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8章 二人の病気と看病

アースの書・レインの書~病気と看病・4~

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 ◇◆アース歴9年 7月14日◇◆

 鍛冶屋に俺の頭を預けられて早5日目……待ちに待った日がやっと来た。
 職人の手によって頭の凹みは無事に直った。
 直ったから……ラティア! 早く回収しに来てくれ!
 動けないのは本当に辛いんだ!

「こんにちは~」

 この想いが通じたのか、ソフィーナさんが店の中に入って来た。
 という事は――。

「コンニチハ~……」

 ソフィーナさんの後ろからラティアが顔をのぞかせた。

『ラティア!! 来てくれたんだな!!』

 ラティアの顔色も良い。
 元気になって良かった!
 あと迎えに来てくれて、本当にありがとう!

「……らっしゃい」

「この前頼んだ、アーメットの修理は出来ました?」

「……ああ。出来ているよ」

 職人が俺の頭を持ち、カウンターの上に乗せた。

「……これで良いか?」

「おお、すごい!」

「綺麗ニナッテマ~ス!」

 2人が驚いている。
 それもそうだろう。
 この職人は俺の頭のボロさに何か思うところがあったのか、やたらと手を入れていた。
 頭の凹みはもちろんの事、汚れや錆も丹念に落としてくれたからな。

「……修理費用は600ゴールドだ」

 前と違って、今回は相場よりちょい高いな。
 まぁ色々としてくれたし、これは仕方ないか……。

「ワカリマ~シタ。ハイ、600ゴールド」

 ラティアは代金を払い、俺の頭を受け取った。
 ああ……ラティアが着ている俺の体……なんか懐かしいな。

「……まいどあり」

「アリガトウゴザイマ~シタ」

「どうも~」

 ラティアとソフィーナさんは職人に会釈をし、店から外へと出た。

「本当ニオ何カラ何マデ世話ニナリマ~シタ。アリガトウゴザイマ~ス」

『俺からも、ありがとうございます!』

 俺の声は聞こえてはいないが、ちゃんとお礼は言わないとな。
 こういうのは気持ちが大事だ。

「……うん」

 ソフィーナさんが生返事しながら俺達をじっと見つめてきた。
 どうしたんだろう? 何かを怪しんでいる……って感じでもないな。

「? ドウカシマシタ~カ?」

「あ、いえ……アーメットだけ綺麗になったせいで、着ているプレートアーマーの方の汚れが目立つなと……」

『あっ』
「アッ」

 俺も昔、同じ事を思った事があるからよくわかる。
 そして1度そう思ってしまうと常に気になってしまうんだよな。

「ア~……エ~ト~……」

 ラティアがどうしましょう? という感じで俺を見ている。
 うー……そう言われたら体の方も綺麗にしたい……したいが……。

『……先を急ごう』

 体を預ける。
 つまり、また動けない状態に陥ってしまうという事。
 しかも今度は全身だからより長い時間動けない可能性がある。
 5日でおかしくなりそうだったのに、それ以上なんて考えたくもない。
 なら、このままの方がまだいい。

「ゴ意見アリガトウゴザイマ~ス。デスガ、次ノ目的地ニ向カワナイトイケナ~イノデ……」

「あ、そうですよね。変な事を言ってすみません。では、お元気で」

「ハイ。ソフィーナサンモ」

 ソフィーナさんと別れを告げ、俺達はヴァルガの入口へと向かった。

「……うウ……あんなに良くしてもらったのに、ソフィーナさんに対して偽っていた事に心が痛みまス」

 俺の中でラティアが嘆いている。
 ……これはなんて声を掛けたらいいものか。

(あの人間も仮面を着けて素顔を出していなかったし、それはお互い様ぢゃないの?)

