龍の卵 ー時代遅れの風紀総番長「巴御前」、曲者の新入生に翻弄されるー

二式大型七面鳥

文字の大きさ
8 / 18

07

しおりを挟む
「生徒会なら、下っ端でもある程度権限あるから色々動きやすい、授業中であってもな。何より、常にあんたと一緒に居て不思議はねぇ。強制的に執行部に入部ってのは気にいらねぇが、あの先輩の判断は合理的だ。そいつは認める」
 生徒会役員室を出たところで、寿三郎じゅざぶろうが廊下の先を見ながら、言った。その廊下の先は、甲子園勝利きねくに かつとし、時期生徒会長候補が立ち去った方向だ。
 ふんす。荒い鼻息を一つついて、寿三郎が振り向く。
「女の下につくってのも気にいらねぇが、そもそも俺たちは一年、あんたは上級生だ。それに、肝が据わってるのもさっきわかった。気にいらねえが、あの先輩の判断はいちいち合理的だ」
「つまり、よろしくお願いしますって言ってんすよ」
 信仁しんじが、寿三郎の発言を翻訳、要約してあたしに伝える。
「おい、勝手に捏造すんじゃねぇ」
「お?違ったか?そりゃどーも」
 へらへらと、実に軽く信仁は寿三郎をいなす。
「……何よあんた達、ずいぶん仲いいじゃない?」
 初日のあれからすれば、結構な事なんだろうけれど、なんか、ちょっとだけ、気にいらない。なんか、心配してたのが無駄になった気分。
「そりゃあもう。何しろ同じベッドで寝る仲ですから」
「止めろその言い方」
 あたしも、突っ込みようがない。要は、基本的に寮は二人部屋で二段ベッドって事なんだけど。
「……俺を女に間違えたのは気にいらねぇが、コイツはコイツで色々役に立つ。その能力は買ってる、それだけだ」
 話の流れを変えるためか、寿三郎が言った。その一言で、あたしは理解した。ああ、結奈ゆなが言ってたツンデレって、この事か。
「俺は別に、最初から仲良くしたいなーって思ってましたからね、俺、平和主義者だから」
 信仁も、へらっと言う。どの口が言うか。さっきの立ち回りを思い出して、あたしは確信した。コイツの方が曲者だ、コイツの言う事は話半分で聞いておかないと、馬鹿を見る。
「……まあいいわ。とにかく、もう五限目始まってるんだから、さっさと教室戻りましょ。放課後、ここで落ち合う、いい?」
「ああ」
「合点承知。そんじゃ、放課後にまた」
 無愛想でぶっきらぼうな寿三郎に、調子のいい信仁。この変な凸凹コンビが小走りに教室に向かうのを見送りつつ、あたしは、とりあえず小さな問題が一つ解決した事に安心してた。
 その安心が甘かった事を知るのは、翌日の昼休みの事だった。

「っかしーなぁ……」
 昼休み、例によって屋上に来たあたしは、素振りを始める前に、昨日回収し損なったコインを探していた。
 別に、高価なものってわけじゃない、単なるゲーセンのメダルなんだから。ただ、両断されたコインを誰かに見られて、変な勘ぐりされる事態は避けたい、そういう事だ。
 そもそも、単なるコイントスなら、あたしはかなり正確に狙ったところに落とせる。それだと練習にならないから、斬る時はある程度ランダムに落ちるように加減しているけど。それと、斬った時に弾き飛ばしたって事も無いはず。それが出来るようになるまでには、それなりに苦労したし時間もかかった。けど今なら、「念を載せた木刀で」全くコインの軌道を変えずに斬る事が出来る、それくらいの腕にはなった。
 だから、昨日のコインも、落としたところはわかってるから、そのあたりにあるはずなんだけど……
「お、やっぱ開いてた」
 あたしが捜し物を見つけられずにイライラしていた時。突然、聞き覚えのある声と共に階段室の扉が開いた。
 昨日ほどではないけど、ドキッとして振り向いたあたしと、開いた扉の隙間から顔を出した信仁しんじの目が合う。
「……お邪魔しますぜ」
 ニヤリとしながら、そう言って信仁はこっちに来る。
「また来たのかい?何しに来るんだい、こんな所に」
 気を取り直して、あたしは腰に手を当てて聞く。あたしみたいに人目を避ける用があるとも思えないし、本当に何しに来るんだ?
「そりゃ勿論、大好きな先輩の顔を見にですよ」
 いけしゃあしゃあと、歯の浮く事をコイツは言ってのける。だから信用出来ないんだ、コイツの言う事は。
「それと、ちょいと回収するものがありましてね」
 あたしに突っ込む隙を与えずに言葉を繋いだ信仁に、あたしは聞き返す。
「回収?何を?」
「これっすよ」
 室外機の上に登りながら返事した信仁は、室外機カバーに両面テープで固定されていたWebカメラを引っ剥がした。
「何だいそりゃ……あ!」
 あたしは、ちょっと考えて、すぐに気付いた。こいつが昨日ここに居たのは、この監視カメラを設置するためだ。何の為にって、そりゃあ……
「……あんた、さてはあいつらが来る事予想してたね?」
「俺だけじゃねえっすけどね。寿三郎と相談した結果っすよ」
 複数台あるカメラとケーブル、アンテナなんかを回収しつつ、信仁が答える。
「言っちゃえば、土曜日はこれを買いにアキバに行ってきたんでさ」
「あきれた……」
 つまり、昨日の行動は、全てこいつらのシナリオ通りだったって事か。あの時「こんなもんか?」って言ってたのは、そういう事だったのか。
 こいつら、とんでもねえ凸凹コンビだ。あたしは、ちょっと背筋が寒くなった。あたしが言うのも何だけど、普通の高校生が、そこまでするか?

