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第一章 厄災の王女
18.王の宣言
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よく通る大きな声が、会場の隅々まで行き渡る頃には、貴族たちがそれぞれに息を呑んでいた。
ゼインが『妃となる』と言い切ったこと。
それは異論を許さないというゼインから貴族たちへの宣言だったからだ。
無論、ここまでの功績を上げている今の勢いのあるゼインに、異を唱えられる貴族がいなかったからこそ、サヘランから王女を迎え入れるというゼインの決定が問題なく通ったわけではあるが。
この決定に今でも眉を顰める者たちは残していた。
出来れば自身の娘や姪や姉や妹を、あるいは派閥の主家の娘を、ゼインの妃にと考えていた者たちにとっては、フロスティーンの存在はどれほどに面白くないものであったか。
まだ皆の記憶に鮮明に残っているかつての小国を一代で大国へと変貌させた英雄の王。必ずや歴史にその名を刻むこの男の妻に。大国の王として栄華を極めようとするこの男を親族に、身内に、味方に、という願いはどこからも湧いて出た。
淡き夢を見るのは自由だ。
しかし今も過ぎたる願いを持ち続けているとすれば。
それは彼らが大国の王に近しい存在になりたいと願いながら、大国の王についての考えが足りぬという証明である。
これもまた急速に国を拡大したことによる弊害。
国内の貴族たちの思想も、まだ国の規模へと追い付けてはいないのだろう。
こういった面においても、今のアウストゥール王国は危ういところにある。
元の小国の規模で問題を起こしている場合ではないのだが、そうなれば虎視眈々とゼインの失脚を願う者たちが動き出すだろう。
──もう少し釘を刺しておくか。
「婚姻までまだしばらく時間はあるが。今このときよりフロスティーンを王妃と変わらぬ者として心得よ」
我が王妃に手を出せば、分かっているな?
ゼインはそう脅している。
これで婚姻前にと焦って愚かな計画を立てて実行する者は減るだろう。
というのが、ゼインの目算。
──早まってはならんな。外に出すのは、式典の後にするか。
まだ部屋に閉じ込めようと先ほど得た考えを改めはじめたゼインが、隣を見れば。
フロスティーンはとても王女らしい笑みを浮かべ、貴族らを見下ろしているのだった。
──どうしてだろうな。俺より上手く出来そうな気がするのは。
フロスティーンがその手の能力をゼインに見せたことはない。
そもそもフロスティーンにはゼインが選んだ侍女や侍従としか会わせていなかったのだから、確認の機会もなかった。
なのにゼインには、王である自分の良き伴侶として、フロスティーンがこれから貴族たちと上手く付き合っていく未来が見えていたのである。
そこに明確に理由付けを行うことは出来なくも。
──何であれ、俺たちはいい夫婦にはなれよう。
と、妙な王女を前に、妙な自信を持つようになったゼインだ。
フロスティーンの視線が戻るのを待たずして、にやりと満足気に笑ったゼインは、再び前を向くと一段と大きく声を張り上げた。
「我が妃となる者が現われた明るい夜だ。今日は楽しんでくれ!」
こうして夜会が始まる。
ゼインが『妃となる』と言い切ったこと。
それは異論を許さないというゼインから貴族たちへの宣言だったからだ。
無論、ここまでの功績を上げている今の勢いのあるゼインに、異を唱えられる貴族がいなかったからこそ、サヘランから王女を迎え入れるというゼインの決定が問題なく通ったわけではあるが。
この決定に今でも眉を顰める者たちは残していた。
出来れば自身の娘や姪や姉や妹を、あるいは派閥の主家の娘を、ゼインの妃にと考えていた者たちにとっては、フロスティーンの存在はどれほどに面白くないものであったか。
まだ皆の記憶に鮮明に残っているかつての小国を一代で大国へと変貌させた英雄の王。必ずや歴史にその名を刻むこの男の妻に。大国の王として栄華を極めようとするこの男を親族に、身内に、味方に、という願いはどこからも湧いて出た。
淡き夢を見るのは自由だ。
しかし今も過ぎたる願いを持ち続けているとすれば。
それは彼らが大国の王に近しい存在になりたいと願いながら、大国の王についての考えが足りぬという証明である。
これもまた急速に国を拡大したことによる弊害。
国内の貴族たちの思想も、まだ国の規模へと追い付けてはいないのだろう。
こういった面においても、今のアウストゥール王国は危ういところにある。
元の小国の規模で問題を起こしている場合ではないのだが、そうなれば虎視眈々とゼインの失脚を願う者たちが動き出すだろう。
──もう少し釘を刺しておくか。
「婚姻までまだしばらく時間はあるが。今このときよりフロスティーンを王妃と変わらぬ者として心得よ」
我が王妃に手を出せば、分かっているな?
ゼインはそう脅している。
これで婚姻前にと焦って愚かな計画を立てて実行する者は減るだろう。
というのが、ゼインの目算。
──早まってはならんな。外に出すのは、式典の後にするか。
まだ部屋に閉じ込めようと先ほど得た考えを改めはじめたゼインが、隣を見れば。
フロスティーンはとても王女らしい笑みを浮かべ、貴族らを見下ろしているのだった。
──どうしてだろうな。俺より上手く出来そうな気がするのは。
フロスティーンがその手の能力をゼインに見せたことはない。
そもそもフロスティーンにはゼインが選んだ侍女や侍従としか会わせていなかったのだから、確認の機会もなかった。
なのにゼインには、王である自分の良き伴侶として、フロスティーンがこれから貴族たちと上手く付き合っていく未来が見えていたのである。
そこに明確に理由付けを行うことは出来なくも。
──何であれ、俺たちはいい夫婦にはなれよう。
と、妙な王女を前に、妙な自信を持つようになったゼインだ。
フロスティーンの視線が戻るのを待たずして、にやりと満足気に笑ったゼインは、再び前を向くと一段と大きく声を張り上げた。
「我が妃となる者が現われた明るい夜だ。今日は楽しんでくれ!」
こうして夜会が始まる。
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