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第4章 真実
《中》
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「はい。」
勇介さんに”行ってらっしゃい”のキスをして、玄関で見送った。
仕事に行く勇介さんを見送って、仕事から帰ってくる勇介さんを迎えると、何だか結婚しているように思えてくる。
「止めよう。無駄な考えは。」
はぁっとため息をつき、私は勇介さんの家を、掃除し始めた。
結婚したら、休日はこんな事してるのかなって、ふと思ってしまった。
「だから、考えても無駄だって。」
いくら好きでも、勇介さんにとっては、一日10万円で娼婦を雇っているようなものなんだから。
それにしても。
勇介さん、毎晩毎晩私を抱いていて、飽きて来ないんだろうか。
「どうしよう。そのうち飽きられたら。」
新しい体位でも、試そうか。
って、はぁぁぁぁぁ!
私、掃除中に何を考えているの!
窓を拭きながら、私は顔を赤くしていた。
それから、どのくらい経っただろう。
掃除が終わって、お茶を飲んでいたら、チャイムが鳴った。
「はい。」
『本田勇介さんはいらっしゃるかしら?』
「今、仕事で出ていますが、どちら様でしょうか。」
『どちら様って……家政婦のくせに知らないの?』
ちょっとムッとしたけれど、我慢我慢。
勇介さんのお客様なんだから。
「少しお待ちください。」
話せば分かると思っていた。
私は鍵を開けて、玄関のドアを開けた。
そこには、毛皮のコートを着た……
「えっ……」
「どうして?」
お互いの顔を見て、驚いた。
「お母さん!?」
「どうして日満理が、勇介のところにいるの!?」
お母さんは、家の中に入り靴を脱ぐと、リビングのソファに座った。
「どういう事?どうしてあなたが、ここにいるの!?」
まるで私がここにいる事が、悪い事のように言ってくるお母さん。
「どうしてここにいるのかって、聞いているのよ!!」
お母さんに責められて、体がビクつく。
若い男と家を出て行って、それっきりだったのに。
今更、顔を合わせるなんて。
「お、お母さんこそ、勇介さんとどんな関係なの!?」
私達は、顔を合わせて睨み合った。
「どんな関係ですって?まあ、娘に言うのもなんだけど……勇介は、私の駆け落ち相手なの。」
私は、目の前が暗くなった。
勇介さんが、お母さんの相手?
私達親子から、お母さんを奪い取った相手だって言うの?
「さあ、私は言ったでしょう?あなたは?勇介の何?」
何と言われても、何て言ったらいいのか、分からない。
「勇介は恋人なんて、作らないわ。私がいるもの。」
胸がズキッとした。
- 特定の人は、作らないんだ -
それは、お母さんが勇介さんの恋人だから?
「新しい家政婦を雇った話も聞かないわね。だとしたら……」
お母さんは、ニヤリとした。
「もしかして、愛人契約?」
私はハッとした。
「はははっ!あはははっ!」
嘲り笑うお母さんを、茫然と見るしかないなんて。
「清楚な顔をして。やる事やってんじゃないの。」
その下品な笑い声に、私は悔しくて、手を握りしめた。
「止めて下さい。」
目の前にいるのは、もう私のお母さんじゃない。
若い男に目が眩んで、子供を捨てた雌豚よ。
「勇介さんは、『僕は君のもの』だって、言ってくれたわ。」
「ふふふ。」
そこでも、あの女は可笑しそうに笑った。
「本当に、純情って言いたい程に、お馬鹿な子ね。」
私は歯を食いしばった。
「今までもね。愛人契約を結んでいた女の子、同じ事を言っていたわ。」
「えっ……」
「『一緒にいたいって言われた。』『愛してるって言われた。』『結婚したいって言われた。』様々よ。」
胸の奥がズキッとなった。
私以外の女の人にも……同じような言葉を?
「でもね。勇介は結局、私から離れられないのよ。分かる?」
胸の痛みが激しくなって、私はもうその場にいられなくなった。
勇介さんから貰った100万円の札束を置いて、荷物を持って、彼の家を飛び出した。
- 特定の人は作らないって、有名でね -
嘘つき。
勇介さんの嘘つき。
いるじゃない、特定の人が。
作ろうとしているじゃない、特定の人を。
何が、恋愛に興味がないなの?
そう言って、いろんな女性を巻き込んでいるだけじゃない!