 エイラの言う事にも一理あるが。
 それをお互いさまで片付けて良いのだろうか……。

『「う~ん……」』

 色々とモヤモヤを残しつつも、俺達は北の大陸へと向かうのだった。



 ◇◆アース歴9年 7月15日◇◆

「やっと見つけた!!」

 占い師の家に向かう途中、聞き覚えのある声で足を止めた。

「あら、ジョン」

 声の主はジョンこと、ジョシュアだった。
 思ったより、ヴァルガに到着するのが早かったわね。
 もっと到着するのが遅くなると思ってたわ。

「あら、ジョン……じゃないよ! もうー心配したんだから……勝手に行動しないでよ!」

 アタシを見つたジョシュアが叫びながら傍まで駆け寄ってきた。
 それにしても流石は狩人ね。
 この人だかりの中、すぐにアタシ見つけ出すとは……。

「あははは……ごめんね。色々あって、いてもたってもいられなくてさ~」

 平謝りをするアタシに対して、ジョシュアは呆れた顔をした。

「もう……で、この町に何があったの?」

「占い師に会いに来たの」

「…………はい?」

 アタシの言葉にジョシュアが一瞬固まった。

「占い師って……いやいや! レ……ソフィーナって占いを信じないタイプだったじゃないか!」

 まぁあの占い師以外は今でも信じていないんだけどね。

「変わったのよ。で、今からその占い師の家に行くの」

「今からって……はあ!? まだ占ってもらってないの!? マレスを出てから何日たつと思ってんの!」

「うるさいわね! 色々あったのよ! 本当に色々と!」

 こっちだって大変だったんだから。

「そんなにうるさく言うんだったら連れて行かないわよ!」

「いや、でもさ……」

 アタシ達はギャ~ギャ~騒ぎながら占い師の家へと向かった。



「こんにちは~」

「おお、お嬢さん来たか。見ておくれ、さっき届いたこの水晶の輝きを!」

 家に入ると椅子に座っていた占い師が立ち上がり、テーブルの上に置いてある丸い水晶に指をさした。
 おお、ついに完成したんだ。

「お~! ついにやりましたね」

「……何? 何なの、これ?」

 状況がわからないのか、ジョシュアが入り口で茫然としている。
 説明してあげたいけど……今はそれよりも占いの方が優先!

「じゃあ、さっそく占いをお願いできますか?」

「うむ、いいじゃろ。何を聞きたいんじゃ?」

 占い師が椅子に座り、水晶へ手をかざした。
 マレスで見た光景と同じね。
 けど、聞く事は違う。明日の運勢なんかじゃない。

「アタシの……追っているデュラハンは今どこにいるか教えてほしいの」

「そうかそうか、デュラ………………は?」

 占い師が怪訝な顔をしてアタシの顔見た。
 何でそんな顔をするかな。

「だから、デュラハンが今どこにいるのかを聞きたいんですよ」

「まさか、探しておったのはモンスターだったとは……う~む、人探しならあるがモンスター探しは初めてじゃな……まぁやるだけやってみよう……ルイニコドハンハラデュ! ヨウショイス! ヨウショイス!」

 出た、変な呪文を唱えつつ水晶に手をかざす行為。

「水晶が光り出した……」

 水晶が徐々に光り出すのを見て、ジョシュアが驚いている。

「カアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 占い師の叫びと共に、光っていた水晶の光が収まっていく。
 さて、今回の結果はどうなのかしら。

「ふむ……残念じゃが、今は移動しているみたいで今どこにいるのかわからなかった」

「……え? 箇条じゃないんですか?」

 アタシはてっきりまた箇条で言うのかと思っていた。
 だから、場所がつかめなかった事よりもそっちの方に引っかかってしまった。

「それは運勢じゃ。人……いやモンスター探しとは別じゃ」

 ええ……なんか納得がいかないんですけど。
 とはいえ、これ以上そこで拘っていても仕方ない。
 本題に戻ろう。

「移動して場所がつかめないのはわかりました。じゃあ、どこに向かっているんでしょうか?」

 お願い、そこはわかって。
 じゃないと完全に手掛かりが途切れちゃう。

「やってみよう……ルイテッカムニコドハンハラデュ! ヨウショイス! ヨウショイス! ――カアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 アタシは固唾をのみ、水晶の光が収まるのを待った。
 なんかドキドキする。

「………………船、雪国、お爺さんの姿が見えたぞ」

 船……雪国……それにお爺さん?
 まるで意味が分からない。

「船に雪国って、もしかして北の大陸への事? ソフィーナ、こんな占いを信じなくていいよ。デュラハンがわざわざ海を渡って北の大陸に向かうわけないじゃん」

 う~ん、ジョシュアの言う通り。
 北の大陸に行く目的が……ん? 待てよ、お爺さんってもしかして……オリバーの事なんじゃ!
 オリバーの爺さんが今北の太陸にいて、それを知ったデュラハンが向かっているという事だわ。

「……行きましょう。北の大陸に! 色々とありがとうございました!」

 だとすると、オリバーの爺さんが危ない!
 ぐずぐずしていられない、早く向かわないと!

「これ少ないですけど、お礼です!」

 アタシは500ゴールドをテーブルの上へ置き、占い師の家を飛び出した。

「はあ!? ちょっと待ってよ、ソフィーナ!! おーい!」

 目指すは北の大陸!
 待っていなさいよ、デュラハン!!
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