「そうそう、あとこれ」
 回収した機材をナップザックに入れて背負い、室外機から飛び降りてきた信仁が、ポケットから何かを取り出して、あたしに差し出す。
 反射的に受け取ったあたしは、今度は背筋じゃなく肝を冷やした。
 それは、例のコインだった。真っ二つになった、あたしが探していた、ゲーセンのメダルだ。
「昨日、放課後に一旦ここ来たんすけどね、暗かったんでまあ明日でいいかって。ただ、足下に光るものがあって。位置からして、昨日あねさんが斬ったんでしょ?これ」
 邪気のない笑顔で、信仁はあたしに言う。
 あたしは、どう答えたものか、わからなかった。多分、その時のあたしは相当間抜けな顔してたと思う。そのあたしの反応をまるでスルーして、信仁は、
「凄いもんっすね。いや、ホントにいいもん見せて貰いました」
「あんた、これ……」
 あたしは、そういうのが精いっぱいだった。けど、信仁はどうやらあたしの言いたい事が分かったようだった。
「勿論、誰にも見せてないし言ってません。これは、俺と姐さんだけの秘密って事で」
「……そうかい、なら、いいんだけど……」
 見られちまっているから、今更コイツにこの事をどうこうというのは無理な相談だ。黙っていてくれるというなら、今はそれを信用するしかない。そう思って、少しだけ落ち着きを取り戻したあたしは、ある事に気付いた。
「……ちょっと待って、その、あねさん、っての、何?」
 基本、あたしは男子からは名字で清滝きよたき、女子からは名前でともえ、下級生からはそれプラス先輩呼びされる事が多い、というかそれ以外はまず呼ばれた事が無い。
 そこへ持って来てだ、その、姐さんって、何?
「あたしゃ、極道の妻かい?」
 そりゃ、生徒会執行部における立ち位置、似てるっちゃ似てるかもだけれども。
「いや、とりあえず俺は生徒会で姐さんの下になったわけだし、俺と姐さんの仲だから」
 どんな仲だよ。あたしは、秒で思う。
「先輩呼びってのもよそよそしいなと。とは言え巴さんとか、ちょっと馴れ馴れしすぎるなと。で、親密さと尊敬の念を含めて、俺的には姐さんってのがピッタリだなと」
「ピッタリじゃねーよ!めてよ、却下だ却下!」
「えー?寿三郎も賛成してくれたんすけど……」
「あんたら、そろいもそろって……」
「そんなわけで、改めてよろしくお願いしやす、姐さん」
「だから!」
「そうだ、一つ聞きたい事があるんすけど」
 あたしの抗議なんか馬耳東風で、信仁が強引に話題を変えた。
 もう少し、あたしはその呼び名に抗議するつもりだったんだけど、次の信仁の言葉を聞いて、今度こそ本気で、肝が冷えた。
「昨日、木刀、どこに仕舞ったんすか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...