知らない間に、泣いていた。
胸の痛みを、全て押し流すように。
気づいたら、泰介のいる病院に着いていた。
「姉ちゃん。どうしたの?急に。」
頭に包帯を巻いて、一命を取り戻した泰介。
時々、腕が震えるって言っていたけれど、それぐらいの後遺症でよかった。
「……お姉ちゃんね。何だか、疲れちゃって。」
私は、泰介のベッドに上半身を放り投げた。
「姉ちゃん。頑張り過ぎたんだよ。」
「うん。」
「これからは、俺がいっぱい勉強して、姉ちゃんを楽させてやるから。」
「……うん。」
また涙が零れてきた。
勇介さんの元を離れて、お母さんとも決別してきて、何もかも失ったなんて、どうして思ったんだろう。
私には、泰介がいるじゃない。
「これから勉強の遅れた分を取り戻すよ。」
「ふふふ。」
泰介といると、まだまだ未来は明るいって思える。
そして私は、ある事に気づいた。
まだ泰介の治療費もかかる。
塾の費用に、大学進学の為のお金。
まだまだ、お金は足らない。
私は、そっと起き上がった。
勇介さんの事もあって、もう愛人契約は嫌だって思っていたけれど、どうやらもう少し、続けなければいけないみたい。
「姉ちゃん。また思いつめた顔をしている。」
「ううん。」
私は無理に笑った。
「これから泰介が大学に行くって言うのに、もっと頑張んなきゃと思って。」
「そうだな。もう少しだけ頼むよ、姉ちゃん。」
私達は、笑い合ってその日を終えた。
次の日。
私は会社で、三宅先輩に会った。
「先輩、お願いがあるんです。」
「なあに?改まって。」
私は、先輩に頭を下げた。
「先輩、他の愛人契約を、紹介してほしいんです。」
「他の人を?」
予想通り、先輩は驚いていた。
「どうして?上手くいっていたんじゃないの?」
「今は、何も聞かないで下さい。」
俯いて、暗い顔をしている私の手を、先輩は握りしめてくれた。
「何も聞かないで、他の人なんて紹介できないわ。あんなに二人、愛し合ってたじゃない。」
私は、首を横に振った。
「嘘なんです。」
「嘘!?」
「あの人、誰にでもそう言う顔をしてたんです。もう嫌なんです。」
勇介さんに”行ってらっしゃい”のキスをして、玄関で見送った。
仕事に行く勇介さんを見送って、仕事から帰ってくる勇介さんを迎えると、何だか結婚しているように思えてくる。
「止めよう。無駄な考えは。」
はぁっとため息をつき、私は勇介さんの家を、掃除し始めた。
結婚したら、休日はこんな事してるのかなって、ふと思ってしまった。
「だから、考えても無駄だって。」
いくら好きでも、勇介さんにとっては、一日10万円で娼婦を雇っているようなものなんだから。
それにしても。
勇介さん、毎晩毎晩私を抱いていて、飽きて来ないんだろうか。
「どうしよう。そのうち飽きられたら。」
新しい体位でも、試そうか。
って、はぁぁぁぁぁ!
私、掃除中に何を考えているの!
窓を拭きながら、私は顔を赤くしていた。
それから、どのくらい経っただろう。
掃除が終わって、お茶を飲んでいたら、チャイムが鳴った。
「はい。」
『本田勇介さんはいらっしゃるかしら?』
「今、仕事で出ていますが、どちら様でしょうか。」
『どちら様って……家政婦のくせに知らないの?』
ちょっとムッとしたけれど、我慢我慢。
勇介さんのお客様なんだから。
「少しお待ちください。」
話せば分かると思っていた。
私は鍵を開けて、玄関のドアを開けた。
そこには、毛皮のコートを着た……
「えっ……」
「どうして?」
お互いの顔を見て、驚いた。
「お母さん!?」
「どうして日満理が、勇介のところにいるの!?」
お母さんは、家の中に入り靴を脱ぐと、リビングのソファに座った。
「どういう事?どうしてあなたが、ここにいるの!?」
まるで私がここにいる事が、悪い事のように言ってくるお母さん。
「どうしてここにいるのかって、聞いているのよ!!」
お母さんに責められて、体がビクつく。
若い男と家を出て行って、それっきりだったのに。
今更、顔を合わせるなんて。
「お、お母さんこそ、勇介さんとどんな関係なの!?」
私達は、顔を合わせて睨み合った。
「どんな関係ですって?まあ、娘に言うのもなんだけど……勇介は、私の駆け落ち相手なの。」
私は、目の前が暗くなった。
勇介さんが、お母さんの相手?
