思考終端-code:UTOPIA

兜坂嵐

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プロンプト・ゼロ

PROMPT-30世紀-ナノシティ

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ウラヌスはスマホを胸に抱え、床の上でゴロゴロ転がっていた。
「ねぇ~22世紀ってマジでドラえもん出んの?あたし実物見たい~!!」
「どこでもドア開けたい~~スネ夫の自慢部屋行きたい~~」
ソファの影からヴィヌスが紅茶を啜る。香り高い湯気が、雨の匂いと溶け合っていく。
「今さらだけど……本当に22世紀って、あんな世界になってるのかしら?」
「現代から見たら“あとちょっと先の未来”よね……」

プルトは黙ってメモ帳を開き、細い指で何かをスクロールしている。
「調べてみる?……気象制御、AI福祉、記憶補助デバイス……全部“実用化準備中”」
ページをめくる音が妙に響いた。
「でも、ひみつ道具は……まだ出てないわ」
サタヌスは窓枠に肘をつき、空を見上げる。
灰色の雲が重く垂れ込め、時折、光がかすかに走る。
「……あーマジ気になる、22世紀ってマジで“あのテンション”なんか?」
「全部実現すんのか?マジで?」

その瞬間――。
壁が、突然、雷のような閃光と共に吹き飛んだ。
瓦礫の間から現れたのは、金髪の悪魔――ユピテル。
雷のマントを翻しながら、にやりと笑う。
「22世紀ィ!? たかが100年後じゃねーか!」
「もっとド派手に“30世紀”とか飛べよお前ら!!」
サタヌスが絶叫する。
「30世紀とかもう意味わかんねぇよ!!」
「だって“存在しちゃいけない技術”とか絶対あるって!ひみつ道具と違って“やべぇやつ”だろ!!」
ユピテルは飄々とした笑みを浮かべながら、腰の刀を抜いた。
刃先が空気を裂くように光り、雷鳴が短く鳴る。
「大体なァ、俺はタイムマシンじゃねぇ!」
「“時元斬り”は“歪み”がなきゃ斬れねぇの!
 ただ行きたいですぅ~で時空が裂けたら苦労しねーわ!」

ウラヌスは床をバタバタ叩きながら叫んだ。
「えー!今行きたい気分なんだよぉぉ~~未来ぃぃ!!」
外では本格的な雨が降り出していた。
雷鳴がまた、遠くで小さく光る。
テレビではのび太が泣きながらドラえもんに怒られている。
「ひみつ道具が上手く使えるからって君がすごくなるわけじゃないんだぞ!」
その甲高い声が、雨音と雷鳴の間を縫うように――
怠惰界のリビングに、奇妙なほど澄んで響いた。
まるで、これから起こることを暗示するように。

ウラヌスはスマホを顔の上でくるくる回しながら、またどうでもいい方向へ話をぶっ飛ばした。
「てかさ、ドラちゃん、私わさびになってからのほうが好きなんだよね~」
ガイウスが顔を上げる。
「……わさび? なにその調味料みたいな言い方」
「違うの!声の人のこと!」
ウラヌスは床をバンバン叩きながら力説する。
「わさびドラって、なんか“勇者ちゃん”ぽいじゃん!」
「は!? 俺ェ!?」
ガイウスはスプーンを持ったまま固まった。
その表情は完全に“自分がどこで矢面に立たされたのか理解していない人”のそれだ。

「だってさ~」
ウラヌスは得意げに指を立てる。
「基本真面目で、みんなの面倒見ようとするくせに、ちょろいじゃん!」
サタヌスが噴き出した。
「わかるぅ~~!説教してくるけどちょろいとこ!マジ似てる!」
「“もう!お前らちゃんとしろよ!”って言いながら、次の瞬間には一緒に転げ回ってそう」
ガイウスは額を押さえ、深くため息をついた。
「……お前ら、俺をどう見てんだ?」
ヴィヌスが紅茶を啜りながら、少しだけ笑みをこぼす。
「優等生でお人好し。つまり、放っとけないタイプよ」
プルトは淡々と頷く。
「真面目な奴ほど、騙されやすい」
「おい待て、それフォローになってねぇ!」
雨音が強くなる中、シャドウヒル荘のリビングには、笑い声とポテチの袋を破る音が響いた。
ドラえもんのエンディングテーマが流れる。
未来のことなんて誰もわからないけれど――この瞬間だけは、たしかに幸せだった。

