欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

日下奈緒

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6、禁断の温泉宿、貸切の夜

貸切風呂、揺れる心

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通されたのは、落ち着いた雰囲気の和室だった。床の間には季節の花、障子の奥には湯けむりがちらちらと見える。

「ここ、貸し切り露天があるんですよ。」

そう言って、冬馬さんが障子を開けて見せてくれた。湯船の縁には灯りがともされていて、幻想的な雰囲気。

「すごい……」

「でしょ? 一人じゃもったいないなって。」

どうして、そんなことまで——。

「何飲みます?」

「ビールがいいです。」

グラスに注がれた泡が、くすぐったいほど柔らかかった。

私たちは並んで座り、湯けむり越しに乾杯した。

「彼氏、いるんですか?」

「いえいえ。いたら一人で旅なんて来ませんよ。」

笑ってごまかしたけれど、内心少しだけ寂しさがよぎった。

「冬馬さんは?」

「俺もいないですよ。……今は。」

沈黙が落ちた。でも、それは気まずさじゃなく、何かが静かに動き出す予感のようだった。

その時、視線が重なる。

お互い、もう“ただの旅の客”ではいられなくなっていた。

ほろ酔いで、体も心もふわふわしていた。

「一緒に入ります?」

突然の誘いに、グラスを持つ手が止まる。

「ん?」

「二人きりで入りましょう。」

いたずらっぽく笑う冬馬さんに導かれ、私はそのまま露天風呂へ。

湯気に包まれながら、湯に足を入れると、思わずため息が漏れた。

「気持ちいいですね……」

隣に座る冬馬さんは、思った以上に引き締まった体をしていた。肩幅もあって、どこか頼もしい。

私は湯に肩まで沈んでいたけれど、のぼせてきたのか、ふいに湯船の縁に腰をかけた。

「ふぅ……」

濡れたタオルを体に巻いてはいたけれど、透けて肌が浮かび上がる。

そんな自分の姿に気づいた時、冬馬さんが言った。

「綺麗だな。」

その言葉に思わず頬が熱くなる。

彼がゆっくりと立ち上がる音がして、私は思わず視線を落とした。

心臓が、どくん、と跳ねた。

冬馬さんが、今、確かに男として近づいてくる。

私のタオルが、するりと落ちた。

その瞬間、冬馬さんの目が真剣な色に変わる。

肌に彼の吐息がかかり、鼓動が跳ねた。

「紗月さん……俺、止まれないかもしれません。」

そっと触れた指先は、まるで大切な宝物に触れるように優しい。

唇が鎖骨を辿り、私は小さく息を漏らした。

「……うん、いいよ。」

そう言った途端、冬馬さんは私を抱きしめ、体を重ねてくる。

ぴたりと合わさった体が熱を帯びて、一気に距離が消えた。

「本当に綺麗です……紗月さん。」

まっすぐな声が胸を打つ。

ゆっくり、でも確かに。彼の体温が私の奥に流れ込んでくる。

思わず爪を立てそうになった肩に、愛しさが募っていく。

「俺、本気だから。」

切ない熱情が伝わってくる。

「もう、我慢できない。」

激しく体をぶつけると、冬馬さんの熱が私の中に届いた。

「ああ……」

私達は、激しく唇を重ね合わせた。
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