【R18】愛人契約

日下奈緒

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第4章 真実

《前》

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それから私は、勇介さんの家に泊り込むようになった。

理由は、勇介さんが家に帰してくれないからだ。


「ねえ、もう家に帰して……」

「ダメだ。規定通りのお金は、払っているだろう。」

朝から夜まで、セックス三昧。

もしかして勇介さんって、セックス中毒なんじゃないかなって、思うくらい。


「今日も自宅で仕事をするよ。書類はFAXしてくれないか。」

朝、そんな電話を毎日、会社にするようになった勇介さん。

秘書の人は、何も言わないようだけど、決していい事じゃない。

「ねえ、勇介さん。」

「ん?」

勇介さんはバスタオル一枚で、早速送られてきたFAXを見ていた。

「……お仕事、このままじゃあ、いけないわ。」

「行く事はない。俺が払うお金で、生活していけるだろう。」

なんだか怖くなって。勇介さんから顔を反らした。

「どうした?」

「……勇介さん、変よ。」

「俺が変?」

私は、ベッドから起き上がった。


「確かに、私はここに住まわせて貰って、お金も貰って……でも、愛人契約が終わったら?」

勇介さんは、急に顔を押さえた。

「……すまない。そこまで考えていなかった。」

胸が痛い。

ずっとこの生活が続くものだと、私は思いたかった。

「そうだな。君には君の生活がある。いいよ、仕事に行って。」

私はゆっくりと、バスタオルを体に巻いて、シャワー室に戻った。


本当は……

- 契約が終わっても、ここにいてほしい -


そんな言葉を、期待していたのかもしれない。


シャワーを浴び終わって、服に着替え、勇介さんの家を出た。

真っすぐ会社に向かう。

3日ぶりの会社だった。


「春日さん。」

同僚が、私の姿を見て驚いていた。

「どうしたんですか?三日も会社休んで。」

「ごめんね。ちょっと、体調崩しちゃって。」

「もう大丈夫なんですか?」

「うん。」

本当は勇介さんと、蜜日を送っていたのだけれど、そんな事口が裂けても言えない。


3日分の仕事は、意外に溜まっていて、こんな私でもいなければ回らないんだなって、少し思った。

少しでも早く仕事を進めたくて、この日は残業をした。

そんな時、三宅先輩が応援しに来てくれた。


「体調、崩したんだって?」

「……はい。」

先輩に嘘をつくのは心が痛むけれど、我慢我慢。

「はい、これのチェックは終わったよ。後は?」

「ああ……後は自分でやりますんで、大丈夫です。ありがとうございます。」

「そう。」

三宅先輩は、缶コーヒーを差し出してくれた。

「本当はさあ。契約に夢中になっているんじゃないかって、思ってた。」

「えっ……」

三宅先輩は、優しい顔をしていた。

「そうじゃないの?」

まるでそうなる事を、予感していたような。

「……実は。」

「やっぱり?」

三宅先輩は、がっかりするでもなく笑うでもなく、ただただそこにいてくれた。


「分かってたんですか?」

「契約に時間がかかっていたからね。もしかしたら、感情が入ってなのかなって思ってたの。」

「そんな~。」

私は、最初から先輩の手の内にはまっていたかと思うと、力が抜けた。

「ごめんね。騙すつもりはなかったのよ。」

「……はい。でも先輩、感情が入ったら、直ぐに終わるかもしれないって、言ってたんじゃないですか。」

「うーん……そう言う人達は多いわね。」

先輩はクスクスと、笑っていた。


「でも、相手も感情が入っていたら?」

私は、ハッとした。

勇介さんが、私の事を?

「あり得ませんよ。」

「どうして?」

「どうしてって……」


あんな完璧な紳士の人が、私のような一般人を好きになる訳がない。

「分からないじゃない?頑張ってみなさいよ。」

先輩は、私の肩を叩いた。

「もう~。先輩には、負けます。」

「当たり前じゃない!」

こうやって先輩と笑い合っていると、ほっとする。

ここ数日間、幸せだったのと同時に、この幸せが壊れるのが、怖かったから。


1時間後、先輩に手伝ってもらったおかげで、私は仕事を終える事ができた。

「ありがとうございます。帰りに、何か奢らせて下さい。」

「うわ~。仕事手伝っただけで奢って貰えるなんて。これからも、ちょくちょくお邪魔しようかな。」

「先輩ったら。」

そんな時だった。

会社の前に、勇介さんの車が停まっているのが見えた。

「どうしたの?」

「あっ、いえ……」

どうしよう。

先輩の事誘っておいて、行けませんなんて言えない。

でも先輩は、何もかも分かってくれていた。

「もしかして、お迎え?」

私は、顔を上げた。

「何よ。そうだったらそうって、言いなさいよ。」

そう言って先輩は、『じゃあね。』と言って、去って行ってしまった。

本当に。

先輩は、変なところまで、気が利く。


私は先輩の姿が見えなくなると、ゆっくりと車に近づいて行った。

窓が下がって、勇介さんが顔をのぞかせた。

「ごめん。邪魔するつもりはなかったんだ。」

「いえ。気にしないで下さい。」

私は、その車に乗った。

乗ったと言う事は、今日も一緒にいていいのだろうか。


そんな事を考えていたら、ふいに勇介さんにキスをされた。


「今日も、いいだろうか。」

どうやら、考えている事は私達一緒みたいだ。

「はい。」

窓が上がり、車が走り出すと、私達は運転手さんがいるにも関わらず、ずっとキスを重ねていた。


先輩が言っていたように、この契約がどうなるか分からない。

もしかしたら。

もしかしたら……

「何考えてるの?」

目の前で、勇介さんが私を見つめている。

「何も考えないで、俺だけを見ていて。」

好きな人にそんな事を言われて、期待しない女なんて、いるんだろうか。


私にはできない。

好きな分だけ期待してしまう。

勇介さんも、少しは私に気があるんじゃないかって。

この恋が、少しでも長く、続くんじゃないかって。


勇介さんの家に泊るようになって一週間。

勇介さんは、私の目の前に札束を一つ置いた。

「100万ある。これで、一週間契約できないかな。」

私は、目を丸くして驚いた。

「いえ、金額が高すぎます。確か一晩、10万円だったと思います。」

「じゃあ、10日分って事でいいかな。」

目の前で笑顔になっている勇介さんを見て、しまったと思った。

最初から、そのつもりだったんだ。

「……ズルいです。そんな事言われたら、断れないじゃないですか。」

「よかった。」


勇介さんは、知っているんだろうか。

本当に断れないのは、勇介さんを好きだからと言う事を。

「今日は仕事、休みなんだろう?家でゆっくりしていて。」

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