場所は変わり、時も遥か遠く――30世紀。
文明は幾度もの終焉を乗り越え、“発展”という名の皮を被った継ぎ接ぎの未来に辿り着いた。
ここは旧市街の果て。スラムとスラムの狭間に位置する、電磁墓地ジャンクエリア。
再利用されることもなく忘れ去られた人工物たちが、雨ざらしのまま朽ちている。
空は常にどんよりと灰色、虹色に腐った廃液が空中を漂い、低周波のノイズが都市の神経を蝕んでいる。

そんな風景の中で、少年の声だけがやたらと元気に響いていた。
「よっしゃぁ!今回は大当たりだぜ!」
錆びたジャンクの山に、くすんだ白髪の少年が両手を突っ込んでいる。
その名はPatch――レジスタンスの自称“宝探し担当”にして、実態はゴミ漁りの名人。
彼が引っ張り出したのは、ずっしりとした鉄の塊。
コードがちぎれ、画面の隅にクモの巣が張っている。
「NULL!解析しろ!」
Patchはそれを頭の上に掲げながら叫ぶ。

「多分テレビだが……こんなに分厚いテレビ初めて見たぜ!」
その隣、まるで影のように静かに立っていたのがNULLだった。
機械仕掛けの兵士、感情を持つかどうかさえ曖昧な謎の存在。
彼のバイザーに青白いグリッチが走り、一瞬だけ空気がピリつく。
「これは……ブラウン管テレビだ」
冷たい声で告げられた診断に、Patchが目を輝かせる。
「ぶらうん……かん?」
NULLは続ける。
「軽量、薄型化される前の初期モデル。ディスプレイ部分に真空管を用いて映像を表示していた」
「20世紀末の人類における、映像文化の転換点。電子機器としては時代遅れ。処理能力も低い」
Patchは神妙な顔で説明を聞き……そして、
「萌えるな!!」
なぜか、拳を握りしめて絶叫した。
NULLのバイザーが一瞬だけ“?”マークのように明滅する。

「意味不明だ」
だがPatchは構わず続ける。
「なんか……この箱に詰まってる感がいい!“見せるだけの機械”!奥ゆかしい!」
「しかもアナログ!物理ボタン!バカ重い!でも……そこがロマンなんだよ!!」
その様子を見ていた通りすがりの野良猫型ドローンが、ジリジリと距離を取った。
電磁墓地に響く少年の声だけが、世界から半歩ズレた時間を刻んでいた。

そして――その古いブラウン管テレビが、誰の手も触れていないのに、
微かに“カチッ”という音を立てて、ノイズ混じりに光り始めたのは、ほんの数分後のことである。
Patchは両腕でテレビを抱え直しながら、少し顔を上げた。
「これ、フォウの病院にもって行けねぇか?」
その声には、ただの“ガラクタ”では済ませない何かが宿っていた。
まるで、誰かが“懐かしい”と思ってくれるかもしれない――そんな仄かな願いを孕んでいた。
だが、それに応えたのは、背後から降ってきた冷静な女の声だった。

「そのままにしときな」
Patchが驚いて振り返ると、すでに彼女はそこに立っていた。
赤茶に染めたジャケットに、背中には旧型のスナイパーライフル。
陽に焼けたような肌、視線は射抜くように冷たく、だがどこかに情が滲んでいる。

――OBSOLETE。
かつて幸福庁に名を馳せた伝説の狙撃手、そして今はレジスタンスの姐御。
その名の通り、自分自身を“時代遅れ”と自嘲しながら、
夢見がちな年少コンビ――Patchとフォウ――の背中を静かに支える、頼れる女だった。

「映らないテレビじゃゴミと変わらないよ」
その一言に、Patchは少ししょんぼりしながらも、諦めきれず呟いた。
「そっかー……てか、俺的にはめっちゃ萌えるんだけどなぁ……」
OBSOLETEは薄く笑った。皮肉っぽく、だけど優しく。
「あんたが萌えても、実用性がなくちゃ困らせるだけさ」
そしてふっと視線を横にやり、傍らの荷台に乗っていた別の品に手を伸ばす。
それは、花柄の――昭和レトロな――ホーローポットだった。
淡いピンクに黄色い小花が散りばめられ、取っ手には経年の傷があるものの、
保温性は問題なさそうだった。

