【R18】愛人契約

日下奈緒

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第3章 パーティー

《中》

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どこからか、女性の声がした。

「あなたよ。」

派手な髪色に、パーティー巻って言うんだっけ、派手な髪型。

化粧も濃いし、アクセサリーもじゃらじゃら着けている。

「私ですか?」

「ええ。他に誰かいて?」

私は周りをキョロキョロと、見回した。

確かに、周りには私しかいない。


「あなた、本田さんと一緒にいるようだけど、どんなご関係?」

完璧に私の事を疑っている様子。

どうしよう。

ここは本田さんと決めた、設定を守るべきなんだろうか。

「会社の秘書?」

「いいえ。」

「じゃあ、ご友人?」

「……いいえ。」

「だとしたら……」

その人は、私の耳元でこう呟いた。

「新しい、愛人の方かしら。」

私は、体が固まった。

「……どういう、意味ですか?」

「あら、隠さなくてもいいのよ。」

その女性は、ニコッと笑った。

「あの方は、一人の女性にのめり込むタイプじゃないから。」

胸がズキッと痛んだ。

「やけに、彼の事を知ってらっしゃるんですね。」

「私も、前に契約していた事があったのよ。」

なんだか、モヤモヤしてきた。

本田さんが、こんな派手な人を抱いていたなんて。


私はハッとして、首を横に振った。

本田さんが誰を抱こうと、勝手じゃない。

私には、それを嫌がる権利なんて、ないんだから。

でも……


「それなら、私の存在は貴重だって事なんでしょうか?」

「ええ?」

息をスーッと深く吸い込んだ。

「私、彼の恋人なので。」

「な、なんですって!」

これがいけなかったんだと思う。

私が勝ち誇った顔で、本田さんの近くへ行った時だ。


「危ない!」

振り返った時には、私は天井を仰いでいた。

ガッシャーンッ!

そんな音が聞こえて、私は床に頭を打ち付けていた。

「大丈夫?」

真っ先に私を心配してくれたのは、あの女性だった。


「どうした?」

本田さんが青い顔をして、駆けつけてくれた。

「ごめんなさい。何だか倒れてしまって……」

「貧血か?」

足に痛みが走る。

誰かに足を掛けられたのは、明らかだ。

「急に倒れてしまったの。びっくりしたわ。」

あの女性が、本田さんの隣で仰々しい顔をする。


きっとあの人だ。

私に足を掛けたのは。


その時だった。

私の体が、急に宙に浮いた。

「ちょっとどいてくれ。」

気づいたら本田さんに、掲げ挙げられていた。

「ほ、本田さん!」

「シッ!」

私はそのまま、近くのソファに横にされた。


「何があった?」

「何も……急に倒れてしまって……」

「嘘だ。誰かの仕業だ。」

私は知らずの内に、あの女性を見ていた。

「あいつか。」

「待って。」

あの人だって、分かっているのに。

いざとなると、怖くなる。

「本当に、自分一人で倒れたの。貧血だったかもしれない。」

そう本田さんに、言い訳をした。


「君って人は……」

何かを悟った本田さんは、ホテルの授業員に何かを伝えに行った。

戻ってきた本田さんは、私の耳元で囁いた。

「部屋を用意した。そこでしばらく休んでなさい。」

「本田さん……」

「心配しないで。」

そう言うと私をホテルの人に任せて、本田さんはどこかに行ってしまった。


心配しないでって言っても、なんだか不安を覚える。

何でだろう。

私はそのホテルに抱えられながら、エレベーターに乗った。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ……」

ホテルの人も気を遣ってくれている。

「ご主人様から、何でも意のままにと仰せつかりました。苦しい事がありましたら、何なりと仰せになって下さい。」

ホテルの人は、親切に声を掛けてくれた。

「……主人は、いつもああなの?」

「えっ?」

「ごめんなさい。知り合ったばかりで。」

なのに、主人って言うのも可笑しいんだけど。

「ええ。お優しい方ですよ。特に女性の方には。」

「そう……」

たくさんの女性に囲まれて、あの人は女に不自由しない人だ。


「このフロアです。」

着いた部屋は、最上階の部屋だった。

「えっ……本当に、ここ?」

「はい。ご主人様がここにと。」

いわゆるスイートルーム。

休むには、グレードが高すぎる。

「ありがとう。」

「鍵はここに置いておきます。」

「はい。」


ホテルの人は一礼をすると、部屋を出て行った。


私は足を引きずりながら、窓の方に向かった。

さすがスイートルーム。

見晴らしがいい。


「はぁ……」

窓の近くの椅子に座って、窓の外を見た。

そしてある事に気が付いた。

私の姿が窓に映っているのだ。

途端に顔がカーッと赤くなる。

もしかして、車に乗っていた時も、本田さんは外を眺めていたけれど、窓に映っていた私の事を見ていた?

そんな事を思うと、体まで熱くなる。


本田さんが、手を握ってくれた事、思い出した。

どんな思いで、握ってくれたのか。

胸がドキドキして、手を口元に当てた。


ああ、本田さん。

できれば、こんな形で出会いたくなかった。

もっと自然な形で、恋人として出会えたのならよかったのに。


なんて。

そんな事を思ってみても、過去はやり直せないのに。

私は、椅子から立ち上がると、寝室に行ってベッドに横になった。


また2回しか抱かれていないけれど、本田さんは熱を帯びた目で、私を抱く。

そんな事を考えていると、体がうずいていてくる。


そんな時、部屋のドアが開いた。

「本田さん?」

寝室の入り口に来たのは、彼だった。

「体は大丈夫?」

本田さんは、サッとベッドの縁に座った。

「ええ。どこも何ともないです。」

「じゃあ、歩いてみて。」

私は、本田さんの顔を見つめた。

「ほら、足を痛めていたじゃないか。」

本田さんはそう言うと、私の足を手に取った。

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