私達親子から、お母さんを奪い取った相手だって言うの?
「さあ、私は言ったでしょう?あなたは?勇介の何?」
何と言われても、何て言ったらいいのか、分からない。
「勇介は恋人なんて、作らないわ。私がいるもの。」
胸がズキッとした。
- 特定の人は、作らないんだ -
それは、お母さんが勇介さんの恋人だから?
「新しい家政婦を雇った話も聞かないわね。だとしたら……」
お母さんは、ニヤリとした。
「もしかして、愛人契約?」
私はハッとした。
「はははっ!あはははっ!」
嘲り笑うお母さんを、茫然と見るしかないなんて。
「清楚な顔をして。やる事やってんじゃないの。」
その下品な笑い声に、私は悔しくて、手を握りしめた。
「止めて下さい。」
目の前にいるのは、もう私のお母さんじゃない。
若い男に目が眩んで、子供を捨てた雌豚よ。
「勇介さんは、『僕は君のもの』だって、言ってくれたわ。」
「ふふふ。」
そこでも、あの女は可笑しそうに笑った。
「本当に、純情って言いたい程に、お馬鹿な子ね。」
私は歯を食いしばった。
「今までもね。愛人契約を結んでいた女の子、同じ事を言っていたわ。」
「えっ……」
「『一緒にいたいって言われた。』『愛してるって言われた。』『結婚したいって言われた。』様々よ。」
胸の奥がズキッとなった。
私以外の女の人にも……同じような言葉を?
「でもね。勇介は結局、私から離れられないのよ。分かる?」
胸の痛みが激しくなって、私はもうその場にいられなくなった。
勇介さんから貰った100万円の札束を置いて、荷物を持って、彼の家を飛び出した。
- 特定の人は作らないって、有名でね -
嘘つき。
勇介さんの嘘つき。
いるじゃない、特定の人が。
作ろうとしているじゃない、特定の人を。
何が、恋愛に興味がないなの?
そう言って、いろんな女性を巻き込んでいるだけじゃない!
知らない間に、泣いていた。
胸の痛みを、全て押し流すように。
気づいたら、泰介のいる病院に着いていた。
「姉ちゃん。どうしたの?急に。」
頭に包帯を巻いて、一命を取り戻した泰介。
時々、腕が震えるって言っていたけれど、それぐらいの後遺症でよかった。
「……お姉ちゃんね。何だか、疲れちゃって。」
私は、泰介のベッドに上半身を放り投げた。
「姉ちゃん。頑張り過ぎたんだよ。」
「うん。」
「これからは、俺がいっぱい勉強して、姉ちゃんを楽させてやるから。」
「……うん。」
また涙が零れてきた。
勇介さんの元を離れて、お母さんとも決別してきて、何もかも失ったなんて、どうして思ったんだろう。
私には、泰介がいるじゃない。
「これから勉強の遅れた分を取り戻すよ。」
「ふふふ。」
泰介といると、まだまだ未来は明るいって思える。
そして私は、ある事に気づいた。
まだ泰介の治療費もかかる。
塾の費用に、大学進学の為のお金。
まだまだ、お金は足らない。
私は、そっと起き上がった。
勇介さんの事もあって、もう愛人契約は嫌だって思っていたけれど、どうやらもう少し、続けなければいけないみたい。
「姉ちゃん。また思いつめた顔をしている。」
「ううん。」
私は無理に笑った。
「これから泰介が大学に行くって言うのに、もっと頑張んなきゃと思って。」
「そうだな。もう少しだけ頼むよ、姉ちゃん。」
私達は、笑い合ってその日を終えた。
次の日。
私は会社で、三宅先輩に会った。
「先輩、お願いがあるんです。」
「なあに?改まって。」
私は、先輩に頭を下げた。
「先輩、他の愛人契約を、紹介してほしいんです。」
「他の人を?」
予想通り、先輩は驚いていた。
「どうして?上手くいっていたんじゃないの?」
「今は、何も聞かないで下さい。」
俯いて、暗い顔をしている私の手を、先輩は握りしめてくれた。
「何も聞かないで、他の人なんて紹介できないわ。あんなに二人、愛し合ってたじゃない。」
私は、首を横に振った。
「嘘なんです。」
「嘘!?」
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