「こっちのほうが、闇病院のナースも喜ぶんじゃないかな?」
NULLが静かにポットを受け取り、しばし見つめてから頷いた。
「破損、軽微。湯沸かし機能、使用可能」
Patchはぽん、と手を叩いて明るく叫ぶ。
「よっしゃ、そっちにしよう!この花柄……患者さんウケも良さそうだしな!」
そのまま、三人はジャンク山を後にして、
スラムの隙間を縫うように建てられた、奇妙な病院へと歩み始める。
――死と癒しが隣り合い、未来の中で最も“人間らしさ”が息づく聖域へと。
雨粒がまだ乾かぬ鉄の骨組みの間を、彼らの足音が微かに響く。

そして、ナノシティ。
そこはかつて「花の都」と呼ばれた街の、末裔だった。

美と秩序が過剰に管理された理想都市。
上層は黄金とホログラムの楽園、下層はジャンクと自由のアジール。
この都市のどこかで、忘れ去られた“もう一つの地球の未来”が、静かに燃え続けていた。

セーヌ川沿い――
ナノシティの下層、その中でも最も深く、最も静かな一角にそれはあった。

“闇病院”

正式名称は存在しない。幸福庁のデータベースにも登録されていない。
けれど、そこに人は集まる。
傷ついた者、逃げてきた者、何も信じられなくなった者。
幸福値の低さを測定され、切り捨てられた“欠陥品”たちの最後の居場所。

他の病院と違い、ここには「演出された安心感」も、「作り込まれた笑顔」もない。
清潔感だけは維持されているが、どこか緩く、そして確実に“死の匂い”が混ざっている。
それでも人々はここに来る。
幸福庁のセンサーが届かず、AIの監視が緩いこの病院でなら、
ほんの少しだけ、自分で“痛み”や“希望”を選ぶことができるからだ。

そして――
その病院の廊下に、ぽつんと佇む影が一つ。
ボロ布のガウン、ほつれた袖口、安っぽい頭輪。
それでも、その笑顔は確かに“救い”だった。
少女型看護アンドロイド・フォウ。
彼女は今日も、誰に言うでもなく頭の輪っかを指で弾いて遊んでいたが……

「……あ」
声を上げて、Patchに気づくと、その顔にゆるく笑みが浮かぶ。
「Patch、そのポット……」
Patchは入口でガラクタを抱えたまま、くるりと振り返った。
「ああ? これ?花柄のやつ? 70年代っぽいやつ?」
「患者さんにすっごい人気なんだ」
フォウは小さく、けれど確かに頷いた。

「花柄でかわいいって。……あったかいって」
その言葉に、不思議なあたたかさがあった。
機能でも合理性でもなく、“感覚”で語られる幸福。
フォウの笑顔は、どこか“生きている”という事実そのものを肯定しているようだった。
OBSOLETEがそれを見て、ふっと口元を緩める。
ライターの火が一瞬だけ光り、煙草に淡く灯がともる。

「……この時代の感性じゃないのにね」
「でも、そういう“ズレた好み”が生きる理由になってるなら──いいじゃん」
NULLは無言で近づき、ポットを丁寧に袋へ収める。
彼の動作は機械的だが、どこか祈るような仕草に見えた。
その瞬間、通路の片隅にある液晶が、突如としてブレた。

笑顔で整列する市民たち――全員、同じ表情。
笑っているのに、目は虚ろだ。
次の瞬間、無機質な手が“個人データ”を黒く塗りつぶす。
“感情ログ:削除済”という文字が、警告音もなく表示される。

それを誰も指摘しない。
この病院では“そういうもの”は日常だからだ。
フォウは、相変わらずの調子で口を開いた。
「ところで、エージェントたちが嗅ぎ回ってるって本当?」
NULLがバイザー越しに彼女を見据え、淡々と応じた。

「ああ。近い内に“回収”が来る可能性がある」
「いまは誤魔化せるが……光学迷彩を見破られれば、無事では済まない」
フォウの指が輪っかを止める。
その動作はわずかだが、確かに一瞬だけ緊張が走った。
「そっか……」
ほんのわずか、瞳が揺れた。
けれど、次に出た言葉は、いつものフォウのものだった。

「私だけなら逃げられるけど、患者さんたち歩けない人も多いから……」
「お別れ、言っとこうかな」
NULLは答えなかった。
代わりに、ただ――バイザーの奥で、彼女の背中を見つめていた。
無音のまま、拳をゆっくりと握りしめる。
それは兵士の動作ではなく、きっと“人間”のそれだった。

この夜、雨はまだ止まない。
そして、フォウの微笑みだけが――“希望”の形をしていた。
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