青春短し、恋せよ乙女――ただし人狼の。

二式大型七面鳥

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青春短し、恋せよ乙女――ただし人狼の。 05

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 放課後。バンドの練習用に借用申請した音楽準備室。余談だけど、毎年この時期はバンド設立が乱立して、この辺の部屋は取り合いになるって音楽の先生が言ってた。夏休み明けには激減するとも言ってたけど。で、その激戦区の音楽準備室を週一だけど取れた、ラッキーなあたし達の練習時間。
「やあ諸君!」
 聞き慣れた、よく通る、ちょっと高めでハスキーな声。準備室の引き戸を開けて、ギターケースを担いだ山田君が入ってくる。
「練習にはげんでいるか、ね?……え?」
 笑顔でそう言った彼の、その笑顔が、動きが、凍り付く。
 次の瞬間。山田君はその場から消え失せた。一瞬遅れて、ごとん、ケースごとギターが床に落ち、倒れる。
 あたしには見えていた。何かを見た山田君が、ものすごい勢いで回れ右をして、文字通り脱兎の如く廊下を走り去っていったのが。
「何?今の?」
「……江南えなみだったようだけど……あ、ギター置いてってら」
 キーボードの輿水由紀子こしみず ゆきこと、ベースの高橋大たかはし だいが、引き戸の外を確認している。二人には、山田君の動きは素早すぎて目にとまらなかったらしい。
「……な?ランちゃん見てたか?」
 銀子ぎんこが、呆然としているあたしに、言う。
「ヤーマダ君、アレ・・見ただけで、あの反応やで?」
 あの二人に聞こえないように、銀子は声を潜めているけど、もちろんあたしには、はっきりと聞こえていた。
 そして、あたしには見えていた。山田君が、何を見たのか。それは、仔犬。白くて小さい、生後三ヶ月くらいの、銀子が幻術で見せた、仔犬。あたしには、見えた、というか認識出来たけど、由紀子と大には見えていない。銀子にとっては、その程度の事は朝飯前だ。
 ああ、そう。山田君、イヌ、ダメなんだ……
 あたしは、ただ呆然と、山田君が落していったギターをどうした物か相談している由紀子と大と、そこに合流する銀子を見ていた。なんか、何も考えられなかった。
「やぁ、えらい逃げ足どしたなあ」
 あたしのさらに後ろから、環が感想を述べる、あっけらかんと。
「……どうもおへんか?顔色、ようおへんえ?」
 あたしの肩を軽く叩いて、環があたしの顔をのぞき込んで、聞いた。
 どうもこうも。
 この瞬間。あたしの初恋は、何一つ進展する事なく、空しく砕け散ったのだった。

「あのなあ……」
 銀子が、あきれた様な、困った様な表情で、言う。
「普通、こないな所で酒盛りやせえへんねんで?なあ?」
「うっさいわねぇ!」
 あたしは、やけになって答える。
「失恋のやけ酒なのよ!どこで呑もうとあたしの勝手よ!いーじゃない!」
 我ながら、ダメだとは思う。けど、呑まなきゃやってられない時ってのもあるのだ。
 ……いや、高校生が呑むのがまずダメだってのは置いておいて。


 今は、午後十時過ぎくらい、多分。場所は、学校の屋上の、階段出口の屋根の上。
 あの後あたしは、ショックのあまり、バンドの練習をフケた。由紀子と大に悪い事した、その気持ちはある。心配してついてきてくれている銀子と環にも迷惑かけてる、それも自覚してる。
 けど、ダメ。自分でも正直びっくりしているけど、恋に破れるって、こんなにショックだったんだ。
 気が付いたら、あたしは駅前の焼き肉食べ放題に居た。あたしの本能が、心の傷を食事で癒やそうとしたのかも知れない。制限時間いっぱいまで、ひたすら無心に肉を食べ続けるあたしを、付き合いのいい銀子があきれ顔で見ていたのは覚えている。
 その後、あたしは、ひたすら無心に武蔵国分寺公園の円形芝生広場を走った。全力疾走で。何周回ったか、数えてないからわからない。ただ、限界に達してぶっ倒れたとき、もうあたりはとっぷりと暗くなっていた。夜目が利くあたしは、それまで気付いていなかったけど。
「気ぃ、すんだか?」
 銀子ぎんこが、地面に大の字になっているあたしを上からのぞき込んで、聞いた。
「まあ、ショックやったろうけどもな。そんだけ喰って、暴れて、でも誰にも当たらんかったんは偉いと思うで」
 銀子は、優しい。ホントに良い娘。
「……ユキとダイに、悪い事、しちゃった……」
 あたしは、まだ整わない息の下で、言った。
「ああ……まあ、明日にでも謝っとき」
「……うん……ありがと、お銀、たまき
 あたしは、あたしを見下ろしている銀子と、円形広場のベンチに座っている環に言った。
「……ありがとついでに、あのね、もうちょっと、付き合ってくれる?」
 ……そして今、こうして深夜の学校の屋上に、あたし達は、居た。
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