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先頭を歩く甲子園、その後ろの信仁と寿三郎に続いてしんがりを歩きながら、あたしは、ちょっと自己嫌悪していた。なんでひっぱたいちゃったんだろう、そう思って。
理由は、なんとなく分かってる。あたしは、動揺したんだ。護ってもらう事に、慣れてないから。だからつい、あたしより弱いくせにって、かっとなっちゃって、手が出ちゃったんだ。
最近は滅多にしなくなったけど、小さい頃はそんな事、よくあった。妹たちが危ない事するたんびに、あたしも辛抱出来なくて、つい手が出るって事が。あたしはお姉ちゃんなんだから、あんた達を護らなきゃなんだから、だから言う事聞きなさいって。きっと、それと同じ。
あたしには、両親がいない。五年前に、二人とも死んだ。それからは婆ちゃんが保護者だけど、婆ちゃんも仕事があるから四六時中一緒ってわけにもいかない。その為と、この髪の色の事もあって、中学の頃はそれなりに色々言われたり、されたりはしてきた。
だから。そんな時、あたしはいつも、むしろ望んで前に出た。妹達を護る為、矢面に立った。負けたり、泣き寝入りなんて、絶対に受け入れられなかったから。
だから。自慢じゃないけど、護る事は慣れてる。実を言えば、服装も立ち居振る舞いも、わざと強面を装っている部分はある。
だから。身内以外の誰か、それも下級生の男子、ましてや普通の人間に護られるなんて、考えた事もなかった。
だから。あたしは動揺したんだ、きっと。
だって、あたしは、人狼だから。
まあ、人狼と言っても、あたしはどうやら半分だけらしいんだけど。そのせいか、妹達と違って、あたしは人の姿から変わる事が出来ない。詳しい事は、あたしも知らない。詳しい事聞く前に、両親は死んじゃったから。
それでも、あたしの身体能力は一般人のそれとはかなり差がある、それは間違い無い。だから、自惚れるつもりはない、上には上が居るのはわかってるけど、荒事でそうそう後れを取る気はしない。
そんなだから、年下の男子があたしをかばう、なんて事は今まで無かったし、考えてもみなかった。そもそも、こんな強面のあたしに気安く声をかけるのは、良くも悪くもそういうのに全く頓着のない結奈か、フィジカル以外の全ての面であたしを上回っていると自負している美羅くらいのもので、必要に迫らなければ、特に男子は近寄ってもこない。
今までは、そうだったんだ。
男子達の後ろを歩きながら、あたしはそんな事をグダグダと考えていた。
「じゃあ、一旦整理しよう。入学式の、四日前?」
生徒会役員室で、ざっと聞いた内容の要点をホワイトボードに書き出しながら、甲子園が聞く。
「四月二日だから、四日前っすね」
信仁が、答える。
「四日前に、渋谷で、寿三郎君が、女子に間違われて、スカウトされかけた、と。その相手が、さっきの連中?」
フンと鼻を鳴らして、今度は寿三郎が答える。
「間違いねぇ、です」
敬語が苦手そうな寿三郎を、一瞥しただけで別に窘めるでもなく甲子園は続けた。
「そこに通りかかった信仁君が、反社関係者が女子を勧誘していると勘違いして止めに入った、と」
「その通りっす」
甲子園は、ペンを停めて、振り向く。
「……止めただけで、探しに来るほど恨みを買うものか?」
「まあ、肉体言語で分かっていただきましたので」
含みを持たせて言った信仁に、甲子園が眉を寄せつつ、返す。
「……まあいいか。警察沙汰にはなってない?」
「あいつらも、それは避けたいだろう、でしょうし」
「叩きゃあホコリが出る身だろうから、藪蛇は避けたいでしょうからね。ましてやこんなガキにやり込められたとなっちゃあ……」
寿三郎と信仁が、交互に答える。
「……それで、沽券にかかわるってんで、そのガキの居場所を探して、探し当てた、そんなところかしら?」
壁にもたれたあたしが、被せる。
「よくも探し当てたもんですよ、なあ?」
「ああ、バカにしたもんじゃねぇな」
信仁が肩をすくめ、寿三郎が相槌を打つ。
「……清滝君、連中、また来ると思うか?」
甲子園が、あたしに振る。
「さて……言うとおり、警察沙汰は避けたいだろうから、もう直接学校には来ないと思う。けど……」
あたしは、二人を見ながら、
「……どっかで見張ってて、人気の無いところで意趣返し、なんてのはあり得るね」
「わかった。教職員側には、僕から一報入れておく。寿三郎君は被害者だし、信仁君も善意でやった事だ、処分どうこうと言う話にはしたくないと思う。ただ、校内ならともかく、登下校その他で一人になるのは危険だな。なるべく誰かと一緒に登下校した方がいい……」
そう言って、意味ありげに甲子園はあたしに目を向ける。
ああ、そういう事ね。あたしは、その視線の意味を即座に理解した。
「……清滝君、済まないが、しばらくは彼らと一緒に登下校してもらえないか?なるべく早急に具体策は検討するが、それまでは……」
「了解。それはいいんだけど、あんた達、時間は合わせられるの?」
部活がある場合、下校時間は、場合によって朝練でもあれば登校時間も、割とまちまちになる。
「俺は科学部と射撃部の兼部だから、まあ毎日六時七時っすかね?」
「俺は科学部だけだ、時間はまあ、どうにでもなる」
うちの学校は、ほとんどの生徒が文化系と運動系を兼部している。あたしの場合は剣道部だけだが、ここに生徒会が入ると時間が読みづらくなる。
「なら、僕にいい考えがある」
明るい顔で、甲子園が、言った。
