインはフロスティーンを伴って歩み出した。
前に出れば二人より一段低いところにいる貴族たちの様子がさらによく見渡せるようになる。
障害物がなければ、声もまたよく届くもので。
「あれがあのときの王女なのか?」
「もはや別人ではないか」
「やはりあのときの王女は身代わりだったのでは?」
まず聞かれたのは、ゼインとフロスティーンがはじめて顔を合わせたあの日、謁見の間に同席していた重臣たちからの声だった。
それを終わらせたのは、微笑を浮かべたフロスティーンである。
「ゼイン様は緊張されるのですか?」
「あぁ、俺もなかったな」
──よくぞ平然と大嘘が吐けるな。
答えながらそう自嘲して、ゼインは常に自分が緊張状態にあることを思い出していた。
戦争中はさることながら、今だってアウストゥール王国は多くの問題を抱えている。
隣国を次々と併合したせいでかえって内政には不安を残し、急成長したこの国をよく思わない潜在的な敵国を増やしてしまった。
いつ誰が裏切るやも分からない。いつどこの国が攻めてくるかも分からない。
そんな状況でゼインが少しでも間違えれば、人は亡くなるし、国は滅ぶことになる。
歴代の王たちのように、隣国に対し、まるで属国のように従っていたら。
その方が楽に生きられたことはゼインも分かっていた。
されどももう突き進んでしまった後。
多くの者から恨まれる立ち場となった以上、心休まる日はいつまでも期待出来ないことをゼインは受け入れている。
そして王だからこそ、常に自分が緊張状態にあることを誰にも悟らせるわけにはいかなかった。
だからフロスティーンにも、迷いなく緊張はないと答えていたが。
──近頃は俺も大分楽しそうだな?
フロスティーンと過ごす日々のひととき。
ゼインは王であることを忘れて、純粋に楽しんできたように感じている。
しかしそれは、ひとたび気が付いてしまうと、とても気恥ずかしくなるものだった。
──俺よりフロスティーンを楽しませたいのだがな。
心の内を隠したゼインが、フロスティーンをじっと見詰めていたら、やがてその唇が開かれた。
──いつもとは違う色だな。紅か。
「経験なくとも、緊張という感覚はお分かりになるのですか?」
その唇に意識を囚われていたゼインは、何食わぬ顔をしてフロスティーンの瞳に視線を戻した。
「周りから聞けばだいたいのことは分かるものだ」
「そういうものなのですね。私も知らない感覚について人に尋ねてみようと思います」
フロスティーンはまたひとつ学べたと喜ぶように微笑む。
だがその微笑みが、訓練して得たものであることをゼインはよく分かっていた。
分かっていたのに……心はまた軽くなっていく。
──どうしてやろうか?
と、ゼインが自身の気持ちを誤魔化そうと、勝気にフロスティーンへと挑みたくなっていたとき。
不意に扉が開かれて、二人の視線はその向こうへと引き込まれる。
眩い光がぱっと入り込んできた直後には何も見えなくなった視界もすぐに開けた。
突然の腕をきゅっと掴まれた感覚にゼインは驚く。
人の多さに圧倒されたのだろうか。
フロスティーンにその手の意図はなかったとしても。
──本当にどうかしている。まず俺をどうにかした方が良さそうだ。
頼られたと喜ぶ自分を内心で嘲笑しながら、ゼインはフロスティーンを伴って歩み出した。
前に出れば二人より一段低いところにいる貴族たちの様子がさらによく見渡せるようになる。
障害物がなければ、声もまたよく届くもので。
「あれがあのときの王女なのか?」
「もはや別人ではないか」
「やはりあのときの王女は身代わりだったのでは?」
まず聞かれたのは、ゼインとフロスティーンがはじめて顔を合わせたあの日、謁見の間に同席していた重臣たちからの声だった。
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