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第一章 厄災の王女
51.学習する王女
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明るい空の下、穏やかに流れる風は庭の薔薇の香りを微かに届け、テーブルに並ぶ色鮮やかな菓子からは濃い甘い香りが舞い、それが立ちのぼる紅茶の香しさと相まって調和されることでここに創り出される優美な香。
それはこの場にあるだけで気分を高揚させる美しい香りであった。
それなのに質素なドレスに身を包んだ夫人たちから繰り広げられる会話が、この優雅な時に見合っていない。
しかしよくよく見れば。
夫人たちの周りには、給仕の侍女たちがいるだけではなかった。
帯剣した騎士たちがぐるりと席を囲むようにして配備され、王女の背後には女性騎士まで立っている。
物々しい彼らの存在もまた、美しい庭を背景にして彩り溢れるテーブル上とはとても見合うものではない。
だから今日のお茶会は、王城における変事と言えた。
「本当にどこの当主も同じことを考えておりましたのね。あれには困りましたわ」
「出来た以上の作物を送れるわけがないでしょうに。もっと作れと言われましても、ねぇ?」
「畑に種を撒いたら、翌日には収穫できるとでも思っていたのかしら?恥ずかしい限りだわ」
「だいたい王都までどれだけ離れているかも分かっていないのだもの。腐らずに送りたいなら加工なさいと言っても、今すぐ送るから大丈夫だと聞いてもくれなくて」
「本当にねぇ。戦地まで送るなら保存食の方が有難いでしょうに」
「すぐに食べられる方がよろしいでしょうとわたくしも説得しましてよ」
「それも領民のことを考えずにすべて送ろうとして」
「わたくしもあまりのことに言ってやりましたわ。領民の食事をする分を奪って、誰がその作物を育てるのと。殴られましたけれどね」
眉を顰める夫人たちに続き、王女が遅れて無表情に変わる。
いや……これは眉を顰めている……ようだ。
何故か両目が寄って、とてもおかしな顔付きになっている。
その後王女はすぐにその奇妙な表情を諦めた。
両目を寄せたまま給仕の侍女を見ようとしても表情が維持出来なかったからである。
そして侍女がゆったりと首を振る様を確認したあとには、もう王女は眉を顰めようとはしなかった。
夫人の幾人かがこれを不思議に思ってしばし王女を見詰めていたが、それも侍女からの「おかわりはいかがです?」という声によって見事に中断されている。
王女を見つめ続ける不敬に彼女たちは自ずと気付けた。
さすれば同じ奇妙なことがあろうとも、同じ人物がもう王女を見つめ続けるということはない。
そうしてまたそれぞれは会話への参加へと戻って行った。
「うちもよく殴られましてよ。わたくしだけではなく、女性から意見されることが許せないみたいね」
「そのわりに義母には弱くて。あれは許せませんでしたわ」
「あら?うちは義母にも同じようでしたわよ。母親になんて口を利くのかしらと思っていたわ」
「うちは逆に義母だけでなく娘にもそうでしたわね。それなのにわたくしは娘を守れなくて……」
一人が泣き出してしまったら、つられて泣くもの、肩を抱いて慰めるもの、ハンカチを差し出すもの、頷いて同調するものと、夫人たちの反応は様々だった。
すると王女は彼女たちを見渡したあとに、ぱちぱちと何度か目を瞬いて、それからまた同じ侍女を見た。
今度も侍女が首を振れば、王女は無表情のまま、侍女が新しく淹れてくれた紅茶を静かに味わう。
王女の目が閉じた。
侍女はここで思った。
きっとこの場に関係なく「天上の紅茶だわ!」と想っているに違いないと。
いよいよ侍女たちがこの奇妙な王女の心を読み始めている。
そしてそれは正解だった。
──今日もまたなんて美味しい紅茶なのかしら。天上は凄いところね!
そんな王女の心の声は当然誰にも届くことはなく。
夫人たちの話は続く。
それはこの場にあるだけで気分を高揚させる美しい香りであった。
それなのに質素なドレスに身を包んだ夫人たちから繰り広げられる会話が、この優雅な時に見合っていない。
しかしよくよく見れば。
夫人たちの周りには、給仕の侍女たちがいるだけではなかった。
帯剣した騎士たちがぐるりと席を囲むようにして配備され、王女の背後には女性騎士まで立っている。
物々しい彼らの存在もまた、美しい庭を背景にして彩り溢れるテーブル上とはとても見合うものではない。
だから今日のお茶会は、王城における変事と言えた。
「本当にどこの当主も同じことを考えておりましたのね。あれには困りましたわ」
「出来た以上の作物を送れるわけがないでしょうに。もっと作れと言われましても、ねぇ?」
「畑に種を撒いたら、翌日には収穫できるとでも思っていたのかしら?恥ずかしい限りだわ」
「だいたい王都までどれだけ離れているかも分かっていないのだもの。腐らずに送りたいなら加工なさいと言っても、今すぐ送るから大丈夫だと聞いてもくれなくて」
「本当にねぇ。戦地まで送るなら保存食の方が有難いでしょうに」
「すぐに食べられる方がよろしいでしょうとわたくしも説得しましてよ」
「それも領民のことを考えずにすべて送ろうとして」
「わたくしもあまりのことに言ってやりましたわ。領民の食事をする分を奪って、誰がその作物を育てるのと。殴られましたけれどね」
眉を顰める夫人たちに続き、王女が遅れて無表情に変わる。
いや……これは眉を顰めている……ようだ。
何故か両目が寄って、とてもおかしな顔付きになっている。
その後王女はすぐにその奇妙な表情を諦めた。
両目を寄せたまま給仕の侍女を見ようとしても表情が維持出来なかったからである。
そして侍女がゆったりと首を振る様を確認したあとには、もう王女は眉を顰めようとはしなかった。
夫人の幾人かがこれを不思議に思ってしばし王女を見詰めていたが、それも侍女からの「おかわりはいかがです?」という声によって見事に中断されている。
王女を見つめ続ける不敬に彼女たちは自ずと気付けた。
さすれば同じ奇妙なことがあろうとも、同じ人物がもう王女を見つめ続けるということはない。
そうしてまたそれぞれは会話への参加へと戻って行った。
「うちもよく殴られましてよ。わたくしだけではなく、女性から意見されることが許せないみたいね」
「そのわりに義母には弱くて。あれは許せませんでしたわ」
「あら?うちは義母にも同じようでしたわよ。母親になんて口を利くのかしらと思っていたわ」
「うちは逆に義母だけでなく娘にもそうでしたわね。それなのにわたくしは娘を守れなくて……」
一人が泣き出してしまったら、つられて泣くもの、肩を抱いて慰めるもの、ハンカチを差し出すもの、頷いて同調するものと、夫人たちの反応は様々だった。
すると王女は彼女たちを見渡したあとに、ぱちぱちと何度か目を瞬いて、それからまた同じ侍女を見た。
今度も侍女が首を振れば、王女は無表情のまま、侍女が新しく淹れてくれた紅茶を静かに味わう。
王女の目が閉じた。
侍女はここで思った。
きっとこの場に関係なく「天上の紅茶だわ!」と想っているに違いないと。
いよいよ侍女たちがこの奇妙な王女の心を読み始めている。
そしてそれは正解だった。
──今日もまたなんて美味しい紅茶なのかしら。天上は凄いところね!
そんな王女の心の声は当然誰にも届くことはなく。
夫人たちの話は続く。
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