【R18】愛人契約

日下奈緒

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第3章 パーティー

《前》

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その誘いを受けたのは、2度目の時だった。

「パーティーの付き添い?」

「ああ。」

シャワーを浴びようとしていた時、タオルを渡されたのと同時に言われた。

「でも、私パーティーなんか。」

「頼むよ。礼金は弾む。」

全くこの人は、お金を支払えば、何でも受けて貰えると思っているらしい。

「ただ僕の隣にいて、ニコニコしていればいいんだ。」

そんな人形みたいな事、本気で言っているのかしら。

「ドレスや靴がないのなら、これで。」

と、ベッドの上に10万円を置いた。

確かにそれだけあれば、バッグまで買えるけれども。

「他に頼む人がいないんだ。付き合っている女性もいないし。」

「はい……」

そこまで言われて断ったら、女が廃るかな。

「分かりました。いつですか?」

「今週末なんだ。」

「今週末!?」

今週末って言ったら、もう明後日じゃない。


「家まで迎えに行くよ。後で住所教えて。」

「はい……」

そんな急な事、なぜ私に頼むの?と思いながら、シャワー室へ入った。

温かいお湯が、本田さんとの情事と洗い流す。

はぁーっとため息を、一つついた。


正直言って、泰介の入院費や治療費で、お金はいくつあっても足りない。

だから、パーティーに行っただけで、またお金が貰えるのは嬉しい。


セックスって、もっと身も心も、満たされるものだと思っていた。

まさかお金で満たされる時が来るなんて。


その時だった。

シャワー室が開いて、本田さんが入って来た。

「あっ、忘れ物ですか?」

「ううん。」

そしてそっと、本田さんに抱き締められた。

「ごめん。急にあんな事を頼んでしまって。」

「いいえ、気にしないで下さい。」

「他の人を探したんだが……何て言うか……」

「はい?」

本田さんは私を引き離すと、私を見つめた。

「君と行くパーティーは、どうなのかなって。急に思って。」

嬉しくて、なんだかニヤけてしまう。


その上、本田さんのが硬くなっているような気がした。

「もう一度抱いたら、追加料金とかある?」

「あっ、いえ……」

その細くて長い手で胸を揉まれ、舌でコロコロと転がされた。


「んんんっ……」

本田さんの舐め方、いやらしくて直ぐに蜜が溢れてしまう。

いつの間にか、後ろから突かれ、私は甘い声をたくさん出してしまった。


「もっと聞かせてくれ。」

なのに本田さんは、もっとねだってくる。

「君の喘ぎ声を聞くと、癒されるんだ。」

「そんなっ……」

そんな事、今までの彼氏に言われた事はない。

私を抱いて癒しになるんだったら、毎日でも抱いてって、本田さんに言いたいけれど。

これは契約なのだから、お金が付きまとう。

いくら本田さんでも、毎日は迷惑だろう。


「ここがいい?」

「あっ……」

「どこがいいか、教えて……」

本田さんの甘い囁きこそ、私の癒しになっているのだと言う事を、彼は知らない。

約束していた週末は、意外に早くやってきた。

昨日用意したドレスを着て、私はマンションの前に立っていた。

ここに本田さんが来る。

寂れたマンションだって、幻滅されないかな。


その時、一台の車が私の前に停まった。

後ろの席のドアが開き、本田さんが顔を出した。

「やあ。さあ、乗って。」

「はい。」

本田さんの車は、運転手付きの豪華なものだった。

私はまるで、カボチャの馬車に乗った気分だ。

「そのドレス、いいね。」

「ありがとうございます。」

一日中悩んでよかったと、ほっと胸を撫で下ろした。


「今日の集まりは、同じ社長同士でね。中には女性の社長もいて、いろいろ言ってくるが、あまり気にしないように。」

「分かりました。ところで、私は今日、どういう立場でいればいいですか?」

「立場?」

「彼女とか。それとも同じ会社の秘書と言う事にしておきますか?」

「そうだな。秘書だと会社の事を聞かれるかもしれない。恋人と言う事にしておこう。」

「はい。」

自分で言っておきながら、今だけ彼女と言う立場に、心が躍る。


私はちらっと、本田さんの方を見た。

無表情で、外を見ている。

ホテルで会った時とは、全く違う人だ。


「弟さんは、どうなった?」

「えっ?」

急に弟の事を聞かれ、ハッとした。

「脳に腫瘍があると言っていたけれど、手術はしたのか?」

「はい。お陰様で無事成功しました。」

「そうか。よかった。これからはもっと、今日みたいに稼ぐ機会を増やすよ。」

「えっ……」

もしかして、誰もいなかったって言うのは嘘?

弟の事も心配して、わざと私に援助の機会を与えてくれたの?


どうしよう。

本田さんの優しさが、身に染みる。

この契約には、愛がないのに。


私は、そっと本田さんに手を伸ばした。

指先が、本田さんの指先に触れる。

ああ、これだけでいいい。

どうか、手を引かないでほしい。

今だけ今だけ……


その時だった。

本田さんの指先が離れた。


途端に寂しくなる指先。

そうだよね。

契約だけの関係なのに、それ以上を求めちゃダメだよね。

でも、奇跡は起こった。

本田さんの手が、私の手を握ってくれたのだ。

本田さんの方を見ると、相変わらず外を眺めている。

手が温かい。

きっと本田さんの優しさが、熱になって伝わってきているんだ。


今、はっきり思った。

私は、本田さんが好き。

本田さんにとっては、契約の相手だったとしても、私はそれでも構わない。


- 感情が入ると、続かないわね -

三宅先輩の言葉が思い浮かぶ。

きっとそれは、女の方だよね。

と言う事は、この恋は続かない。

体の関係なんて、ずっと続かない。

本田さんに飽きられた時、この恋は終わるんだ。


「着いたよ。」

手が離れ、車のドアが開いた。

車を降りると、とても豪華なホテルの入り口が、広がっていた。

「うわぁ……」

「気に入ったかい?」

本田さんは、私を見降ろしてくれた。


ドキッとした。

あまりにも、本田さんがキラキラ光っているから。


「行こうか。」

「はい。」

本田さんにエスコートされて、なんだか小さい頃に読んだ、お姫様みたいな気分になった。

会場に入ると、大きなシャンデリアがあって、たくさんの人が着飾ってキラキラしていた。

「本田。」

「ああ、松森か。」

同じ社長さんだろうか、すごい親しそうに話していた。

「そちらは?」

松森さんと言う人が、私を覗く。

「新しい彼女か?」

「そんなものだ。」

素っ気ない返事をして、二人は『また。』と別れてしまった。


するとまた、別の友人がきて、『新しい人か?』と聞いて、去って行った。

「あまり気にしないでくれ。友人の仲でも、特定の女性を作らない事で有名なんだ。」

「そうなんですか?」

「ああ。だから君みたいなタイプは珍しいと思って、聞いてくるんだよ。」

柔らかい笑顔。

いつもどんな人を、連れて来るんだろう。

やっぱり綺麗で、お嬢様タイプの人なんだろうか。


「やあ、本田。」

「ああ。」

余程親しい人だったのだろうか、エスコートしていた腕は離れ、本田さんは友人との会話に、夢中になっていた。

そこへだった。

「ねえ、あなた。」

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