誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –【完結】

日下奈緒

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第3部 戸惑いと、意識の始まり

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瑞樹ちゃんの声が得意げに響く。その隣で礼ちゃんがクスクス笑う。ああ、終わったんだ、と私は思った。

胸が痛い。心が張り裂けそうだった。

私だけが特別だと、あの人は言った。

でも、こんな簡単に、別の誰かに抱かれてしまう人を――どうして信じられるの?

足元がふらつく。けれど涙は出なかった。

泣いてはいけない。泣いたら負けだ。

席に戻ると、まだ同じ場所に座っていた部長が私を見た。

「篠原……?」

私は何も言わず、バッグを手に取った。

そのまま、彼に背を向けて歩き出した。

後ろから名前を呼ばれても、もう振り返らなかった。

すると、後ろから駆け寄る足音。

「紗英。」

その声に振り向かずにいると、腕を掴まれた。

「離してください……」

泣き声混じりの私の声に、桐生部長は戸惑ったように言った。

「……どうして? 俺は、本命だって……君が……」

「だったら……!」

私は彼を見上げた。頬を涙が伝うのを止められない。

「どうして他の女の子と、あんなこと……」

部長の顔が苦悩に歪む。

「俺だって、君でしたかったんだ。」

「だったら我慢してよ! お願いだから、せめて……誠実でいてほしかった……」

彼は、少し俯きながら吐き出すように言った。

「でも……本能には、勝てなかった……」

その一言に、心が凍る。

「それで、瑞樹ちゃんと……?」

「……必死に君を思い浮かべてた。」

「……最低。」

私は言葉を絞り出した。

「私が好きなのは、"私だけを見てくれる人"って言ったでしょう?」

部長は何も言えず、黙ったままだった。

私はもう一度、腕を振り払った。


「さよならです、部長。」

私が背を向けようとした瞬間、彼は私の手首を掴んだ。

そして、歩道から一歩外れたビルの陰へと私を連れていく。

「部長、やめて――」

でも次の瞬間、強く、ぎゅっと抱きしめられた。

「離さない。」

低く、震えるような声。その言葉が胸に突き刺さる。

「……どうして……そんなこと……」

「もう、他の女とはしない。」

耳元で囁かれたその言葉が、逆に私の涙を誘う。

「……うそ。だって、今日……」

「違うんだ。あれは――いや、言い訳にしかならないな。」

部長の腕に力がこもる。

「君だけを想う。……本当に、君だけを。」

まるで自分自身に言い聞かせるように、彼は繰り返す。

私は何も言えずに、ただその胸の中で震えていた。

本気で好きだから、こんなにも苦しい。
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