「君たち、生徒会執行部に入部したまえ」
理由は、なんとなく分かってる。あたしは、動揺したんだ。護ってもらう事に、慣れてないから。だからつい、あたしより弱いくせにって、かっとなっちゃって、手が出ちゃったんだ。
最近は滅多にしなくなったけど、小さい頃はそんな事、よくあった。妹たちが危ない事するたんびに、あたしも辛抱出来なくて、つい手が出るって事が。あたしはお姉ちゃんなんだから、あんた達を護らなきゃなんだから、だから言う事聞きなさいって。きっと、それと同じ。
あたしには、両親がいない。五年前に、二人とも死んだ。それからは婆ちゃんが保護者だけど、婆ちゃんも仕事があるから四六時中一緒ってわけにもいかない。その為と、この髪の色の事もあって、中学の頃はそれなりに色々言われたり、されたりはしてきた。
だから。そんな時、あたしはいつも、むしろ望んで前に出た。妹達を護る為、矢面に立った。負けたり、泣き寝入りなんて、絶対に受け入れられなかったから。
だから。自慢じゃないけど、護る事は慣れてる。実を言えば、服装も立ち居振る舞いも、わざと強面を装っている部分はある。
だから。身内以外の誰か、それも下級生の男子、ましてや普通の人間に護られるなんて、考えた事もなかった。
だから。あたしは動揺したんだ、きっと。
だって、あたしは、人狼だから。
まあ、人狼と言っても、あたしはどうやら半分だけらしいんだけど。そのせいか、妹達と違って、あたしは人の姿から変わる事が出来ない。詳しい事は、あたしも知らない。詳しい事聞く前に、両親は死んじゃったから。
それでも、あたしの身体能力は一般人のそれとはかなり差がある、それは間違い無い。だから、自惚れるつもりはない、上には上が居るのはわかってるけど、荒事でそうそう後れを取る気はしない。
そんなだから、年下の男子があたしをかばう、なんて事は今まで無かったし、考えてもみなかった。そもそも、こんな強面のあたしに気安く声をかけるのは、良くも悪くもそういうのに全く頓着のない結奈か、フィジカル以外の全ての面であたしを上回っていると自負している美羅くらいのもので、必要に迫らなければ、特に男子は近寄ってもこない。
今までは、そうだったんだ。
男子達の後ろを歩きながら、あたしはそんな事をグダグダと考えていた。
「じゃあ、一旦整理しよう。入学式の、四日前?」
生徒会役員室で、ざっと聞いた内容の要点をホワイトボードに書き出しながら、甲子園が聞く。
「四月二日だから、四日前っすね」
信仁が、答える。
「四日前に、渋谷で、寿三郎君が、女子に間違われて、スカウトされかけた、と。その相手が、さっきの連中?」
フンと鼻を鳴らして、今度は寿三郎が答える。
「間違いねぇ、です」
敬語が苦手そうな寿三郎を、一瞥しただけで別に窘めるでもなく甲子園は続けた。
「そこに通りかかった信仁君が、反社関係者が女子を勧誘していると勘違いして止めに入った、と」
「その通りっす」
甲子園は、ペンを停めて、振り向く。
「……止めただけで、探しに来るほど恨みを買うものか?」
「まあ、肉体言語で分かっていただきましたので」
含みを持たせて言った信仁に、甲子園が眉を寄せつつ、返す。
「……まあいいか。警察沙汰にはなってない?」
「あいつらも、それは避けたいだろう、でしょうし」
「叩きゃあホコリが出る身だろうから、藪蛇は避けたいでしょうからね。ましてやこんなガキにやり込められたとなっちゃあ……」
寿三郎と信仁が、交互に答える。
「……それで、沽券にかかわるってんで、そのガキの居場所を探して、探し当てた、そんなところかしら?」
壁にもたれたあたしが、被せる。
「よくも探し当てたもんですよ、なあ?」
「ああ、バカにしたもんじゃねぇな」
信仁が肩をすくめ、寿三郎が相槌を打つ。
「……清滝君、連中、また来ると思うか?」
甲子園が、あたしに振る。
「さて……言うとおり、警察沙汰は避けたいだろうから、もう直接学校には来ないと思う。けど……」
あたしは、二人を見ながら、
「……どっかで見張ってて、人気の無いところで意趣返し、なんてのはあり得るね」
「わかった。教職員側には、僕から一報入れておく。寿三郎君は被害者だし、信仁君も善意でやった事だ、処分どうこうと言う話にはしたくないと思う。ただ、校内ならともかく、登下校その他で一人になるのは危険だな。なるべく誰かと一緒に登下校した方がいい……」
そう言って、意味ありげに甲子園はあたしに目を向ける。
ああ、そういう事ね。あたしは、その視線の意味を即座に理解した。
「……清滝君、済まないが、しばらくは彼らと一緒に登下校してもらえないか?なるべく早急に具体策は検討するが、それまでは……」
「了解。それはいいんだけど、あんた達、時間は合わせられるの?」
部活がある場合、下校時間は、場合によって朝練でもあれば登校時間も、割とまちまちになる。
「俺は科学部と射撃部の兼部だから、まあ毎日六時七時っすかね?」
「俺は科学部だけだ、時間はまあ、どうにでもなる」
うちの学校は、ほとんどの生徒が文化系と運動系を兼部している。あたしの場合は剣道部だけだが、ここに生徒会が入ると時間が読みづらくなる。
「なら、僕にいい考えがある」
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「君たち、生徒会執行部に入部したまえ」
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