社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第18話 もう忘れなよ

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どうして?あんなに、自分の意見を持っていた芹香が、お父さんの意見に屈するの⁉

私はスマホを拾い上げて、もう一度芹香と話した。

「芹香、人生諦めるの?」

芹香は、電話の奥で泣いてるようだった。

「芹香……」

『母が、施設に入るの。』


ー お母さんが若年性認知症だと -


『専門の施設だから、お金がいるみたい。』

「だからって、芹香が犠牲になる事はないよ。」

『よく考えた事だから。』

芹香の言葉が、一つ一つ重い。

自由奔放な芹香が、そこまで考えるんだから、余程の事なのだろう。


『近々、黒崎さんと会う事になっている。』

「えっ……」

『そこで、正式に結婚の話をすると思う。』

そんな!私がいるのに、勝手に結婚の話が進むなんて!

『礼奈、ごめんね。』

「どうして、謝るの?」

『私が、黒崎さんと結婚しちゃって……』

えっ?もう結婚ありきなの⁉

「待ってよ、芹香!」

『許してね、礼奈。』

そう言って芹香は、電話を切った。


私は急いで、信一郎さんに電話をした。

『礼奈?』

「信一郎さん、芹香と会うって本当?」

『ああ、今度の食事会の事か。』

食事会。そんなんで、話は終わらない。

「いつ?どこで?何時から?」

『おいおい、慌てるなよ。』

信一郎さんこそ、呑気にしてないでよ。


『気にしないで、大丈夫だから。』

「でも……」

『俺には、礼奈がいるんだから。』

信一郎さんの言葉に、ほっとする自分がいた。

「分かった。」

ここは一旦、引いた方がいい。

私は電話を切ると、ベッドに横になった。

絶対、芹香のお父さんは、結婚の話を進めてくる。

何とか、引き止めないと!


私は週末、芹香の家を見張っていた。

十中八九、食事会とかは、週末に持ってくるはずだ。

そして、11時過ぎ。

家から、芹香とお父さんが出て来た。

やっぱりそうだ。

張っておいて、よかった。


二人が車に乗ったのを見届け、私もタクシーに乗った。

「前の車を追いかけて下さい。」

「はい。」

タクシーの運転手の人は、運転が上手くて、微妙な距離を保ちながら、芹香たちの車を追ってくれる。

やがて、前の車は趣のある小料理屋に入って行く。

私はタクシーを降り、庭からその小料理屋に入って行く。

こんな泥棒みたいな事、本当はやってはいけないと思うけれど、今回だけは見逃して!


奥に奥に入って行くと、窓際の部屋に、信一郎さんがいた。

一緒にいるのは、ご両親かもしれない。

これは、本格的なお見合いの席?

胸が不安だらけになった。
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